術後性上顎嚢胞は, 本邦では65年前に最初に発表されて以来, 今日に至るまで多くの報告並びに研究がなされた。また嚢胞の発症を防ぐため手術手技もいろいろ工夫されてきたが, 現在なお多くの嚢胞患者が発症している。当疾患に対する治療法としては, 歯齦部より切開を加える “経上顎洞法”(嚢胞を全摘する方法と嚢胞の粘膜を残し鼻腔に交通路を設ける方法がある) と, 鼻内から嚢胞壁を開放する “鼻内法” とがある。鼻内法は嚢胞が単房性で, しかもその位置が鼻腔に隣接する症例には以前から行われていた。しかし近年CTの普及と内視鏡の導入で正確な診断と安全な手術操作が可能となり, 鼻内法による嚢胞の手術が増えてきた。そこで今回当教室における過去5年問の術後性上顎嚢胞に対する統計的観察を行い, 併せて手術の適応や手技などにつき検討を加えたので報告する。
対象は1987年8月から1992年7月までの過去5年間に, 東京慈恵会医科大学 (本院) において手術を行った術後性上顎嚢胞の患者, 男性62例, 女性21例の83例である。経上顎洞法を行った患者は40例, 鼻内法を行った患者は43例とほぼ同数であったが, 鼻内手術の割合が近年増加傾向にあり, 最近1年間だけをみると22例中17例 (77%) に鼻内法が施行されている。術後経過も順調で, 開窓部は保たれ症状も消失している。鼻内法の利点は, 手術侵襲が少なく, 開窓部が閉鎖しない限り症状が出現しない事が挙げられる。しかし多房性の嚢胞や外側に位置する嚢胞に対しては経上顎洞法に頼らざるをえない場合もある。
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