脳と発達
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9 巻, 1 号
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  • 大田原 俊輔
    1977 年 9 巻 1 号 p. 2-21
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    小児のてんかんにおける年齢依存性の検討は, てんかん一般の病態生理の追究に重要なばかりでなく, 発達神経学の領域にも寄与するところが大きいものと期待される.そこでこれらの問題を集約的に内包する「年齢依存性てんかん性脳症」をとりあげ, とくに発達的視点から行なった研究につきのべた.
    1) West症候群, Lennox症候群に, 著者が提唱したearly-infantile epileptic encephalopathy with suppression-burst (E.I.E.E.) を加え, 3者を年齢依存性てんかん性脳症と総括した.
    2) これらは各々, 特徴的な臨床像, 脳波像をもち, 明瞭に区別される臨床単位であるが, (1) 特定の好発年齢, (2) 特異な短い発作, (3) 激烈な脳波異常, (4) 原因の多様性, (5) 高率の知能障害の合併, (6) 難治で, 予後不良, という共通の特徴をもつ.
    しかしその好発年齢がE.I.E.E.が新生児期から生後3ヵ月, West症候群が乳児期後半, Lennox症候群が幼児期という一連のsequenceを形成することが特異である.これらの時期と, 著者の正常小児における神経生理学的発達についての研究で明らかにした発達段階との対応を示し, その症状発現と中枢神経系の発達段階が密接に関連することを示唆した.
    3) 推定原因および基礎疾患を詳細に検討したが, 3者いずれも多様であり, 共通の成因が示唆された.このような共通の多彩な原因が, 3者それぞれに特異な臨床像, 脳波像を惹起するとすれば, 発症機序に関連する共軛因子は特定の年齢ということが出来, 発育期にある脳の各々の特定の発達段階に加わった, 多様な外因に対する年齢特異的なてんかん性反応型式と考えられる.これら3者が相互に移行することもこれを裏付ける事実である.
    4) 年齢発達に伴う3者の変容, 移行に関する諸問題について, 長期間の追跡研究を基礎に検討し, これらの移行時期もまたcriticalであることを指摘した.そして, これらの予後が相互移行の問題につよく関連することを明らかにした.
    5) West症候群とビタミンB6との関係についてその大量投与をこころみ86例中8例 (9.3%) において発作の抑制とhypsarhythmiaの消退をみとめたことから, 病態生化学的意義を考察した.
    6) Lennox症候群の発作時脳波, 睡眠脳波にかんする検討から, 病態生理の中核として視床非特殊核の意義を明らかにした.終夜脳波研究から, この症候群の病態生理と睡眠機構との密接な関連を示し, さらにこれと関係し, benzodiazepine系薬剤の一定量以上の投与により出現する特異なminor seizuresを記載した.
    7) てんかん性脳症では高率に知能障害を合併し, さらに発作の存続により知能荒廃を来すことも重要である.その神経機序として, 視床周辺の意義を強調した.
    知能荒廃の神経機構の一面を解明する目的で, West, Lennox両症候群の夫々46例, 38例につき視覚誘発電位を応用し, 系統的検討を加えた結果, 正常児に比しその頂点潜時の延長を示すものが多いこと, しかも継時的に追跡すると, 知能荒廃過程と相関して延長する傾向をみとめた.
  • 黒丸 正四郎
    1977 年 9 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    1943年, Kanner Lが初めて早期幼児自閉症を記載してから約20年間, 本症の診断基準をめぐって多くの議論が沸騰し, また, いろいろの病型も報告された. 1960年以降, 20年以上たって, 本症の追跡調査や治療効果の判定が行なわれるにつれて, 果して自閉とは何であるかというその本質が明らかになってきた.ことに言語の発達のない病児の予後が悪い点から, 本症における言語の問題が重要な課題となってきた. 1967年Rutter Mは自閉症児と発達性失語をもつ子供の比較研究から, 本症には言語機能のうちの認知の面に重大な欠陥があることを指摘した.これはきわめて重要な示唆と考えられる. 著者はこれまで自閉症児の行動をもっぱらethologyの立場から追究した.自閉行動を例えば運動のリズムといったような時間的系列temporal sequenceと, 一方, 意識の単なるalertnessから志向intentionalitéとか認知cognitionに到る意識の空間的系列, spatial Sequenceを枠組みにして分析すると, 自閉症児は既に1~2才という早期から, 周囲の現実的状況に対して, 生命的リズムをもって生々と適応してゆくための認知に重大な欠陥があることがわかった.病児が対人的に疏通性を欠き, 対話のできない人格に発達してゆくのは, かかる根源的欠陥によるものと考えられる.しかし, 何れもまだ仮説の域を出ないので, 将来の検討が必要である.
