この実験の目的は無声破裂音/pa/,/ta/,/ka/を加工しVOTのもつ意義を検討したものである。音声に対してエレクトロニクスを応用して加工処理をし聴取能の劣化の原因を追求した。過渡部分は3分割ないし4分割した。第1分割まで削除したものを加工音1, 第2分割まで削除したものを加工音2, 以下同様に加工音3, 加工音4とした。
その結果, 正常聴力耳では/ta/,/ka/の原音の聴取能はほぼ100%で, 加工音1についても同じ程度であった。加工音2での正答率は/ta/は50%,/ka/で79%であった。さらに加工音3での正答率は/ta/は29%,/ka/は36%で, 加工音4では/ta/は11%,/ka/は7%であった。過渡部分を除いていくにつれて正答率も低下した。/pa/は原音声の聴き取りが悪かった。難聴者では各条件下で正常聴力耳より正答率が低下していた。/pa/で14%,/ta/で50%,/ka/で71%であった。加工音1でも/ta/,/ka/の正答率は29%, 36%と低かった。/pa/は原音声の聴取が14%と極めて悪く加工音声ではやや低下する程度であった。以上より, 正常者において/pa/の聴取では過渡部分のほぼ全ての部分が正答率に寄与していること,/ta/,/ka/の聴取では過渡部分初期1/3はあまり正答率に影響せず, 後の2/3が重要であると推定された。これに対して感音性難聴では/pa/の聴きとりが悪く,/ta/,/ka/ではVOTの初期1/3が重要であると思われた。ゆえに, 正常者と感音性難聴者との間では無声破裂音聴取の機構に差がある事が推測された。
抄録全体を表示