日本温泉気候物理医学会雑誌
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76 巻, 3 号
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Editorial
原著
  • 新井 恒紀, 小林 孝之
    2013 年 76 巻 3 号 p. 175-191
    発行日: 2013/05/29
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
    背景 : リンパ浮腫は、先天性を含めた原因不明のものと主にがんの手術や放射線療法によるリンパ管の輸送障害に起因する続発性リンパ浮腫に分類され、我が国には10万人以上存在するといわれている。リンパ浮腫の治療については、国際リンパ学会により複合的理学療法が標準治療に定められている。この療法は、「スキンケア」「用手的リンパドレナージ」「圧迫療法」「運動療法」を複合的に実施することにより、はじめて最大限の効果を得ることが出来るものである。現在、我が国では「リンパ浮腫指導管理料」と圧迫療法として「弾性着衣等に係わる療養費の支給」の2項目のみが保険適用になっており、用手的リンパドレナージが保険適用になっていない。そのためこの療法の単独効果を実証し保険適用の一助とするため本研究を行った。
    方法 : 四肢のみに浮腫のみられた患者72名(平均年齢は60.46±13.00歳)に対して用手的リンパドレナージを上肢患者45分、下肢患者60分行った。患者の治療前後の患肢容積変化を測定しその効果を検討した。データの統計処理は正規分布検定を行ったのちWilcoxonの符号付順位検定を行った。
    結果 : 全患者n=72名では69.20ml±93.00ml減少し(p<0.000)、部位別では上肢群n=16名では26.20ml±45.99ml減少し(p=0.039)、下肢n=56名では81.40ml±99.50ml減少し(p<0.000)、集中治療期(Phase1) n=12名では112.50ml±118.78ml減少し(p=0.005)、維持治療期(Phase2) n=60名では60.50ml±85.56ml減少し(p<0.000)だった。またPhase2をStage分類し治療前後の患肢容積変化を算出したところStageI (n=9名)では75.00ml±98.14ml減少し(p=0.038)、StageII (n=46人)では56.90ml±88.17ml減少した(p<0.000)。※患者数が5人未満である0期、III期は統計処理から除外した。
    結論 : 今回の研究により、用手的リンパドレナージによる治療前後の患肢容積が統計的に有意に減少したことが明らかになった。この結果を踏まえ、用手的リンパドレナージを含んだ複合的理学療法の保険適用が切望される。
  • 岩崎 靖, 森 恵子, 出口 晃, 鈴村 恵理, 前田 一範, 島崎 博也, 田中 紀行, 森 康則, 美和 千尋, 浜口 均, 川村 陽一
    2013 年 76 巻 3 号 p. 192-199
    発行日: 2013/05/29
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
    目的 : 我々はアルツハイマー病(Alzheimer disease ; AD)患者は発症早期に入浴回数が有意に減少していることを以前に報告した。発症後の入浴回数の変化と高次脳機能障害および抑うつ状態の変化との関連についての追加検討が必要と考え、経時的所見を蓄積して再検討を試みた。
    対象と方法 : 物忘れ外来通院中のAD患者で、初回検査時および1年後の入浴回数、高次脳機能検査および抑うつ状態の評価がすべて施行可能であった症例を用いた。入浴回数の変化と、高次脳機能検査および抑うつ状態の変化との間に相関があるかを統計学的手法を用いて検討した。
    結果 : 65例のAD患者において初回検査時と1年後の入浴回数はそれぞれ5.6±1.6回週、4.9±1.9回週で、有意な減少を認めた。各症例における初回検査時と比べた1年後の入浴回数の変化値とWechsler Adult Intelligence Scale-Revisedのperformance intelligence quotientとtotal intelligence quotientの変化値との間に有意な正の相関を認めた。初回検査時と比べて1年後において入浴回数が減少した群と変化がなかった群に分けて検討すると、入浴回数が減少した群では変化がなかった群と比較して、初回検査時においてすでに有意な入浴回数の減少が認められた。また入浴回数が減少した群の初回検査1年後におけるZung Self-rating Depression Scaleは、入浴回数に変化がなかった群と比べて有意に高かった。
    結論 : AD患者においては、発症後さらに入浴回数が減少することが示され、特に実行機能障害の悪化と相関していることが明らかとなった。また入浴回数が減少した群では抑うつ状態が有意に悪化していることが示された。