  • その評価と意義
    鈴木 昌樹
    1977 年 9 巻 1 号 p. 31-33
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    The term “soft neurological signs” is usually applicable to the signs of minimal brain dysfunction, which may not be demonstrated by classical neurological examinations. Especially, the signs of minor motor dysfunction are stressed, but those of perceptual disorders, language disabilities, or behavior disorders should be also included in soft neurological signs.
    The signs of minor motor dysfunction may be classified into motor incoordination, associated movement (synkinesia), choreiform movement, motor impersistence, and so on. It should be mentioned that most of them are regarded as common neurological signs in adult patients.
    On the other hand special neuropsychological tests such as WISC performance test, Bender Gestalt test, Goodenough Draw-a-Man test, Frostig developmental test of visual perception, and ITPA may be generally applied as the examinations of perceptual disorders and language disa-bilities in children. However, the signs of percep-tual disorders and language disabilites should be essentially placed under the category of agnosic, aphasic, or alexic defects, which are also common neurological deficits in the adults.
    Thus, most of the soft neurological signs may be included in general neurological signs. However, in children, they may always exist in the earlier ages, and disappear or change in the course of development. Therefore, it may be often difficult to evaluate the normal ranges of soft neurological signs, which will be discussed in this symposium.
    Another important problem to be discussed is that the presence of soft neurological signs do not always indicate organic brain damage. Some-times, it may merely show delay of maturation. In addition, even if organic brain damage exists, the higher cerebral functions of this kind may be compensated and tend to improve, because the functions of developing brain may often possess “plasticity”.
    Finally, it should be also emphasized that the assessment of soft neurological signs may be related directly with the procedures of rehabilitation or educational therapy for the children.
    The problem of soft neurological signs should be one of the most important problems in pediatric neurology, which may be the integrations of adult neurology, and developmental neurology.
  • 北原 佶, 松井 晨, 松島 昭広, 許斐 昭史, 高田 邦安, 豊福 照子
    1977 年 9 巻 1 号 p. 34-47
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    soft neurological signsとして用いられている運動面の項目について, 運動の巧緻性・姿勢保持持続の年齢的発達を中心に検討した.対象は正常生活を送っていると判断された4~12才の幼稚園児・小学生345名である.これに病的症例として, いわゆる学習障害児16名, てんかん児15名, 精薄児6名とを比較検討した.
    1) 追視時の頭部回旋は7才以上でもみられたが, 9才以上では頭部回旋の随意的な抑制が発達する.
    2) 上肢回内回外運動時の随伴運動では, 上腕外転, 対側肢の鏡像運動は12才までみとめられた.肘の屈伸運動は8~9才で少なくなってくる.
    3) 20秒片足立ちは, 8才以上に急速に可能となった.片足飛びは7才以上で全員可能だが, 着地域・リズムをも考慮すると年齢差がみられた.
    4) choreiform movementは正常児でもよくみとめられ, 年齢とともに減少する.choreiform movementの量的評価基準を今後とも明確にする必要があると思われた.
    5) motor impersistenceでは閉眼・閉眼舌挺出・開口持続は5才以上で検査可能であり, 年齢差も少なかった.側方注視・視野検査では学童でも注視中断する者が多くみられた.
    6) 正常コントロールと病的症例との点数による比較では, 学習障害児は正常児の境界線にくる傾向を示し, 運動発達の遅れを示しやすいと思われた.てんかん児は正常児と同じ傾向を示し, 精薄児は高い点数を示した.
  • 小川 敏郎, 内海 康文, 村瀬 溥太郎, 有泉 基水, 馬場 一雄
    1977 年 9 巻 1 号 p. 48-57
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    1) 6才から9才までの学童523例 (男児278例, 女児245例) についてロンベルグテスト, diadochokinesis and associated movement, つま先歩き, かかと歩き, 片脚立ち, 片脚跳び, 不随意運動の存否, choreiform movement, 眼球運動などのsoft neurological signsの検査を行なった.このうち片脚立ち, 片脚跳び, つま先歩き, かかと歩きなどの運動の達成時期は6才以前であった.diadochokinesisは8~9才頃習熟してきて, これと相前後してassociatedmovementの消失がみられるようになり, 大略9才から10才頃完全に消失してゆくと推定された.
    2) soft neurological signs陽性の判定は5%-ile値以下とした.soft neurological signsの陽性率は年齢とともに減少していた.
    3) soft neurological signsと既往歴の関係では周生期異常のある小児に陽性率が高い傾向がみられた.
    4) soft neurological signs陽性症例のfollow upの結果, soft neurological signsは年齢が長ずるにつれ大部分は消失していったが, 心理テストで異常を示すものが比較的多く認められた.
    以上の成績より就学児のsoft neurological signsは入学時の健康診断の中でroutineに行なうべき検査であり, 1項目でも陽性を示した学童はさらにfollow upする必要があり, 同時に, 脳波検査, 心理テストなどの検査をも行なう必要がある.
