オレオサイエンス
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18 巻, 10 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
特集総説論文
  • 早川 典子
    2018 年18 巻10 号 p. 483-489
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/02
    ジャーナル フリー

    伝統的な日本の絵画は,絹や紙などを基底材とし,顔料が表面を覆われずに膠で接着されているなど,脆弱な材料で構成されている。従来の修理技術者はこれらを経験と勘を元に選択した伝統的な材料と手法で処置してきている。本報告では,伝統的接着剤の一つで,可逆性のある接着剤の特性解析について最初に報告する。「古糊」と呼ばれ,それぞれの修理工房で10年程度保存することで調製されるこの接着剤は,高い柔軟性や再剥離性,カビが生えにくいなどの特徴的な性質を持っている。近年の研究では,この化学的性質と生成機構について明らかにし,この結果に基づいて古糊様多糖の調製に成功した。一方,第二次大戦後にポリビニルアルコールやアクリル樹脂などの合成樹脂が剥落止め材料として日本絵画の修復に広く使用されていた。これらのうちいくつかの事例において,PVAが劣化し,絵画上から除去不可能な状態に変質している場合がある。本報告では,PVA分解酵素を使用することで,劣化したPVAの除去が可能になったことについても報告する。このように,この分野における科学的なアプローチは伝統的な手法だけでなく近年の事例も含めて遂行され,絵画の修復に役立てられている。

  • 金山 正子
    2018 年18 巻10 号 p. 491-498
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/02
    ジャーナル フリー

    歴史資料を修復する際にもっとも心がけなければならないことは,手を加えすぎず必要最小限の処置にとどめるということである。なるべく見た目が変わらないように現状維持するのが,日本を含めた世界の文化財修復の基本方針である。年代を経た資料を現代の我々が今にある材料を使って修復する際に,伝統的な技法をできるだけ引き継ぎながら,作業効率をよくするために便利な道具や新しい技術を組み合わせることを積極的に検討するのは望ましいことである。ただし,新しい材料や薬品を使用する際には,長期的な視野で,資料に悪い影響を与えないものかどうかを慎重に判断しなければならない。また,修復技法の選択肢が増えた場合に,どの資料をどのような技法で修復するか,判断の基準を明確にする必要がある。修復が完了すると,修復記録は重要な財産となり,後世に引き継がれる大切な資料の履歴となる。

  • 白岩 洋子
    2018 年18 巻10 号 p. 499-505
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/02
    ジャーナル フリー

    私たちにとって最も身近な記録方法の一つとして存在する写真。多くの人が家族の写真やアルバムを所有しているだろうが時代を経てその形式も変化してきている。21世紀になってからデジタルカメラが広く普及し,写真は「もの」としてよりも「イメージ(画像)」として捉えられるようになった。現在,写真の撮影といえばデジタル方式が主流となり撮影したものが必ずしもプリントとして残されなくなっている。このような状況の中で,形ある「もの」として存在する写真の文化的,歴史的価値が注目され,評価される時がきている。ところが,写真の価値は写された内容や情報にあることも多く,積極的にデジタル化はされてもオリジナルの写真をどのように保存,管理していくかについては様々な課題がある。写真はその短い歴史にも関わらず,科学や産業の発展と共に常に変化し発展し続けてきたことで多くの技法や種類が存在している。技法によって材料も異なるため,保存修復においてはそれぞれに対応して挑まなければならないという難しさがある。ここでは写真の価値,保存修復を遂行する際に重要な技法の識別,劣化の種類を述ベる。またプリントに対するいくつかの処置方法を紹介する。

  • 沓名 弘美, 沓名 貴彦
    2018 年18 巻10 号 p. 507-513
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/02
    ジャーナル フリー

    臙脂は,紀元前2世紀に西域より中国にもたらされた赤色の色料である。初期の臙脂は,ベニバナを原料としてつくられた化粧品であった。7世紀頃には,ラック色素を円形の薄い綿に染みこませた綿臙脂がつくられるようになった。綿臙脂は,近代に至るまで,化粧品,医薬品,美術工芸の色料として用いられていた。現代では,綿臙脂の製造が廃れ,製法も不明である。しかし,古典的な美術工芸や文化財の保存修復では,臙脂は重要な材料であり,その再現が強く求められている。筆者らは,文献の研究,実地調査,科学分析と実験によって,綿臙脂の再現を目指している。唐代の医学書の『外台秘要方』には,綿臙脂の詳細な処方が記載されている。その処方に基づき,筆者らは,各材料の同定,分量の解明をすすめ,紫鉱(ラック)と数種の漢方の薬種を用いて,臙脂の試作を行った。本稿では,臙脂の歴史的な変遷を解説し,試作の過程について報告する。

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