頸静脈孔神経鞘腫はその主訴や症状が聴神経腫瘍と酷似しているためにしばしば聴神経腫瘍と誤診される。もし本腫瘍が誤った診断の下に手術されれば機能保存は得られないが、一方、正しく診断されていれば聴力保存のみならず聴力改善も多くの症例で可能となる。本論文では頸静脈孔神経鞘腫の診療結果と腫瘍切除後の聴力改善の機構について論ずる。
著者らは9例の頸静脈孔神経鞘腫をfar lateral approachにより手術した。手術前後の聴覚機能は純音聴力検査、語音聴力検査、ABR、DP-OAEによって手術所見を参考にしつつ精査した。
手術においては第7、8脳神経束と腫瘍との間にクモ膜が存在したため、両者を明瞭に剥離し得た。その結果、9例中8例で聴力レベルは正常域まで、語音弁別能は95~100%まで回復した。いくつかの例で術前のABRではI波しか検出できなかったものが、術後はI波、V波共に明瞭となった。DP-OAEは手術の前後で検出された。
結論として、術前診断が正しく成されていれば、頸静脈孔神経鞘腫の手術における注意深い剥離によって聴力改善が得られることがわかった。
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