【はじめに】 一般的に罹病期間が長ければ, その病気は進行し予後不良となる。 今回我々は, 慢性鼻副鼻腔炎による嗅覚障害の予後はその罹病期間が長いほど不良であると仮説を立て, その他の考えられる不良因子も含め検討を行った。
【対象と方法】 術前に嗅覚障害を伴った慢性副鼻腔炎症例で, 内視鏡下鼻内手術と適切な術後治療が行われ, 少なくとも術後3ヵ月以上経過観察している患者 (男性70例, 女性43例, 21~74歳, 50.9±12.7歳) を対象とした。 アンケート調査にて手術前と治療後嗅覚自覚症状を Visual analog scale (VAS) にて評価した。 治療後 VAS1.0以下の重症嗅覚障害者19名の予後不良因子を多重ロジスティック回帰分析にて検討した。 予後不良因子による群間治療前後の VAS を比較検討した。 治療後 VAS と罹病期間についての相関を予後不良因子別に検討した。
【結果と考察】 重症嗅覚障害者19名の多変量解析の結果, 予後不良因子として, 1) 男性 (
OR=18.996), 2) 60歳以上 (
OR=9.349), 3) 嗅覚障害罹病期間5年以上 (
OR=10.023), 4) 血中好酸球数800/
μl以上 (
OR=8.234) が有意差をもって挙げられ, これら因子よる的中率は89.4%であった。 慢性鼻副鼻腔炎による嗅覚障害罹病期間と治療後 VAS は有意差をもって負の相関(
rs= -.399) していた。 特にこの相関値が高くなる因子として, 60歳以上の男性(
rs= -.632), アスピリン喘息を合併 (
rs= -.624), 血清総 IgE 値300IU/ml以上 (
rs= -.679), 現在喫煙 (
rs= -.731) が挙げられた。 これらの予後不良因子をもつ患者においてはなるべく早期に治療を開始する必要性があり, 禁煙などの教育も必要である。
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