慢性副鼻腔炎患者の上顎洞線毛機能を間接的に表現する, レ線的粘膜機能検査 (X-M.F.T.) の各影像型それぞれについて, 手術時に上顎洞粘膜を採取し, その上皮層の透過型電子顕微鏡的観察を行つた。
人上顎洞粘膜上皮は, 形態的に線毛細胞, 杯細胞, 基底細胞, 微絨毛細胞 (無線毛細胞) より構成されている。そして, 正常および軽度上顎洞炎粘膜においては, 線毛細胞が主細胞であり, 分化したそれぞれの細胞は適当な分布頻度を示しているが, 中等度および高度病変粘膜においては, その細胞構成と個々の細胞自体にも変化が認められる。すなわち, 主細胞である細毛細胞は数的に減少して, 主として杯細胞が相対的に増加すると共に, 微絨毛細胞の発現頻度も高くなり, 線毛細胞より微絨毛細胞への移行型と思われるものや, 分泌顆粒を内蔵し, 杯細胞との鑑別がつき難い未分化型微絨毛細胞も出現する。
線毛細胞における線毛の変化は, 軽度病変粘膜にも認められ, 線毛の周辺形質膜の波状変化, 線維構造の均質無構造化, 線毛の断裂, 不整等が認められ, 中等度および高度病変粘膜においては, 自由表面に線毛が整然と繁生している線毛細胞はむしろ稀である。
また, 線毛細胞内小器官の変化は, 中等度および高度病変粘膜に発現する。例えば, 糸粒体の櫛構造の破壊, 膨化変性等は, 中等度病変粘膜に最も顕著であり, 分泌顆粒形成に関与する小胞体およびGolgi体が線毛細胞内によく発達しているのは高度病変粘膜においてである。
正常および軽度病変粘膜の杯細胞は, 主細胞である線毛細胞の中に散在しているが, その形態は名のごとく杯状をなす充満期のものが多い。しかるに, それらでは分泌顆粒が核上部に集積される為に, 細胞内小器官および細胞質は圧迫された電子密度の高い部分として認められる。しかし, 中等度, 高度病変粘膜では, 杯状をなす充満期杯細胞はまれであり, 杯細胞内全体で分泌顆粒を形成中のものが多く, Golgi体, 小胞体がよく発達しており, しかも, 分泌顆粒を形成しながら自由表面では分泌顆粒を放出しているものが発現する事から, 分泌顆粒形成の過程および分泌放出サイクルが異常に亢進している状態と推測した。
レ線的機能検査に基ずく上顎洞粘膜上皮の各病態における電顕的所見は下記のごとくである。
すなわち, 正常粘膜では, 線毛細胞は自由表面に整然とした線毛の繁生を認め, 主として充満期の杯細胞が介在している。
軽度病変粘膜では, 細胞配列は正常型と大差なく, 主たる特徴は, 線毛の線維構造の均質化, 周辺形質膜の波状変化および基底小体下均質層の小空胞化などである。
中等度病変粘膜では, 細胞配列が集団的に変化しているのが特徴的で, 比較的形態変異の少ない細胞集団が存在する半面, 異常に分泌顆粒の放出を行つている杯細胞の集団が存在したり, 線毛細胞がほとんど認められず, 大多数が杯細胞と微絨毛細胞で構成されている部分が局在するといった状態である。また, 線毛細胞においては, 線毛が粗で断裂しているものが多く, 糸粒体の櫛構造の破壊, 膨化変性が発現しており, 更に上皮層の細胞間隙が離開するものがあることから, 退行的変化が最も顕著であるといえる。
高度病変群粘膜においては, ほとんどの線毛細胞で線毛が粗となり, しかも小胞体が著明に発達し, 分泌顆粒を容するものも発現する。また, 杯細胞においては細胞全体に層状あるいは環状をなすGolgi体や小胞体が認められ, 盛んな分泌顆粒形成が見られ, 充満期を経ずに分泌物の放出を行つているものも見られる。微絨毛細胞も分泌顆粒を内蔵するものが多く, 杯細胞との区別が困難な未分化型と見做し得るものが多くなり, 上皮細胞全体で粘液の形成を行つているかの所見を呈している。
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