近年, 交通災害が増加するにっれて, いわゆる追突事故による鞭打ち症も増え, しかも患者は多彩かつ頑固なる症状を訴える例が少なくなく, 補償問題もまた起るにおよんで, 明確なる臨床像の把握と治療法の検討が望まれているのは衆知の通りである。
そこで眩暈, 耳鳴, 難聴, 頭痛等の症状を訴えて耳鼻科に受診する患者も多いことより, 耳鼻科領域において, いかなる臨床像を示しかつ動物実験においてどのような変化があるか, 家兎を使用し実験した。
臨床的研究においては135名の鞭打ち症患者を対象とし, それぞれ前庭機能検査, 聴力検査, さらに精神身体学的面より, 性格調査として, C. M. 1. 調査, 自律神経機能検査としてメコリールテストを施行した。
前庭機能検査では比較的異常を示すものは少なく, その異常を示すものの多くは中枢性変化が多く, 末梢性変化を示すものは少なかつた。主な検査としては, 眼振検査, 視性運動性眼振検査, 振子様回転検査において, 20%~25%において中枢性変化がみられた。
聴力検査においては80.7%は正常であり, 障害がみられた多くは15~35db位 (範囲) の低下であり, 高度障害はみられなかつた。
さらに鞭打ち傷害は交通事故より生じ, 多くは補償問題がからんでくるために精神的影響も多分にあると思われ, 性格調査としてC. M. I. 調査ならびに自律神経機能検査としてメコリール検査を施行した。C. M. I. 調査において神経症的傾向を示すものとしては, III領域ならびにIV領域があるが, 本症例では, III領域+IV領域は31.8%を示し, 正常対照群の19%に比し多くは神経症的傾向が強い。かつ本症の1~3カ月以上経過した陳旧例は受傷間もない早期例に比しやや神経症的傾向が強いことがわかつた。
自律神経機能検査では, 本症例のP型+S型を示す例は63.3%で正常対照群に比し約2倍の値を示した。
動物実験では家兎33羽を使用した。このうち2羽は無衝撃のものである。これら家兎を実験装置に乗せ, 重力加速度 (頭部に間接に) をそれぞれ2.13G, 14.4G, 24.4Gを加えwhi-plashinjuryを惹起せしめた。この衝撃を加えた後, 7日~10日を経て一般状態を観察したが, 平衡障害を起しているような異常所見を呈した家兎はなく, かつ自発眼振も出現しなかつた。メコリール負荷による誘発眼振をE. N. G. にて記録したところ, 衝撃度が大になるつれて眼振の波形は大で眼振数の多い傾向がみられた。
病理組織学的検査では, 家兎の両側内耳, 延髄~脳脚, 小脳に関して行つた。
内耳では, 内耳の全般的うつ血がみられ, 衝撃が大になるにつれてうつ血傾向は強くなる, 左右 (両耳) 共, 同等に障害されているものは27%で, 他は左または右と単独におかされている。
蝸牛内出血がみられたのは1例のみであつた。その他内耳リンパ腔内の形態的変化については検索しえなかつた。
脳 (脳幹, 小脳) の病変については, 脳実質のうつ血および浮腫が主所見であり, 衝撃度が大きくなれば病変の程度ならびに頻度も大となる。いずれの場合にも出血というよりはむしろうつ血, 浮腫が主病変であり, 衝撃により内耳および脳に循環障害を起したのではないかと推測された。
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