腎細胞癌の転移は, 肺, 骨, 肝の頻度が多く, 耳鼻咽喉科領域への転移は稀であるとされている。今回, 腎細胞癌で上顎洞および肺転移を来しながら, 保存的治療のみでQOLは不良ながらも, 7年7ヵ月生存し得た1症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。
腎細胞癌の上顎洞, 篩骨洞転移症例では, 輸血を頻回に必要とする大量鼻出血に悩まされることが多い。また腫瘍の増大に伴い眼球突出や皮膚浸潤などにより複視や顔貌の変化, 口腔内進展による摂食障害などを来してくる。以上のような苦痛によるQOLの低下を考慮し, 肺などの他臓器転移を認めても十分なインフォームドコンセントのもと, 腫瘍摘出術の適応について次のように考察した。
(1) 大量の鼻出血を繰り返しているもの, (2) 腫瘍が, 眼窩内, 頭蓋底, 上咽頭, 蝶形骨洞, 前頭洞, 鼻背皮膚へまで進展していないもの, 原発腫瘍ではないが副鼻腔癌のTNM分類ではT3までの進展であること, (3) 腫瘍細胞型が紡錘細胞型ではない, (4) 細胞の異型度がgrade1である, (5) 腫瘍の進展が遅延型である, (6) 核内DNAのploidy patternの分析からdiploid腫瘍群である, (7) 腫瘍摘出術に加え他臓器転移巣に対し, Interferon療法, 化学療法などの補助療法を施行すること。以上の条件を満たす場合, 鼻副鼻腔単独転移のみならず多臓器転移の際も鼻副鼻腔腫瘍摘出術も有効な選択肢の一っであると考えた。
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