T3・T4舌癌の治療として, 原発巣に対しては再建手術を主体とした手術療法が施行され, かつてのラジウム小線源治療に比較して確実に制御率・生存率が向上したが, 舌癌治療における頸部リンパ節転移がその変遷を経てもなお重要な予後因子であることには論を侯たない。
そこで本稿では手術を主体とした一次治療が行われたstage III・IV舌癌症例の頸部治療成績を示した。1980年1月から2000年12月までに根治手術治療を施行した舌扁平上皮癌・未治療例201例 (stageIII : 129例, stage IV : 72例) を対象とし, 以下の成績を得た。病理学的転移陽性率は67% (132/196) で, その局在部位には一定の傾向があった。患側リンパ節転移領域分布はLevel I : 30%, Level II : 48%, Level III : 28%, Level IV : 11%, Leve lV : 2%, その他5例であった。健側リンパ節転移領域分布はLevel I : 20%, Level H : 11%, Level III : 19%, Level IV : 8%, Leve1 V : 0%であった。頸部制御率は2年 : 77.3%, 5年76.1% (N=201) となり, 5年粗生存率 (疾患特異的生存率) はstage III 652% (71.1%), stage IV : 37.3% (38.7%) を得た。
昨今の画像診断の発達をうけて, 頸部リンパ節転移の術前診断はより正確になったことから, それに基づく臨床的NO・N1症例が病理学的多発リンパ節転移例であったと術後に判明する危険性は比較的低いものと推測される。近年は頸部郭清術の術後機能面への配慮から, 必要な領域に限って施術が行われる傾向にある。事実, 多くの施設でNO症例に対しては肩甲舌骨筋上頸部郭清術が施行されている現状を鑑みると, 画像診断を基に正確に術前評価を行い, それを個々の症例ごとの的確な郭清範囲の選択に反映させることでNO症例のみならずN1症例においても制御成績を落とさずに郭清範囲縮小が望める可能性が示唆された。
一方, N2以上の症例における頸部制御率は未だ満足できる水準とは言えず, 原発巣の充分な切除安全域確保に対応する再建術が確立された今般においてもなお, 多発リンパ節転移例における郭清領域縮小は困難であると推測された。
また, 頸部制御率低迷の一因となった健側Level Iまでの郭清例, あるいはN2b症例の健側非郭清野再発例の分析からは, 健側NO症例であっても経過観察が必ずしも妥当とは言えず, 遠位Level IIIまでの健側頸部郭清術が望まれた症例があった。
しかるに, 生存成績向上の観点からは頸部制御率をさらに高めることが肝要であり, とりわけ郭清範囲の選択は慎重に判断されるべきものと考えられた。
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