脳表ヘモジデリン沈着症は, クモ膜下腔における反復性あるいは持続性の出血により, 脳室上衣, 脊髄, 脳神経にヘモジデリンが沈着する中枢神経系の慢性疾患である。 臨床的には, 感音難聴, 小脳性失調, 錐体路徴候を三主徴とし, 耳鼻咽喉科を受診する率が高い厚生労働省指定難病である。
今回われわれは, 進行性の両側感音難聴を主訴に受診し, MRI にて脳表ヘモジデリン沈着症の診断をし得た症例を経験したので報告する。
症例は59歳男性, 喉頭癌 (右声門上) pT3N2cM0 SCC に対して喉頭温存目的に化学放射線療法 (NDP, 5-FU + RT40Gy/20Fr) 施行後, 喉頭全摘術施行後8年経過した時点で嚥下障害を主訴に当科を受診した。 上部消化管内視鏡検査にて残存咽頭から食道入口部に白色腫瘤病変を認めた。 CT 検査にて前頸部に18×30×20mm大の境界明瞭な腫瘤を認め, FDG-PET/CT でも同部位に SUVmax3.4g/ml の集積を認めた。穿刺吸引細胞診では class III atypical cell, 生検では炎症細胞を認めるのみであった。
以上の検査結果から本症例が喉頭癌治療後であること, 内視鏡所見では通常の良性腫瘍の所見とは言えないことなどから, 喉頭癌局所再発, 頸部食道癌などの悪性腫瘍の存在を疑い, 腫瘍切除術, 大胸筋皮弁による再建術を行う方針とした。 病理学的所見では, 核異型の強い紡錘形細胞の花筵状配列を認めた。 免疫染色では CD68 陰性, SMA 陽性, AE1/3 陰性, S100 陰性, Ki67 陰性であり, 以上から悪性線維性組織球症と診断した。 放射線照射8年後に生じた悪性線維性組織球症であり, 放射線関連軟部肉腫であると考えた。 放射線治療は根治性, 喉頭機能温存において優れた治療法であるが, 本症例のように放射線治療による晩期合併症の可能性も考える必要がある。
線維性骨異形成症 (Fibrous dysplasia: FD) は線維性結合組織の増殖と未熟な骨梁の新生を特徴とする非腫瘍性の進行性骨疾患である。 頭蓋顎顔面領域は好発部位の一つであるが, 篩骨病変は比較的稀とされている。 頭蓋顎顔面領域の線維性骨異形成症の治療法は, 病変の部位, 手術に伴う侵襲性, および治療の目的などを考慮して決定する。 今回われわれは, 二次性に前頭洞炎を生じた副鼻腔線維性骨異形成症に対して部分切除を行った1例を経験したので報告する。
本症例において FD 病変は右篩骨洞に位置しており, FD 病変が前頭窩を塞いだことによる右前頭洞炎を生じていた。 保存的療法で改善しないため手術を施行した。 FD 病変は頭蓋底骨と癒合しており前篩骨動脈の近傍に位置していた。 そのため頭蓋底損傷や前篩骨動脈損傷の危険を考慮し, 手術は FD 病変の部分切除と Draf IIb により前頭洞を開放した。 術後22ヵ月が経過しているが再発を認めていない。
FD が原因で二次性副鼻腔炎を生じうることがある。 片側性副鼻腔炎を認める症例に対して, 骨増殖性疾患も念頭において治療を行う必要がある。 FD 病変の部分切除は, 副鼻腔頭蓋底部に発生した場合, 有効な治療法と考えられるが, FD 病変の再増大や悪性化の有無の確認のため長期の経過観察が必要である。
歯牙の構成組織から発生する歯原性嚢胞と歯原性腫瘍は, 比較的類似した臨床像, 画像所見を呈するものが多い。 これらの病変の多くは無症状で経過し, 病変部の膨隆や顔貌の変化, 何らかの機能障害をきたして発症することが少なくない。 また, 患者が歯科治療の際の X 線検査によって偶然に発見される場合も多くみられる。 歯原性腫瘍の多くは若年者に好発し, 稀に再発を繰り返すものや悪性転化する症例もあることから, 早期に診断し適切な治療がなされるべき疾患である。 上顎に生じた病変は上顎洞, 鼻腔, 頭蓋底へと進展する症例も散見されている。 そのため, 隣接領域である耳鼻咽喉科において診断・治療が必要となる症例に遭遇する可能性がある。