以前, 著者らは, 37名の耳鼻咽喉科患者の臨床的検討で漢方薬麦門冬湯が口腔咽頭乾燥に有効であることを報告した。ここでは, 10名の健常者 (22-40歳, 平均29歳, 口渇を有する例と有さない例あり) に湯で溶かせたツムラ麦門冬湯1包 (3g), 2包 (6g) を投与しその急性的な唾液分泌効果を湯だけ投与した場合と比較した。3分間に液体吸収スポンジMQAに吸着した唾液の量より分泌量 (mg/分) を求めた。計測は, 投与前に2回, 後に8-9回, 4-5分間隔で異なった1989年の6-7月の3日間に行った。結果は以下のごとくであった。
1) 湯の投与で, 10名の平均唾液分泌は約45mg/分から30分後には30mg/分へと徐々に減少した。麦門冬湯投与後はその減少は無かったが, 1と2包投与の間に効果の差は無かった。
2) 麦門冬湯は明らかに口渇を有した3名に対して有効で, 唾液分泌は中等度から高度に促進した。しかしながら, 湯の投与ではそれは認められなかった。しかも, 1名で麦門冬湯の投与量に比例した効果が観察された。
この成績は, 漢方薬麦門冬湯は障害された唾液分泌を改善させ, 正常のそれを更に促進させるものではないことを物語っている。
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