  • —頭痛日数の減少と頭頸部等筋群の圧痛改善との関連について—
    山口 智, 菊池 友和, 小俣 浩, 鈴木 真理, 磯部 秀之
    2013 年 76 巻 3 号 p. 200-206
    発行日: 2013/05/29
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
    目的 : 片頭痛の発作予防に対する鍼治療効果を頭痛日数と頸肩部の筋群および咀嚼筋の圧痛や筋緊張を指標に分析し、その関連性について検討した。
    方法 : 対象は国際頭痛分類第II版の片頭痛の診断基準を満たした70例(男性22例、女性48例)平均年齢35.5歳±14.3歳(mean±S.D.)、また前兆のある片頭痛13例、前兆のない片頭痛57例である。
      鍼治療を2ヶ月間行い、中等度以上の頭痛日数と頸肩部の筋群および咀嚼筋の圧痛や筋緊張を鍼治療前後で比較した。また頭痛日数の減少と圧痛および筋緊張の改善の関連性についても分析した。
    結果 : 鍼治療により、中等度以上の頭痛日数は減少し(p<0.05)圧痛や筋緊張も改善した(p<0.01)。また、頭痛日数の減少と頸部圧痛·肩部圧痛·咀嚼筋部圧痛の改善に正の相関が示され、頸部の関連が最も強かった。
    考察及び結語 : 鍼治療を一定期間継続することにより、頭痛日数が減少するとともに、頸肩部の筋群と咀嚼筋の圧痛や緊張が改善したことから、片頭痛に対する鍼治療効果はこうした筋群の圧痛を緩和することで頭痛日数が減少し、発作予防に寄与したものと考える。また、片頭痛の発作予防に対する鍼治療の作用機序は、上位頸神経や三叉神経を求心路とし、三叉神経脊髄路核を経て高位中枢に影響を及ぼし、発作予防に関与している可能性も考えられる。
  • 矢野 一行
    2013 年 76 巻 3 号 p. 207-214
    発行日: 2013/05/29
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
      東京周辺にはボーリングで地下深く掘り、地温勾配による熱源で温められた深層水を汲み上げ、さらに、加温した新しい温泉が次々と誕生し、天然温泉と称して一般に広く利用されている。しかし、これらの温泉の医学的効果が古くから知られている火山性温泉に比べてどの程度のものであるか等の客観的評価については不明である。
      そこで、これらの点を明らかにするために、ナトリウム—塩化物泉として東京-Aと熱海温泉、ナトリウム—炭酸水素塩泉として東京-Bと鳴子温泉を選び、それらの温泉からランダムにインターネットを通して温泉成分表を入手し、それぞれの温泉水に含まれている成分を比較することで検討した。
      東京23区内の温泉はいずれも非火山性温泉であるので、火山性温泉に特有の硫黄化合物や二酸化炭素のような薬理作用の知られている成分の含量は少ない。また、これらの源泉の温度が低いため入浴には加温する必要があり、湧出後のこれらの操作による温泉成分の劣化は避けられない。これらのことより、東京の温泉(-A, -B)に火山性温泉と同様の薬理効果を期待することはできない。しかし、多量の海水成分を含む東京-Aには温熱、浮力、静水圧などによる物理的効果は期待できるが、炭酸水素塩以外の成分が殆ど含まれていない東京-Bではこの効果も少ない。
      さらに、大都会の真っただ中にある東京の温泉に熱海温泉のタラソセラピーや鳴子温泉の森林浴のような環境因子(自然·気候)の変化によってもたらされる変調効果を期待することにも無理がある。
      温泉の医学的効果の本質は、活性酸素の産生を抑え、その働きを抑制するとともに、活性酸素等によって傷んだ組織を修復し、修復不能の細胞は分解·除去することで、健康を取り戻すことにあると考えられる。これらの点からして、東京の温泉にはそれなりの癒し効果はあるものの古くから知られている火山性温泉のような医学的効果を期待することはできない。
温気学会保険委員会調査報告書
  • —2012年アンケート調査から—
    2013 年 76 巻 3 号 p. 215-220
    発行日: 2013/05/29
    公開日: 2013/10/18
    ジャーナル フリー
      温泉が病院·施設などでどのように利用されているか、実態調査をインターネットと学会員名簿で選出された119施設を対象に行い、88施設(73.9%)から回答を得た。その結果、90.9%の施設で温泉が利用されていた。利用形態は入浴87.5%、リハビリテーションの一環50.0%、飲泉6.8%で、他にデイケアでの利用や温泉プールでの使用があった。また温泉特有の利用として、皮膚病治療、炭酸泉治療、鉱泥湿布などを行っている施設があった。保険収載についても強い要望があった。
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