Q:「頭頸部領域の悪性腫瘍を見逃さないための外来診療のポイントを教えてください」
A:回答者 長岡 真人 東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室
頭頸部腫瘍は体表に近いため診察で得られる情報が豊富で,適切な診察能力の習得が重要です.診察のみで良性・悪性の大まかな予想が可能であり,口腔診察では義歯を外し,舌圧子や触診を用いて観察します.顎下リンパ節診察では双手診を活用する他,病的リンパ節や甲状腺の硬さを常に意識しながら確認することが大切です.表在癌の評価にはファイバー検査が不可欠で,NBIを用いて病巣に接近して観察します.特に中咽頭の側壁や後壁の観察では舌牽引を行い,口腔からファイバーを挿入することがポイントです.またModified-Killian法で下咽頭から食道入口部まで評価します.診断に迷う場合は造影CTやMRIを実施し,上級医と相談することで見逃しを防ぎます.また,患者の不安が強い場合は柔軟に対応し,例えば1ヵ月後に再診を提案するなど,柔軟に対応しましょう.
慢性副鼻腔炎,特に好酸球性副鼻腔炎や鼻茸のある慢性副鼻腔炎では嗅覚障害の合併が高率であり,患者の生活の質に影響する.慢性副鼻腔炎による嗅覚障害の病態生理には嗅裂気流の障害による気導性嗅覚障害,嗅神経の機能低下による嗅神経性嗅覚障害が関与していると考えられる.前者に対しては手術療法が有効で,上鼻道を拡大することで術後の嗅裂気流を最適化できる可能性があるが,炎症の持続により術後に嗅覚障害が再燃することが稀ではなく,その場合薬物療法の継続が必要となる.嗅神経の機能低下に関しては動物モデルによる解析で炎症病態による嗅神経細胞の数の減少や再生能の低下が示唆されているが,詳細は不明な点が多くこれからの研究課題である.
高齢癌患者に対する治療方針の決定では高齢者機能評価(GA)が注目されており,癌診療でも導入が進められている.GAの簡便なツールではGeriatric 8(G8)やFlemish version of the Triage Risk Screening Tool(fTRST)などがあり,これらのスクリーニングツールが予後や有害事象の予測に有用との報告がある.現在,東京慈恵会医科大学附属柏病院では高齢入院患者に対してG8やfTRSTと異なるスクリーニングツールを全例施行している.このスクリーニングツールを用いて,頭頸部悪性腫瘍に対して行った再建を伴う手術や喉頭全摘術を施行した65歳以上の高齢頭頸部癌患者42例(男性38名,女性4名,年齢中央値78歳)に対して術後の合併症,せん妄,最終食事形態,自宅退院の有無を検討した.スクリーニングツールとして,もの忘れチェックシート,栄養障害スクリーニングシート,嚥下障害アセスメントシート,退院支援スクリーニングシートを用いた.当院で使用したスクリーニングツールで得られる結果と,術後せん妄,合併症,最終食事形態,非自宅/自宅退院の各因子との関連性の有無を後ろ向きに解析した.結果,もの忘れチェックシートの点数が術後せん妄と関連していることが示された.
症例は48歳男性で,4ヵ月前から複視,結膜充血,眼球突出の症状があった.MRIで眼窩内筋円錐外に27 mmの腫瘤を確認した.T1強調画像では高信号,T2強調画像では低信号,脂肪抑制T2強調画像では一部低信号を呈し,Dermoid cystを疑う所見であった.Dermoid cystは発生過程の異常で皮膚様の組織が体表以外に迷入し嚢胞を形成する腫瘤である.体内のどこでも発生する可能性があるが,悪性化はまれとされる.切除の際には急性炎症の誘発や再発を防ぐために完全切除する必要がある.術前に腫瘤の感染を来し,外切開では高度な癒着が予想された.視野や操作性の確保を考え,経鼻内視鏡下での摘出を選択し,Endoscopic tri-port approachで一塊に切除した.また,眼窩内側壁を自家鼻中隔軟骨で硬性再建し,鼻腔粘膜を縫合して再建した.今回,眼窩内に発生したDermoid cystをEndoscopic tri-port approachで完全に摘出し,鼻腔形態および眼窩形態を保持することができた.文献的考察を交えて,眼窩内腫瘍のアプローチ方法について報告する.
ランゲルハンス細胞肉腫(Langerhans Cell Sarcoma: LCS)はランゲルハンス細胞由来の極めて稀な悪性疾患であり,報告が少ないため治療法は定まっていない.Combine Positive Score(CPS)が20以上のLCSに対してペムブロリズマブ(Pembrolizumab: Pem)を投与し,奏効した1例を経験したので報告する.
