日本温泉気候物理医学会雑誌
Online ISSN : 1884-3697
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74 巻, 4 号
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Editorial
原著
  • 下堂薗 恵, 二宮 宏二, 松元 秀次, 宮田 隆司, 衛藤 誠二, 渡邊 智, 石澤 太市, 谷野 伸吾, 川平 和美
    2011 年 74 巻 4 号 p. 227-238
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
     無機塩含有人工炭酸ガス泉入浴(無機塩炭酸ガス浴:41°C、10分間の入浴で、無機塩類濃度を約64ppm、炭酸ガス濃度を160-180ppmに調整)が健常被験者の循環動態や身体の柔軟性と筋硬度、自覚症に及ぼす影響について淡水浴入浴および入浴なしと比較検討した。
     深部体温と皮膚血流は入浴後に有意に上昇し、それらの増加は無機塩炭酸ガス浴が淡水浴より有意に大きかった。
     無機塩炭酸ガス浴後の身体柔軟性は、淡水浴や入浴なしの対照と同様の結果でほとんど変化がなかった。僧帽筋の筋硬度は無機塩炭酸ガス浴、淡水浴共に、浴後15分および30分で低下したが、入浴無しでは変化が無かった。無機塩炭酸ガス浴、淡水浴共に浴後15分における僧帽筋の筋硬度は入浴前より有意に低下していた。広背筋における筋硬度は無機塩炭酸ガス浴、淡水浴共に、浴後15分および30分で低下したが、入浴無しでは変化が無かった。浴後15分および30分における広背筋の筋硬度は無機塩炭酸ガス浴においてのみ有意に低下した。
     無機塩炭酸ガス浴、淡水浴共に浴中の肩の等尺性運動によって僧帽筋の筋緊張の低下が得られ、その低下は淡水浴後より無機塩炭酸ガス浴後が大きかった。しかし、これらの変化は統計学的有意には至らなかった。
     入浴による自覚症の改善は、淡水浴および無機塩炭酸ガス浴の双方で得られたが、「筋肉の緊張」、「関節の動かしやすさ」、「リラックス感」の項目において淡水浴後より無機塩炭酸ガス浴後がより有意に改善した。
     淡水浴と比較して、無機塩炭酸ガス浴は筋緊張や自覚症の改善においてさらなる改善効果をもたらした。筋緊張への無機塩炭酸ガス浴のみの効果と等尺性運動との併用効果について確認するためには、さらなる研究が必要である。
  • 大塚 吉則, 猪熊 茂子, 杉本 壽
    2011 年 74 巻 4 号 p. 239-245
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
    日本温泉気候物理医学会は日本救急医学会の協力を得て、入浴関連事故を解析した。日本国内の 212の救急救命センターに質問紙を送付し、救急で運ばれてくる入浴関連事故数、事故者の予後、死後の解剖や死後の画像検査を行っているのかどうかを調査した。事故者は全部で 782人であり、特に高齢者で冬期間に多発していた。死後の解剖、画像診断は殆どなされていなかった。入浴関連事故で亡くなる原因疾患の究明には、死後の解剖や画像診断をさらに多くの症例に行うべきである。
  • 前田 眞治, 市川 勝, 原 麻理子, 櫻井 好美, 平野 絵美, 小暮 英輔, 山本 潤
    2011 年 74 巻 4 号 p. 246-255
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
    温泉地とは認識されていない東京都23区内64の源泉を調査し、その温泉成分と医学的効果について考察した。
     東京都内の源泉の分布は、23区内中20区の都内随所から湧出し、我が国の中でも高密度の地域であった。また大深度掘削による温泉を中心に温泉療法に有用な高濃度の温泉成分や高い泉温の温泉が多くの源泉で確認できた。東京都内の温泉の泉質はナトリウム—塩化物泉、ナトリウム-炭酸水素塩泉とメタケイ酸を多く含む温泉に分類できる。ナトリウム-塩化物·強塩泉は大深度掘削に認められ、都内の随所に存在した。ナトリウム—炭酸水素塩泉は中程度以下の深度掘削に多く、大田区に集っていた。またメタケイ酸は浅い深度の掘削で大田区に多く認められた。
