1990年代後半から続く, 小児急性中耳炎難治化には, 原因菌の薬剤耐性化が大きく関わっていた。 その薬剤耐性化はセフェム系抗菌薬の濫用が大きく関与したことが明らかとされており, 耐性菌対策としてペニシリン系抗菌薬を第一選択とする治療戦略が有効である。 この戦略をより具体的にまとめたのが,「小児急性中耳炎診療ガイドライン」である。 本邦では, 2009年から2013年にかけて, 新規抗菌薬と肺炎球菌ワクチンの環境が相次いで整い, その効果として急性中耳炎の軽症化が明らかとなりつつある。 しかし, 抗菌薬の更なる開発が期待できない状況, 耐性化率の高い非ワクチン株の増加が報告される現状を踏まえ, 抗菌薬の適正使用の重要性を再確認する必要がある。
悪性外耳道炎, 頭蓋底骨髄炎において早期に診断治療を行うことが重要となるが, 明確な診断基準や確立した治療法がないため方針決定に難渋する。 今回われわれは, 様々な病態で発症した悪性外耳道炎, 頭蓋底骨髄炎の自験4例を報告するとともに, 1990年から2015年までに本邦で治療された悪性外耳道炎, 頭蓋底骨髄炎50症例について検討した。
渉猟の結果, 高齢男性に多く, 糖尿病など易感染性が背景にある傾向を認めた。 近年, 外耳道に所見を認めない非典型的な頭蓋底骨髄炎症例の報告が増えており, その場合再燃率が高いため注意深い症状所見の経過観察と共に, 長期的な抗菌薬の投与が望ましい。 本邦における悪性外耳道炎, 頭蓋底骨髄炎の致死率は約2割と未だ不良であり, 複数の脳神経麻痺がある場合は死亡率が高くなるため, 極めて慎重に対応すべき疾患である。
Rendu-Osler-Weber 病 (遺伝性出血性毛細血管拡張症; Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia: HHT) の鼻出血に対して, 脳神経外科の協力のもと超選択的に血管塞栓をすることができた1例を経験したので報告する。
症例は74歳男性。 7年前より繰り返す鼻出血のため東京慈恵会医科大学附属柏病院耳鼻咽喉科外来にて処置を行っていた。 HHT と診断され, 4年前より週に一度の頻度で鼻出血の治療を行ってから, 比較的鼻出血は落ち着いていた。 しかし, 半年前より外来経過観察中に, 出血のコントロールが困難となったため, 出血量を減らす目的で, 左蝶口蓋動脈の枝に対して超選択的血管塞栓術を予定した。
今回, 脳神経外科の協力のもと, 出血源となっている血管のみを選択処置することで, 粘膜障害を最小限に抑える治療ができた。 術直後より鼻出血の訴えは消失し, 4ヵ月経過した時点で明らかな合併症を含め鼻出血は認めない。 オスラー病による難治性鼻出血の治療として, 超選択的血管塞栓術が有効であると考えられた。
われわれは耳かき外傷により上鼓室側壁骨折を来し, 耳小骨固着が生じたと考えられる症例を経験したので報告する。 症例は20歳男性である。 前医受診の2年前に耳かきをしていたところ右耳より出血し, 難聴を呈したが, 医療機関を受診することなく, 今回難聴が軽快しないことを主訴に前医を受診した。 右耳小骨離断の疑いにて当院に紹介受診となった。 ティンパノグラムで Ad 型を示す右伝音難聴を認め, 側頭骨 CT にてキヌタ骨の内側偏倚が疑われたことから, 耳小骨離断の疑いにて鼓室形成術を施行した。 しかし, 術中所見にて上鼓室側壁が骨折しており, その骨折片を介してキヌタ骨と上鼓室側壁が癒着し, キヌタ骨が可動性を消失していたことが判明した。 明らかな耳小骨離断は認めなかった。 耳かき外傷による上鼓室側壁骨折は, 渉猟し得る限りではこれまで報告されていない。
PR3-ANCA が陽性であった結核性中耳炎の1例を経験した。 症例は65歳男性。 当科初診の6ヵ月前より左難聴, 耳鳴あり, 他院でも中耳炎と診断された。 プレドニゾロン, ミノサイクリン, レボフロキサシンと投与されるも改善を認めず, 当科受診し, 左鼓膜穿孔および耳漏が認められた。 当初は PR3-ANCA 陽性, 尿蛋白陽性から ANCA 関連血管炎性中耳炎 (Otitis Media with ANCA Associated Vasculitis: OMAAV) を最も疑った。 最終的には胸部レントゲン上, 左肺野に空洞性病変を認めることと, 喀痰・耳漏ともに抗酸菌染色, 結核菌 PCR, 抗酸菌培養すべて陽性であることから, 肺結核を伴う結核性中耳炎と診断した。 リファンピシン, イソニアジド, ピラゾナミド, エタンブトールで加療し軽快に至った。
ANCA は ANCA 関連血管炎以外に, 結核や関節リウマチでも陽性を示すことがある。 OMAAV と診断する際には結核性中耳炎の否定が重要である。
好酸球性中耳炎が疑われた症例が経過中に好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 (EGPA) と診断された1例を経験したので報告する。 症例は気管支喘息を有する36歳女性, 右耳の耳漏と難聴を主訴に受診した。 初診2週間前に喘息発作のためステロイドを投与されていた。 耳漏の細胞診では好酸球を認めなかったが, その他の所見は好酸球性中耳炎の診断基準を満たしていたため, 好酸球性中耳炎疑い例として外来加療を行っていた。 経過観察中に四肢末梢の痺れと両下垂足をきたしたため, 入院加療となった。 好酸球数の著明増加と多発単神経炎を認め, EGPA と診断された。 本症例のように耳漏中の好酸球が陰性である好酸球性中耳炎疑い例が, のちに EGPA と診断される症例が存在する。 気管支喘息に対する治療が好酸球性中耳炎の所見を隠蔽した可能性が考えられ, 好酸球性中耳炎疑い例であっても EGPA 発症の可能性を念頭に置く必要がある。