患者は82歳男性で,左頸部の腫瘤性病変を主訴として当科を受診した.造影CT検査では,両側頸部や胸椎への転移を認めた.頸部リンパ節生検を行い,LCSと診断した.遠隔転移を有していることに加えて患者の生活背景・希望を考慮し,Pem単独での治療を開始し,病変の縮小が得られたが,治療開始後7ヵ月時点で免疫性血小板減少性紫斑病を認めたため,Pemを休薬した.休薬後1ヵ月時点で血小板数は回復し,Pemは投与再開できたが,9ヵ月時点で慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)の増悪を認めたため,入院下で治療を行ったが,COPD急性増悪,急性呼吸促迫症候群,びまん性肺胞出血の合併により死亡した.直接死因はCOPDの急性増悪であったものの,LCSに対するPemの縮小効果が確認できた症例であった.
2015年1月から2022年12月までに当院で根治目的に手術治療を行った甲状腺癌148例を後方視的に調査した.年齢の中央値は61歳,女性98例,組織型は乳頭癌が139例と最多であった.臨床病期はstage I/II/III/IVA/IVB = 75/23/13/2/6例,術前に悪性の診断がついていない症例は29例,観察期間中央値は37ヵ月,5年全生存率は92.3%であった.治療開始まで1年以上の症例は28例であった.治療開始まで1年未満の症例と1年以上の症例で,性別,組織型,臨床病期,病理学的病期,5年全生存率,術前後の反回神経麻痺の有無に有意差を認めなかった.治療が遅延した症例の臨床的特徴として,自覚症状がないこと,穿刺吸引細胞診や早期治療の希望がないこと,他の悪性疾患の併存,精神疾患の併存などの理由が明らかになった.本検討では治療開始まで1年以上経過しても治療成績の低下は認めなかったが進行が緩徐である甲状腺癌ではより長期的な予後の評価が必要であるため,前述の臨床的特徴に当てはまる症例では術前診断の限界や転移のリスクなどを患者に説明し十分な理解を得た上で診療に臨むことが肝要である.
抗TIF1-γ抗体陽性皮膚筋炎は悪性腫瘍を合併しやすい皮膚筋炎である.肺癌,胃癌等を合併した報告は多いが,中咽頭癌の合併は極めて稀である.今回,我々は中咽頭癌の合併例を2例経験した.症例1は58歳男性.顔面の発赤,右頸部腫脹を主訴に受診し,p16陽性中咽頭癌,抗TIF1-γ抗体陽性皮膚筋炎と診断された.皮膚筋炎に対してプレドニゾロン(PSL)の投与,中咽頭癌に対して放射線療法を行ったが,頸部転移と肺転移により治療開始後1年4ヵ月目に原病死した.症例2は61歳男性.体幹の掻痒を主訴に皮膚科を受診し,抗TIF1-γ抗体陽性皮膚筋炎と診断され,悪性腫瘍精査によりp16陰性中咽頭癌が確認された.皮膚筋炎に対してPSLの投与,中咽頭癌に対して導入化学療法および放射線療法を行ったが,頸部転移と肺転移を認め,初回治療開始後8ヵ月目に原病死した.この2例においては,抗TIF1-γ抗体価の推移と中咽頭癌の再発や転移の関連性はみられなかった.また,抗TIF1-γ抗体陽性皮膚筋炎に合併する頭頸部癌の治療では,どちらの治療を優先するかを症例ごとに慎重に検討し,治療による嚥下機能障害のリスクを考慮する必要があると考えた.
人工知能(AI)は,近代科学の進歩に伴い急速に発展し,耳鼻科医療においても重要な役割を担っている.本稿では,AI技術を「音に関するAI」「聴覚医療と音声再建」「嗅覚」「嚥下機能の評価」「耳鼻科領域の画像診断」の5つに分類し,それぞれの応用と進展について述べている.音に関するAIは,音声解析,生成,認識が進化し,視覚障害者の支援や教育,カスタマーサービスなどで利用されている.聴覚医療では,AIを用いた補聴デバイスの最適化や声帯摘出者のための音声合成が発展し,自然で個人らしい聴覚体験を提供している.嗅覚AIでは,においのデジタル化が進み,香料開発や医療,マーケティングへの応用が期待される.嚥下機能評価にはAIが導入され,診断の効率化が進んでいる.耳鼻科の画像診断においても,AIがCTやMRIの診断精度向上に寄与し,がん診断や予後予測で高い成果を上げている.これらにより,耳鼻科医療現場の効率化と患者中心のケア向上が期待されている.