無痛性耳漏, 骨壊死および緑膿菌を三主徴とし, 慢性的経過で骨部外耳道に著明な破壊的病変を生じた2症例を経験した。これらの症例は極めて軽度な自覚症状の間に緩慢に経過したと思われ, 初診時既に腐骨化を伴う壊死により骨部外耳道が全周性に高度に拡大し, 膿苔の付着, 骨面の露出, 少量の肉芽組織などが見られ, そして緑膿菌が分離された。表皮角化物 (keratin debris) の堆積は認められていない。
骨部外耳道の壊死や拡大を主病変とする疾患としては, 悪性外耳道炎 (壊死性外耳道炎), 良性壊死性外耳道骨炎, 外耳道真珠腫, 閉塞性角化症 (keratosis obturans) および悪性腫瘍, 放射線壊死などが知られているが, 今回の報告例は臨床的にも病理学的にもこれらの疾患とは著しく異なった病態を示している。症例は52歳男性と76歳女性で, 両患者ともその心身状況から免疫力低下状態が推測されるものの, 糖尿病の合併がなく, ある程度の免疫力が保持されたため, 緑膿菌性外耳道炎が悪性外耳道炎のように劇症的に進展することなく, 緩慢な経過で外耳道の比較的血流の乏しい部位から骨内に侵入し, 慢性外耳道骨髄炎を発症, 腐骨化を伴う壊死による破壊の結果, 外耳道の高度拡大を生じた特殊な病態であろうと推測される。この病態に対し「破壊性外耳道炎」なる称呼を提唱したい。
また, 骨部外耳道の壊死性疾患を論じるに際し, 本邦ではいずれも外耳道真珠腫と呼ばれている外耳道真珠腫と閉塞性角化症について, 自験例を提示し, 別個の疾患である両者を明確に区別して称呼すべきであることを提案する。
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