Otology Japan
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31 巻, 1 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
第30回日本耳科学会総会特別企画
ネクストジェネレーションセッション3
  • ~術後合併症予防を目指したBaha手術法と骨導インプラントの今後~
    我那覇 章
    2021 年 31 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    骨固定型補聴器(Baha®)は,チタン製インプラントを頭蓋骨に植込み,体外に露出した接合子に骨導端子を取り付ける半埋め込み型インプラントである.皮膚を貫通しチタン製接合子が設置されるため,皮膚・皮下組織合併症が起こりやすい.インプラントやサウンドプロセッサの進歩と共に手術法も改良され,現在では直線切開で皮下組織切除を行わない術式が普及している.手術における術後合併症予防のポイントは,頭蓋縫合を避けたインプラント,インプラントの垂直性,適切な接合子長の選択である.適切な手術手技は術後合併症のリスクを低減する.本稿ではBaha手術について,術前準備や手術手技の具体的なコツ,当科で行っている工夫と共に,術後トラブルへの対処について概説する.

  • 今泉 光雅
    2021 年 31 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    聴性脳幹インプラント(auditory brainstem implant: ABI)は,蝸牛神経に障害を受けた際に,中枢側である脳幹の蝸牛神経核に電気刺激を加え,聴覚を獲得させることを目的とする人工聴覚器である.しかしながら,ABIは日本において自由診療となっているため,実際の手術や適応,術後の装用効果について,共有・認識が十分されていない現状がある.

    我々は,両側の聴神経腫瘍術後,重度難聴に至りABI埋め込み術を施行した症例を経験した.ABI術後,語音明瞭度は術前と比較し改善を認めた.ABI単独での会話は困難な状態であるが環境音の聴取は可能となった.両側聴神経腫瘍術後症例に対するABI埋め込み術は,聴覚獲得の一手段になり得ると考えられた.しかしながら,本邦の現状を踏まえ保険適用となっている様々な手段を駆使し聴覚の確保に努める必要もあると考えられる.聴覚確保の方法として,我々は脳神経外科医と協議の上,聴神経腫瘍残存例に対する人工内耳埋め込み術を実施しており,その効果も併せて紹介する.

    ABI手術は,福島県立医科大学脳神経外科学講座,齋藤清教授,佐久間潤教授および日本医科大学脳神経外科学講座,森田明夫教授と共同で実施した.

    本論文の要旨は,第30回日本耳科学会総会・学術講演会(北九州市)において口演発表した.

原著論文
  • ―特に耳小骨の離断・固着の術前診断について―
    中江 進
    2021 年 31 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    先天性耳小骨奇形で,耳小骨の離断・固着の術前診断ではテインパノグラム,SRは診断価値が低く,CTも離断は診断可能だが固着については診断できないことが多い.一方,離断・固着の判別の定量的指標として「4 kHzABG値」,「0.25 kHzと4 kHzの気導閾値」,が提唱されており,自験例でROC曲線を描いて検証したところ,これらの指標の正診率は70%以上であり,新基準として推奨でき,他の診断法と併用すればさらに有用であろうと思われた.自験例30耳の聴力改善成功率は全体で83.3%(25耳/30耳)で良好であったが,耳小骨の変形や脆弱性,内耳障害の懸念のため手術の難易度が高いことを強調した.

  • 田中 康広, 大村 和弘, 穐吉 亮平, 栃木 康佑, 冨山 克俊, 深美 悟, 春名 眞一
    2021 年 31 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    2011年から2018年までに当科で手術を施行した先天性真珠腫33例における臨床的特徴と術後成績について検討した.具体的にはPotsic分類と中耳真珠腫進展度分類(2015)を用いて真珠腫の進展度と術後聴力改善成績および再発率の関連について評価を行った.Potsic分類ではstage Iが5例,stage IIが8例,stage IIIが7例,stage IVが13例であった.stage IIで1例,stage IVで2例に再発が認められ,stage IIとstage IIIで1例ずつ,stage IVで2例に聴力改善が得られなかった.Potsic分類においては真珠腫の進展度と再発および術後聴力成績ともに有意な関係は認めなかった.中耳真珠腫進展度分類(2015)ではstage IIで2例,stage IIIで1例に再発が認められた.stageが進行した症例で再発を認める傾向があったが,進展度と再発に有意な差は認めなかった.一方,進展度と聴力改善成績との関係ではstage IIとstage IIIにおいて2例ずつ聴力改善が得られず,stage IIIとstage III以外で有意差を認めた(p = 0.033).

