症例は58歳女性.発熱,咽頭痛,摂食困難を主訴に外来受診した.両側口蓋扁桃の発赤,白苔付着,右側優位の扁桃腫大認めた.急性扁桃炎の診断で抗菌薬点滴目的にて入院加療とした.抗菌薬投与後,咽頭痛は改善傾向にあったが,発熱が遷延し,右側優位の扁桃腫大も持続していた.入院中に施行した血液検査で血清可溶性インターロイキン2レセプター(以下,sIL-2R)が7,720 U/mLと異常高値であり,臨床経過からも悪性リンパ腫との鑑別が必要と考えた.腫大が持続していた右扁桃生検を施行したが,悪性リンパ腫の所見を認めなかった.抗菌薬継続にて症状改善を認め,第12病日に退院とした.sIL-2Rは2ヵ月後に正常範囲内まで低下し,右側優位の扁桃腫大も改善を認めた.
急性扁桃炎をはじめとする感染症でもsIL-2Rが上昇することは知られている.しかし,本症例のような異常高値の報告はない.本報告では,急性炎症でsIL-2Rの著明な上昇が起こり得ることを報告した.sIL-2Rが高いほど悪性リンパ腫の可能性が高まるが,様々な病態で上昇するため,他疾患の検討や臨床経過が重要であると考えた.
症例は75歳男性で3日前からの頭痛と受診当日の黒色の後鼻漏で当院受診した.頭部CTにて蝶形骨洞に軟部濃度陰影と右内頸動脈隆起の骨壁欠損を認め,造影MRIから真菌性の蝶形骨洞単独病変(Isolated Spenoid Sinus Disease:ISSD)の疑いで入院となった.血管造影では右内頸動脈に仮性動脈瘤は認めなかった.真菌性ISSD疑う症例に対し,術中の内頸動脈損傷の危険性を考慮し,右内頸動脈塞栓術を待機の上,右内視鏡下副鼻腔手術を行った.手術は内頸動脈損傷もなく終了した.蝶形骨洞内粘膜の病理検査,内容物の培養から非特異的炎症によるISSDの診断となった.ISSDは強い頭痛を主訴に受診され,非特異的炎症が原因であることが多いとされ,本症例も同様であった.少量の鼻出血が内頸動脈損傷の先行症状となることがあり,内頸動脈隆起の骨欠損が術中の内頸動脈損傷の危険性を高めるため,本症例は内頸動脈損傷を考慮した対応を行った.我々が渉猟し得た限り,内頸動脈損傷を来し鼻出血を来した症例31例中,内頸動脈の仮性動脈瘤を認めなかった症例は3例だった.以上から画像評価で仮性動脈瘤が認めなかった場合でも,蝶形骨洞炎の内頸動脈損傷を考慮した対応が望ましいと考える.
近年,軟組織損傷のリスクが少なく安全で確実に骨を削るデバイスとして,超音波手術機器(ソノペット®)が脳神経外科領域,整形外科領域,顎顔面外科領域で使用されている.耳鼻咽喉科領域では鼻科領域・耳科領域で使用した報告が散見されるが,頭頸部癌領域では報告が少ない.
今回,われわれは口腔癌,上顎洞癌,中咽頭癌の6症例の手術において,上顎骨や下顎骨の骨切除の際にソノペット®を使用したので症例とともにその有用性について考察した.
下顎骨の矢状分割切断や骨辺縁を細かく切除する際,切除する骨の裏面に筋肉などの軟組織がある際にはその利点がある.一般的に使用されるレシプロケーティングソーに比べると骨切除に時間がかかるということが欠点である.しかし,骨切除の際の切除骨面からの出血は少なく,術中の視野は良好に保たれるので骨切除未経験の術者を指導する際には時間をかけて安全に指導することができるため教育の面でも有用と思われた.
近年,梅毒患者数の増加が国立感染症研究所感染症疫学センターから報告され続けている.今回,下咽頭癌を疑い3回組織診を行ったが診断に難渋し,問診を契機に咽頭梅毒の診断に至った症例を経験したので報告する.症例は48歳男性,当院受診1ヵ月前から咽頭痛を生じた.前医で抗菌薬加療し症状改善を認めたが下咽頭に粘膜腫脹が残存するため,精査目的で当院へ紹介受診となった.喉頭内視鏡検査で左披裂部から梨状窩にかけての粘膜疹を,頸部造影CTで多発するリンパ節腫脹を認め,下咽頭癌を疑った.3回組織診を行ったが病理結果に悪性所見を認めなかった.診断に難渋していた折に患者のパートナーが性感染症に罹患したとの情報を聴取した.血液生化学検査を追加しTreponema Pallidum Hemagglutination Assay test(TPHA),Rapid Plasma Regain test(RPR)ともに陽性の結果であった.組織診を再評価し咽頭組織からスピロヘータが検出された.頭部と上肢にも梅毒性皮疹を認め第2期咽頭梅毒と診断した.アモキシシリン(AMPC)1,500 mg/日を投与し所見の改善を得た.咽頭梅毒は中咽頭に生じることが多く下咽頭の発症は少ない.中咽頭に見られる典型的な咽頭粘膜疹でない限り所見から梅毒感染症を疑うことは困難であるが,梅毒患者数は増加の一途であり,咽頭梅毒を念頭において診療する必要がある.
日常診療においてめまいを呈する患者には多く遭遇する.めまいは耳鼻咽喉科的,脳神経内科的な要因以外にも,ストレスや精神疾患の部分症状として出現する場合があり,前庭領域由来の末梢性めまい,それより中枢域由来の中枢性めまい,そしてストレスや精神疾患に関連した心因性めまいに大きく分けられる.Barany学会では,精神疾患の一症状である狭義のめまいと,末梢前庭障害に続発して不安障害や抑うつが生じ,めまいを来す広義のめまいを合わせて心因性めまいと呼ぶことを提案している.
精神疾患の診断はWHOによるICD-10や,アメリカ精神医学会のDSM-Vに基づいており,認知症などを含めた器質性疾患と,統合失調症や気分障害,神経症性障害などの機能性障害に大きく分けられる.めまい疾患には,これらの精神疾患の合併が多く認められる.
精神科の患者は,めまいに限らず多彩な身体愁訴を訴えるが,まず器質的疾患を除外することが重要である,その上で,長期的な視点をもって支持的に接していくことが望ましい.また,心因性めまい患者においては,精神科と耳鼻咽喉科でどちらか一方が抱えるのではなく両者が協働して診ていくことが重要と考えられる.