癌に対する免疫療法は古くからそのコンセプトが提唱され, さまざまな知見が報告されてきたがその多くは臨床応用にはいたらなかった。 近年, 癌に対する免疫チェックポイントとその阻害薬の研究がすすみ, 頭頸部癌に対しても有用性が証明され臨床適応となった。 Nivolumab, Pembrolizumab は免疫チェックポイントに作用する PD-1 に対するモノクローナル抗体であり, PD-1/PL-L1 経路によるチェックポイントを阻害することで抗腫瘍効果を発揮する。 従来の抗癌剤とは異なる有害事象を起こすことがあり他科連携による対応が重要である。
頭頸部癌に対する薬物療法の進歩に従い, 耳鼻咽喉科・頭頸部外科医にも薬物療法に関する知識の update が必要である。 また, 薬物療法の腫瘍内科へのタスクシフトも今後検討すべき課題である。
側頭筋内膿瘍は頸部膿瘍の中でも文献的報告が少なく, 発症病態の詳細はあまり知られていない。 側頭筋は咀嚼筋に含まれ, 上記疾患の症状として開口障害, 側頭部腫脹を呈する。 炎症は咀嚼筋間隙内の咬筋, 内・外側翼突筋や隣接する間隙にも波及することがあり, その波及形式の相違によっても臨床像は多彩である。
顔面痛を主訴に発症した基礎疾患のない側頭筋内膿瘍を経験した。 本邦での頸部膿瘍形成としては下方への波及が典型的であるが, 今回経験した側頭筋内膿瘍では側頭筋に沿って上方へ波及した膿瘍を形成していた。 CT など画像による病巣評価のみならず, 開口障害, 側頭部腫脹といった身体所見に着目することが本症例の病態把握に重要である。 側頭部穿刺, 経口腔的切開排膿, 抗生剤投与で軽快した1例であった。
孤立性線維腫 (solitary fibrous tumor) は間葉系由来の腫瘍であり, 多くが胸膜などの漿膜に発生し頭頸部領域からの発生は比較的稀とされる。
今回, 前頸部腫脹から診断に至った孤立性線維腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。
症例は39歳男性, 左前頸部腫脹を主訴に受診した。 触診上は軟らかい腫瘤を認めた。 各種画像検索を行ったが, いずれの検査結果も非典型的な所見を示し鑑別に苦慮したため, 病理診断目的に頸部切開による組織生検を施行し, その結果 SFT の診断に至った。 本症例は良性の孤立性線維腫であり, 外科的に摘出の方針となった。 永久標本での病理診断も孤立性線維腫であった。
胸膜外由来の孤立性線維腫は悪性の可能性が低く予後は良いが, 良性の場合でも再発する場合があり, 早期に全摘出が好ましいのではないかと考える。 本症例においては良性かつ再発リスクも低いと考えられるが再発の報告例もあり, 長期にわたる経過観察が必要である。
鼻腔内異物は日常診療においてしばしば遭遇する疾患の一つであり, 6歳以下の小児が, 好奇心やいたずらにより挿入することが多いとされる。 金属などの無機性異物は異物感染が生じにくいため, 長期留置されたままとなりやすい。 複数個の磁性体異物の場合, 磁力に伴い特徴的な現象を生じることがある。
症例は7歳男児で顔面外傷にて偶発的に頭部 CT を施行した際に両側鼻腔内異物を指摘された。 右側鼻腔内異物は目視可能であり, 直ちに摘出可能であったが, 左側鼻腔内異物は鼻中隔粘膜下に存在しており, 摘出困難であったため全身麻酔下での経鼻内視鏡下摘出術を施行した。 2つの鼻中隔内の磁性体異物は感染兆候もなく, 少なくとも数ヵ月以上の間, 鼻中隔を圧迫しており, 異物周囲の軟骨は一部欠損を認めていた。
鼻腔内異物はよく遭遇する疾患であるが, 複数の磁性体異物の場合, 長期に留置されていることがあり, 組織の一部欠損を生じる場合がある。 そのため鼻中隔穿孔のリスクを避けるためにも切開部位を考えて手術を施行することが大切であると考えられた。
今回, 偶発的に発見された鼻中隔粘膜下の磁性体異物の1例を経験したので報告する。
塩化亜鉛液を浸した綿棒で上咽頭を擦過する上咽頭擦過療法 (Epipharyngeal Abrasive Therapy: EAT) は, 組織の収斂・抗炎症作用を利用した上咽頭炎など初期の感冒症状に対して一部の施設にて行われている。 上咽頭擦過療法で稀に嗅覚障害を来すことがあるとされるが, 詳細な報告はない。 国外ではグルコン酸亜鉛液が初期の感冒に効果があるとされ市販されており, このグルコン酸亜鉛液による点鼻治療で嗅覚障害を来したという報告が散見する。 また硫化亜鉛や酸化亜鉛も動物実験で嗅覚障害を起こしたという報告がある。 今回, 塩化亜鉛液が原因と考えられる嗅覚障害の例を経験し, 塩化亜鉛も他の亜鉛化合物と同様に嗅覚障害を呈する可能性が考慮されたため, 文献的考察を加えて報告する。
認知症, 中でも最多のアルツハイマー病について根治的治療法は確立されておらず, 認知症発症を遅らせたり, 進行を緩やかにする対処法が望まれている。
本稿では, 難聴が認知症の危険因子として注目されることとなった Lancet 国際委員会の報告や, 世界の大規模疫学研究から難聴と認知症の有意な関連を示すエビデンスを紹介し, 補聴器や人工内耳などの聴覚補償の認知機能への効果に関して概説した。 後半では, 前庭機能障害と認知機能, 特に空間認知能力の低下と関連があるとする疫学研究を提示し, 認知症病型や治療薬剤によるめまい症状に関しても取り上げた。 今後は聴覚, 前庭機能低下への対策による, 認知機能低下, うつ, 社会的孤立, 日常生活動作の低下などの不利益連鎖の軽減が課題である。