甲状腺眼症 (Dysthyroid orbitopathy) はバセドウ病などに伴ってみられる眼窩組織の自己免疫性炎症性疾患であり, 眼球突出や眼瞼腫脹, 重症例では複視や視力障害をきたす。 活動性抑制にはステロイドや放射線外照射による治療が行われるが, 斜視, 高度の視神経症や眼球突出例の進行例は外科的手術の適応となる。 本稿では眼窩減圧術のひとつである内視鏡下経鼻腔眼窩減圧術について, 神経眼科医との連携, 文献的考察ならびに当科における手術方法と成績を紹介した。
本術式は内視鏡下に眼窩内側壁を篩骨紙様板から眼窩先端付近まで, 上顎篩骨接合部 (the inferior-medial strut) を温存しつつ眼窩下壁は眼窩下神経の内側までを除去する。 減圧のための眼窩骨膜の切開方法は内直筋の上方と下方に2~3本の平行な切開を行う方法 (orbital sling technique) を用いている。 当科で施行した6例の成績では, 眼球突出度は術後平均 2.6mm の改善であり, 閉瞼困難・乾燥感などの眼症状の改善も認めた。 また圧迫性視神経症を呈した最重症例では視力回復が可能であった。 本術式は低侵襲でかつ整容面でも優れており, 眼科専門医との提携で甲状腺眼症に対する治療の一端を担っていけるのではないかと思われる。
動静脈奇形は頭蓋内病変に多くみられ, 頭頸部領域での報告は少ない。 根治的な治療としては手術での完全摘出が望ましいが, 術中出血コントロールが問題となることがあり, 治療に難渋することがある。 今回,われわれは耳介後部動静脈奇形に対し, 流入血管を選択的に血管塞栓術後に摘出した1例を経験したので報告する。
症例は37歳の女性で, 拍動性耳鳴, 徐々に増大する耳介後部拍動性腫瘤を主訴に当院脳神経外科を受診した。 右耳介後部に 30mm 大の弾性軟, 可動性良好な無痛性拍動性腫瘤を触知した。 3D-CT Angiography で右耳介後部を中心に右外頸動脈から拡張, 蛇行した後耳介動脈が末梢の nidus 様の異常血管構造に流入し, 外頸静脈へ早期流出する所見を認め, 動静脈奇形が疑われた。 血管造影にて流入動脈の大部分は後耳介動脈で, その他後頭動脈,浅側頭動脈からも流入がみられた。 流出静脈は外頸静脈と診断し, 脳神経外科で後耳介動脈を動静脈奇形の末梢側でコイル塞栓術を施行した。 さらに当科では Indocyanine green (ICG) 蛍光血管撮影にて流入・流出路を再度確認しながら出血は少量で安全に摘出しえた。 術後約2年2ヵ月が経過しているが, 明らかな再発は認めてない。
静脈奇形は頭頸部領域に多いとされるが, 副鼻腔に発生することは比較的稀である。 今回われわれは, 上顎洞に発生し, 鼻出血を反復した静脈奇形 (旧名称: 海綿状血管腫) の症例を経験したため若干の考察を加えて報告する。
症例は16歳, 男性で鼻出血を主訴に当院を受診した。 既往や内服は特に認めない。 出血点の正確な同定は困難であったが, 右鉤状突起後面からの出血が疑われ, 同部位の焼灼止血処置にて止血が得られた。 6日後, 再度鼻出血を来し受診した。 止血処置を試みるも難渋した。 鼻腔内所見としては, 明らかな腫瘤性病変など特記すべき所見は認めなかったが, 出血部位や出血量など, 非典型的であったため, 精査目的に画像検査を施行した。 造影 CT 検査にて, 右上顎洞内に腫瘤性病変が示唆されたため, 造影 MRI 検査を施行したところ, 境界明瞭で強い造影効果を伴う腫瘍を認めた。 Dynamic study で早期から不均一な造影効果が得られ, 遅延相まで造影増強効果が遷延することから, 静脈奇形を最も疑った。
内視鏡下鼻副鼻腔手術 (ESS) による摘出術を予定し, 術前に血管造影を行った。 栄養血管は右蝶口蓋動脈と右下行口蓋動脈であり, 選択的血管塞栓術を行った。 ESS では, 右前篩骨洞及び右上顎洞を開放し, 腫瘤を摘出した。 術中出血は少量で, 術後経過は良好である。 病理検査結果は静脈奇形であった。
鼻出血は耳鼻咽喉科医にとって日常的に遭遇する疾患であるが, なかには本症例のように腫瘤性病変に起因する場合や, 血液凝固異常など器質的疾患が背景にある場合がある。 そのため, 非典型的な症例については積極的に画像検査を施行すべきと考えた。