液体界面に形成されるソフトな分子薄膜は,エマルションや生体膜などの機能の解明にむけたモデル系として有用な研究対象である。微小角入射X線を利用した反射・回折測定は,ソフト界面膜の構造研究にとって非常に強力な実験手法の一つである。実験室のX線と比較して桁違いに強い放射光をもちいると,短時間での測定が可能となり,刻々と時間変化する構造を追跡することができる。本稿では,放射光をもちいたソフト界面膜の動的構造測定について解説した後,本手法をもちいて明らかにしたタンパク質の界面吸着機構について紹介する。
中性子反射率法は干渉を利用して深さ方向に対する屈折率分布を評価する手法で,数nmから数百nmの薄膜が主な測定対象となる。本稿では,中性子反射率の測定原理について,特に界面における偏析層の観察を念頭に解説した後,実際に気液・液液・固液の各種界面における測定例を示す。
ポリマーブラシは高分子が関わる多くの界面現象に共通するモデルである。荷電高分子ブラシは静電相互作用に起因して非荷電高分子ブラシとは異質な界面特性を示し,水性環境において優れた分散安定性,潤滑性,防汚性を発現する。その分子機構の解明には,荷電高分子ブラシの水性環境下における水和膨潤状態の理解が不可欠である。中性子反射率法はポリマーブラシの膨潤状態を鉛直方向の分子鎖密度プロファイルとして非破壊で定量的に計測できる手法である。本稿では,分子構造や電解質との相互作用により変調される高分子電解質ブラシ,双性イオン高分子ブラシ,高分子電解質ブラシ/高分子電解質複合膜の水和膨潤状態を中性子反射率法で計測した研究を解説した。
一般に,材料表面および界面におけるエネルギー状態はその内部とは異なっている。表面および界面における分子鎖の凝集状態を理解することは,高機能・高性能な高分子材料の設計を行う上で重要である。中性子反射率法は表面・界面近傍における密度分布をサブnm以下の空間分解能で評価できる。本総説では,中性子反射率法を中心に用いて解析した空気,液体,異種固体界面における高分子鎖の凝集状態と,それらの凝集状態から発現する表面・界面の物性・機能について紹介する。