小児のてんかんにおける年齢依存性の検討は, てんかん一般の病態生理の追究に重要なばかりでなく, 発達神経学の領域にも寄与するところが大きいものと期待される.そこでこれらの問題を集約的に内包する「年齢依存性てんかん性脳症」をとりあげ, とくに発達的視点から行なった研究につきのべた.
1) West症候群, Lennox症候群に, 著者が提唱したearly-infantile epileptic encephalopathy with suppression-burst (E.I.E.E.) を加え, 3者を年齢依存性てんかん性脳症と総括した.
2) これらは各々, 特徴的な臨床像, 脳波像をもち, 明瞭に区別される臨床単位であるが, (1) 特定の好発年齢, (2) 特異な短い発作, (3) 激烈な脳波異常, (4) 原因の多様性, (5) 高率の知能障害の合併, (6) 難治で, 予後不良, という共通の特徴をもつ.
しかしその好発年齢がE.I.E.E.が新生児期から生後3ヵ月, West症候群が乳児期後半, Lennox症候群が幼児期という一連のsequenceを形成することが特異である.これらの時期と, 著者の正常小児における神経生理学的発達についての研究で明らかにした発達段階との対応を示し, その症状発現と中枢神経系の発達段階が密接に関連することを示唆した.
3) 推定原因および基礎疾患を詳細に検討したが, 3者いずれも多様であり, 共通の成因が示唆された.このような共通の多彩な原因が, 3者それぞれに特異な臨床像, 脳波像を惹起するとすれば, 発症機序に関連する共軛因子は特定の年齢ということが出来, 発育期にある脳の各々の特定の発達段階に加わった, 多様な外因に対する年齢特異的なてんかん性反応型式と考えられる.これら3者が相互に移行することもこれを裏付ける事実である.
4) 年齢発達に伴う3者の変容, 移行に関する諸問題について, 長期間の追跡研究を基礎に検討し, これらの移行時期もまたcriticalであることを指摘した.そして, これらの予後が相互移行の問題につよく関連することを明らかにした.
5) West症候群とビタミンB
6との関係についてその大量投与をこころみ86例中8例 (9.3%) において発作の抑制とhypsarhythmiaの消退をみとめたことから, 病態生化学的意義を考察した.
6) Lennox症候群の発作時脳波, 睡眠脳波にかんする検討から, 病態生理の中核として視床非特殊核の意義を明らかにした.終夜脳波研究から, この症候群の病態生理と睡眠機構との密接な関連を示し, さらにこれと関係し, benzodiazepine系薬剤の一定量以上の投与により出現する特異なminor seizuresを記載した.
7) てんかん性脳症では高率に知能障害を合併し, さらに発作の存続により知能荒廃を来すことも重要である.その神経機序として, 視床周辺の意義を強調した.
知能荒廃の神経機構の一面を解明する目的で, West, Lennox両症候群の夫々46例, 38例につき視覚誘発電位を応用し, 系統的検討を加えた結果, 正常児に比しその頂点潜時の延長を示すものが多いこと, しかも継時的に追跡すると, 知能荒廃過程と相関して延長する傾向をみとめた.
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