この第3編においては, 症候論, 治療, 予後, 予防, 小児神経学研究法, 正常小児のCriteria, “各種発達指標の有効性の相対的評価法” 等の局面における集団小児神経学の役割について論じた.
1) “教師評定による児童の行動の相対的評価法” を例として, 小児神経疾患に伴う症候の評価方法について論じた.一般に, 小児神経疾患 (脳障害児) は特異的な症候を示すことが少ないので, これらを客観的に評価するためには, どうしても “集団” の中で相対的に評価するというやり方をとらざるをえないであろう.
2) 正常小児のCriteriaについて.小児神経疾患 (脳障害児) についてのスクリーニング・テストはまた, “神経学的な観点からの正常小児” を一般小児集団の中から抽出するためのスクリーニング.テストとしても用いうる (そのためには選別の水準を変動させればよいのである図1).これも簡易検査の機能の一つなのである (表4, 3a).正常小児 (6-12才) の簡便でしかも客観的・数量的なCriteriaを, 筆者らの試案として表3に示した.
3) 臓器別に, 類似の発達指標相互間でそれらの有効性の相対的評価を行なうための方法は, まだ確立されていない.そこで筆者らは, 各種発達指標の有効性の指標間相対評価のインデックスとして, 次に示すような “茨城インデックス” を考案した.
茨城インデックス (I.I.) =V. (年齢別平均発達速度) /S.D. (年齢別標準偏差
1.1.値が高値を示すほど, その臓器の統合的発達指標として, より有効であるとみなされる.
4) “良性乳児痙攣”, “熱性痙攣” を例として, 小児神経疾患の予後の研究法について考察した.小児神経疾患の予後に関する研究においては, 大学病院へ受診した患児を対象とするのでなく, (1) 一般の小児集団を対象とする集団検診において発見された症例を, (2) 前方視的に追跡調査しなければならない.
ところが, 通常集団検診において発見された症例を長期にわたって追跡することは困難である.そこで筆者は便法として, 次のような研究方法を提案した.集団検診で発見された症例の1人1人について, いくつかの観点からマッチさせた症例を病院受診児の中から選定し, それらを研究対象とする方法である.マッチさせるべき観点 (指標) の一つとして第2編において述べた脳障害児のスクリーニング・テストを用いることが考えられる.すなわち, 表4の第5) b) 項に示す如く, 簡易検査は研究対象集団の質をコントロールするための指標として用いうることになる.
5) 集団小児神経学は, さまざまな方法によりながらも, 小児神経疾患を予防することをこそ, その第一義的な目的としている.
6) 表4第5) c) 項に示す如く, 小児のための簡易検査は, 各種の発達研究を厖大な小児集団に徴しつつ能率よく推進させるのに役立つであろう.
7) 治療の局面における集団小児神経学の役割り.例えば, 問題行動児のうちのあるものに対しては, 薬物療法や個別的心理療法よりは, 治療キャンプ等に収容してグループ・ダイナミクスの中で鍛えたほうがより有効な場合もあると考えられる.
以上のことから看取されるように, 集団小児神経学は現在までのところ小児神経学の総論の部分を充実させ, また小児神経疾患 (脳障害児) の集団検診の技術を開発するという二つの側面において, いくらかの成果を挙げているにすぎない.
集団小児神経学的な発想と方法は, 従来の小児神経学の中にもその萌芽を見出しうるものであり, 今後上述のような諸問題についての意識的な取組みを促進することを狙いとして, “集団小児神経学” を提唱したのである.
今後臨床小児神経学と集団小児神経学とは互いに影響を及ぼしあいながら, 混然一体となって発展していくべきものであると考えられる.
多くの小児神経科医からの集団小児神経学へのご批判と, そして何よりも本領域へのご参加を切望してやまない.
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