     医学的効果として温熱効果を期待するならナトリウム-塩化物·強塩泉、皮膚の清浄作用を期待するならナトリウム-炭酸水素塩泉、皮膚の角質増殖効果を期待するならメタケイ酸を多く含んだ温泉を活用することで、東京の温泉は充分温泉医学的に有用で、かつ大いに健康増進に活用できる温泉であると結論された。
  • 大島 紀人, 沼尾 信治, 鎮西 美栄子
    2011 年 74 巻 4 号 p. 256-262
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
     リラクセーションは落ち着いた音楽、快い香りなど快適な治療空間の中で、ストレッチや呼吸法を行う手法であり、不安の軽減など心身への効果が期待される。本研究では、職場におけるリラクセーションの効果について、自律神経活動への影響、心理的作用の面から検討を行った。
     対象は健康な11名の成人(男性7名、女性4名)である。リラクセーション実施前より終了後まで心拍変動、唾液アミラーゼ活性値の測定を行った。またリラクセーション前後にProfile of Mood States (POMS)を実施し、心理的な評価を行った。
     唾液アミラーゼの値はリラクセーション前後で、29.2±12.7 kIUL(平均±標準偏差)から23.2±10.9kIULへと低下した(p=0.05)。また、心拍数は90.8±10.0拍分から84.9±8.9拍分へと低下した(p<0.01)。一方、HFパワーは315.1±211.3msec2から381.8±225.3msec2へと増加した(p=0.02)。POMSの結果では、緊張-不安のスコアが40.5±4.6から35.8±3.3へと改善し(p<0.01)、疲労感も43.8±6.2から40.4±4.1へと改善(p<0.05)していた。
     これらの結果から、リラクセーションは副交感神経活動を増大させ、交感神経活動を減少させることが示された。リラクセーションは特別な装置等を要さないため職場で行いやすく、不安緊張や疲労感を改善させることのできる手法として有用と考えられた。
  • 田中 信行, 宮田 昌明, 下堂薗 恵, 出口 晃, 國生 満, 早坂 信哉, 後藤 康彰
    2011 年 74 巻 4 号 p. 263-272
    発行日: 2011年
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
     研究の目的:同レベルの心拍上昇作用を示す 41°C、10分入浴と200m/1.2分走行の、心血管機能、血液ガス、代謝、末梢血組成への効果を比較、検討した。
    対象と方法:被験者は健康男子13名(28.7 ±3.6才)である。入浴、走行研究の前に30分安静させ、血圧、脈拍、舌下温、皮膚血流を測り、正中静脈に採血用の留置針を挿入した。その後、予備実験で約30拍の心拍増加を惹起した41°C、10分の入浴と200m/1.2 分(時速10km)の走行を別々に実施し、測定と採血を負荷直後と15分後に行った。
    結果と考察:入浴、走行直後の心拍増加は夫々27∼25拍と同レベルだった。走行後の収縮期血圧の上昇は入浴後よりも大きく、入浴後の拡張期圧は安静時より低下した。舌下温と皮膚血流は入浴でのみ増加し、温熱性血管拡張が示唆された。
     入浴後、静脈血pO2は有意に上昇し、pCO2は有意に低下したが、乳酸、ピルビン酸レベルの変化はなかった。200m走では逆にpO2は低下し、pCO2は増加し、乳酸、ピルビン酸、P/L比は有意に上昇した。これらの結果は、入浴では代謝亢進はなく、血流増加に基づく組織の著明な酸素化とCO2の排出があり、そして走行では筋肉の解糖系の促進と TCA サイクルにおける酸化の遅れを意味している。
     入浴、走行による白血球増加は短時間で消失することから、これらの変化は白血球の多い壁在血流と血漿の多い中心血流の混合で説明可能と思われた。入浴や運動後のリンパ球サブセットの変化に関する従来の報告も、この観点からも検討すべきであろう。赤血球や血清蛋白の変化から算出した血液濃縮の関与は、入浴で2%、走行で4%と、比較的少なかった。
    結論:入浴による健康増進は、代謝亢進なしに温熱性血管拡張による十分なO2供給とCO2排出が起こることで惹起される。運動による健康増進は強力な心血管系と筋の代謝の賦活により生ずる。この受動的効果の入浴と積極的効果の運動を組み合わせが、バランスの取れた健康増進には有益と思われる。
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