NMR分光法は,リン脂質の研究や分析において広く利用されている測定法である。水素,炭素及びリン核のNMRが用途に合わせて用いられるが,定量試験においては,リン脂質をクラス毎に分離し て観察できる31P NMRが特に重要で ある。31P NMRによるリン脂質の測定には50年の歴史があり,既に 多くのナレッジが蓄積されている。今回我々は,低分子有機標準物質の純度を決定する方法として普及しつつある1H NMRの方法論を31P NMRによるリン脂質の定量試験法に採り入れることで,市販の極性脂質に 含まれるリン脂質(主にグリセロリン脂質)を個別かつ精確に定量することができた。その研究結果をふまえてリン脂質の定量試験について解説する。
脂質など食品試料中の成分分析には,GC やLC,LC/MS が広く用いられている。一般的には,除タンパク,誘導体化など分析対象に応じて試料を前処理し,分析に供する。
近年,質量分析のイオン化法として,直接イオン化法,アンビエントイオン化法の研究が活発に行われている。そのイオン化法の一種であるDART(リアルタイム直接分析;Direct Analysis in Real Time)を用いた質量分析(DART-MS)では,ほとんどまたは全くサンプルの前処理を行うことなく食品試料を分析することができる。本稿では,DART-MS を用いた質量分析により各種脂質分析を行った事例を紹介する。
質量分析計によるメタボローム解析技術を用いて,食品をはじめとする身の周りの試料を分析すると,存在は確認できるがすぐには正体が判明しない未知の成分が多数含まれていることが分かる。これらの未知成分の正体を同定・推定することは,新規の有用成分やバイオマーカーの発見,生命現象の理解などに役立つと期待される。本稿では,質量分析計によるメタボローム解析の概要と課題を紹介し,成分推定の新しいアプローチとして,成分の試料特異性(検出実績)が分かるデータベース「食品メタボロームレポジトリ」を紹介する。