  • 澤田 正一, 奥谷 文乃, 小林 泰輔
    2021 年 31 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    小児反復性中耳炎に対する鼓膜換気チューブ留置術の有効性と永久穿孔について検討した.穿孔は挿入期間18–24カ月の群で14.3%で24カ月以上の群は30%で,6–12カ月の2.3%,6カ月未満の1.2%より有意に多かった.さらにチューブ除去時の処置などでの穿孔の頻度を比較した.チューブの自然脱落群,抜去の時に閉鎖処置を行わない抜去無処置群,抜去時に穿孔新鮮化やパッチなどの閉鎖処置を行った抜去処置群に3群で検討したところ,抜去処置群は穿孔1.5%で抜去無処置群の11.1%に比べ有意に穿孔が少なかったが,自然脱落群4.3%とは差は無かった.また穿孔のリスクについてロジスティック解析を行ったところ,最もオッズ比が高かったものは,穿孔処置の有無で,次に留置期間12カ月以上であった.穿孔を避けるためには,中耳炎がコントロールされていれば留置期間を12カ月までにするか,また12カ月以上留置する場合は,抜去時に閉鎖処置を行うことで穿孔の合併症は減ると思われた.

  • 木下 慎吾, 原 睦子, 徳永 英吉
    2021 年 31 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    急速な内耳障害をきたした真珠腫迷路瘻孔症例の原因と治療法を,自験例とともに検討した.症例は26歳男性.当院初診の16日前に右顔面神経不全麻痺を発症したが,近医での副腎皮質ステロイドの内服投与後10日で治癒した.当院初診の6日前に右耳漏と難聴を認め,真珠腫性中耳炎が疑われ紹介となった.初診時は伝音難聴であったが,5日後にめまいを発症し骨導閾値上昇を認めた.真珠腫性中耳炎迷路瘻孔と診断し,早急な感染制御を目的に真珠腫及び感染組織の除去と瘻孔閉鎖を行い,検出菌である緑膿菌の感受性抗菌薬を開始した.治療後の骨導聴力は,高音域を除き回復した.

    当院の迷路瘻孔7例を検討した結果,感染耳5例中2例はスケールアウトで,術前骨導聴力悪化耳3例中2例で緑膿菌が検出された.急速な内耳障害は感染が関与するため,感受性抗菌薬治療と手術時期を逸しないことが重要であると考えられた.

  • 福田 雅俊, 太田 有美, 佐藤 崇, 大崎 康宏, 大島 一男, 今井 貴夫, 猪原 秀典
    2021 年 31 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    耳科手術においては鼓索神経への手術操作に直面することは多く,術後の患者の味覚低下は留意しておく合併症の一つである.鼓索神経の手術操作のみでなく,鼓索神経機能を保つために影響を及ぼす因子について今回我々は当科での耳科手術症例を用いて検討した.当科で行った耳科手術症例159耳において,術中に鼓索神経処理に直面し,かつ術前に濾紙ディスク法による味覚検査,及び術直前(術前4日以内)と術直後(術後4日以内)に電気味覚検査を施行した141耳について,味覚検査に影響を及ぼす因子を単変量解析した.結果,術前電気味覚閾値が正常な場合は手術時間と鼓索神経の処理が術後鼓索神経機能低下に影響を与えることが分かった.術前電気味覚閾値が異常の場合は鼓索神経の処理は術後鼓索神経機能低下に影響を与えなかった.また鼓索神経保存した症例では,手術回数:複数回が術後鼓索神経機能低下に影響を与えていた.今回は術直後の他覚検査による解析を行ったが今後自覚症状との相関,また長期での鼓索神経機能の推移について観察してゆく必要がある.