  • visual perceptionの障害
    森永 良子
    1977 年 9 巻 1 号 p. 58-66
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    soft neurological signsの一つとされるvisual perceptionの障害は, 言語性・非言語性能力にあたえる影響が大きいが, とくに「読み」「書き」障害との関連が深い.
    心理神経学ではvisual perceptionの検査は, 学習能力障害 (learning disabilities) 診断の重要な手がかりである.一般に学習能力障害の示す特徴として,
    1) 学習能力あるいは行動が, borderline……連続的な概念としての, 正常・異常の中間領域を示す.
    2) 学習能力にdiscrepancyがみられる.すなわち, a) perceptionの障害, b) 知的な能力間のアンバランス, c) 知能と学業成績のアンバランスを示すことがあげられる.
    いわゆるsoft neurological signsのsoftの概念は, これらと重なりあうものと考えた.つぎにvisual perceptionの障害が影響をあたえる読み書き障害すなわち視覚言語の障害は, その国の言語系により出現の形が異なってくる.
    日本語は表音文字である二種類の (かな) と表意文字である (漢字) が日常に使用されている. (かな) (漢字) の日本文字による文字完成法を用いて視覚性言語障害の発達的検討を試みた結果
    1) 発達的に失点の低下がみられた.
    2) 男子に失点が高く, 性差があきらかであった.
    3) (漢字) より (かな) に失点が高かった.
    以上の結果を得たので, visual perceptionの障害を中心に, 日本語の視覚言語の障害の特性について, あわせて検討をおこなった.
  • congenital ocular motor apraxiaと「横目づかい症候」について
    土屋 清一, 関 亨
    1977 年 9 巻 1 号 p. 67-73
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    小児眼科ことに神経眼科的立場より, 眼に現われるsoft neurological signsとして, 今までに, 斜視, 弱視, 先天性眼球振盪症, congenitalocularmotorapraxiaなどがあげられている.今回, 著者らはcongenitalocularmotorapraxiaと, これとの関連で最近注目されはじめてきた「横目づかい症候」の二つをとりあげ, soft neurological signsとの関連において検討を試みた.
    「横目づかい症候」とは, 一種の異常頭位であり, その特徴は, テレビなどを熱中して見ているとき, 無意識に顔を一方に向け, 反対側を凝視する「むき眼位」をとるが, 通常の場合は, このような異常頭位はとらない.また, 眼位, 眼球運動を含め眼科的には特別な異常を認めない.
    congenital ocular motor apraxia 5症例と「横目づかい症候」60症例について, 眼科的所見, 小児神経学的所見などについて比較検討し, 両者は全く別個のものであり, congenital ocularmotor apraxiaはsoft neurologica lsignにあてはまるが, 「横目づかい症候」は, それにあてはまらないものであるという結果を得た.
    また, 「横目づかい症候」の原因に関して, 外眼筋のほかに, むしろ頸部の筋群の関与についても考慮する必要があることを述べた.
    そして, 小児眼科的立場として, congenital ocular motor apraxiaのほかに, 斜視, 先天性眼球振盪症, 弱視などについて, soft neurological signsとの関連で, 今後小児神経科との共同研究が必要であることを強調した.
  • 白瀧 貞昭
    1977 年 9 巻 1 号 p. 74-78
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    小児57例, 成人100例の正常脳血管撮影静脈相を用いて直静脈洞の形態に関する計測を行ない検討した.小児においてはInion-Opisthionの距離が頭蓋の前後径に比して有意に大きかったが, その他の計測値については有意差はみられなかった.小頭症の分類および予後の推察に直静脈洞の分析が有用である点に言及する.
  • 原田 正純, 藤野 糺, 樺島 啓吉
    1977 年 9 巻 1 号 p. 79-84
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    水俣地区で生まれた住民の1935年から1971年までの保存臍帯97例についてメチル水銀を分析した.0.51ppm以上0.9gppmまで16例, 1.0以上1.99ppmまで9例, 2.0ppm以上のもの12例で最高5.28ppmであった.対象の0.11±0.03ppmに比較して高値である.
    1954年から1964年の間に集中的に高値を示すものが多くみられ, 環境汚染のピークとよく一致した.
    臨床症状との関係では先天性水俣病, 精神遅滞群, 後天性水俣病などの患者に高値を示すものが多かった.
    臍帯中メチル水銀は胎生期の汚染のトータルを示すものではないがその診断には有効であり, この地区の精神遅滞群は先天性水俣病の一つの型と考えられた.また, 胎内での汚染が後天性水俣病の発生にも何らかの関係があることも疑われた.
  • 前川 喜平
    1977 年 9 巻 1 号 p. 85-86
    発行日: 1977/01/01
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
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