腎細胞癌に対する根治的腎摘出術後の長期経過を経てからの耳下腺転移は稀である。我々は腎細胞癌に対する根治的腎摘出後10年を経て肺, そして耳下腺に転移をきたした症例を経験したので報告する。
症例は57歳男性, 主訴は左耳下部腫瘤であった。他院にて腎細胞癌に対し根治的腎摘出術を施行され, 術後10年を経て左耳下部腫瘤を認め当院に紹介受診となった。各種検査を行うも診断の確定にはいたらず, 臨床経過からは腎細胞癌の耳下腺転移も疑われたが, 明らかな悪性を示唆する所見や臨床症状を認めないため経過観察の方針となった。その後3年の経過を経て耳下部腫瘤の急速な増大, 疼痛および顔面神経麻痺を認めたために手術を行った。病理結果は淡明細胞癌であり, 腎細胞癌の転移と考えられた。
転移性耳下腺腫瘍の術前診断において, 画像検査や穿刺吸引細胞診などの検査では診断の確定が困難であり, 病歴, 臨床症状, 経過などより総合的に判断をすることが必要である。治療については予後やQOLを考え, 個々の症例に応じた治療を行う必要があると考える。
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