神経系細胞における細胞死には, 発生過程におけるシナプス形成期, 急性傷害, 神経変性疾患, 老化によるものがあり, アポトーシスであるといわれている。今回, 急性傷害におけるモデル実験として嗅球除去マウスを作製し, それによる嗅細胞死がアポトーシスである可能性についてTUNEL法, 走査電顕, 透過電顕を用いて検証した。嗅球除去翌日には, TUNEL陽性嗅細胞が多く観察され, 1週後には最低値をとり, 以後は正常嗅上皮よりも高い値を示した。走査電顕では, 嗅球除去翌日には, 嗅線毛マットは高度に消失し, 嗅上皮表層に球形で小型のアポトーシス細胞を認めた。透過電顕では, クロマチンの濃縮や核の断片化をおこした細胞すなわちアポトーシス細胞がみられ, さらにこのアポトーシス小体を貧食したマクロファージも認めた。またマクロファージに貧食されずに, 直接鼻腔に排出されるアポトーシス細胞も認めた。以上のことから嗅球除去翌日の嗅細胞死は, アポトーシスであることが判明した。さらに抗NGF抗体を嗅球に投与し, 嗅球のNGFを失活させたマウスを作製し, 投与後の変化をTUNEL法にて確認した。その結果は, 嗅球除去時と同様であり, NGF失活により, マウス嗅細胞は死を迎え, その死はアポトーシスであることが判明した。以上のことから嗅細胞のアポトーシスが, NGFによって回避可能であるならば, 嗅覚障害治療にあたり, NGFは重要な因子であることが示唆された.
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