  • 原 將太, 岸野 明洋, 新藤 秀史, 原田 英誉, 平井 良治, 野村 泰之, 鴫原 俊太郎, 大島 猛史
    2021 年 31 巻 1 号 p. 50-57
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    耳管開放症の実態を明確にするため,2016年6月から2018年11月に当科耳管外来を受診した523症例のうち,耳管開放症確実例と診断した186症例を対象に後ろ向きに検討を行った.年齢分布は30歳代と70歳代に多い二峰性であった.男女比は概ね1:2で女性に多かった.誘因は体重減少が最多であった.3主徴(自声強聴,耳閉感,自己呼吸音聴取)の有症率は,91.9%,76.9%,74.2%で,自声強聴が最も多かった.保存的治療(生理食塩水点鼻,漢方薬内服)の治療有効率は55.7%,外科的治療の有効率は76.1%であった.耳管開放症治療の原則は保存的治療と考えるが,同治療の無効例に対しては外科的治療の検討が必要である.しかし,合併症の報告や諸症状の訴えの可能性もあり,その適応は慎重な判断を要し,そのためにはより正確な診断が求められる.

  • 山田 悠祐, 我那覇 章, 後藤 隆史, 奥田 匠, 中島 崇博, 松田 圭二, 東野 哲也
    2021 年 31 巻 1 号 p. 58-65
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    人工中耳は中等度以上の難聴患者を対象とした人工聴覚器で,音声を振動エネルギーとして直接内耳に伝えることができるため,補聴器に比べて周波数歪みが少なく,明瞭度の高い音を提供することができる.今回我々は,2012年から2019年までに伝音・混合性難聴症例に人工中耳植え込み術を施行した19例について検討を行ったので報告する.手術前後の骨導閾値変動は,術後20週において全周波数で平均5 dB未満であった.術前裸耳と比較した術後のVSB装用閾値は,術後20週において250 Hz以上の全周波数で有意に改善しており,術後5年においても500 Hz以上の全周波数で有意に改善していた.また,術前の補聴器装用と比較しても,同等の語音聴取能が得られていた.術後合併症では,骨導閾値上昇(4例)や抗菌薬投与で制御可能な感染(2例),味覚障害(1例),最終的にVSB摘出に至った外耳道への導線脱出(1例)などを認めた.

  • 渡邉 佳奈, 岩崎 聡, 古舘 佐起子, 岡 晋一郎, 小山田 匠吾, 久保田 江里, 植草 智子, 櫻井 梓, 高橋 優宏
    2021 年 31 巻 1 号 p. 66-72
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    2019年7月より2020年4月までの間に,当院で術前の前庭機能検査を施行した成人の人工内耳(以下CI)患者31例(33耳)と残存聴力活用型人工内耳(以下EAS)患者9例(10耳)について,術前の前庭機能と難聴の相関を検討した.前庭機能検査として,cVEMP検査と温度刺激検査を実施した.その結果,術前の低音3周波数平均聴力レベルと最大緩徐相速度に相関は認められなかったが,cVEMPと低音域3周波数の平均聴力の相関において,CI群では弱い負の相関(r = –0.35),EAS群では中等度の負の相関(r = –0.64)が認められた(p < 0.05).これより,高音急墜型感音難聴では,球形嚢および下前庭神経由来の前庭機能と低音域聴力の相関が示唆された.近年では両側CIの頻度が増えていることから,術前の前庭機能評価が重要だと考える.

  • 妻鳥 敬一郎, 黒木 圭二, 西平 弥子, 三橋 泰仁, 坂田 俊文
    2021 年 31 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/26
    ジャーナル フリー

    基礎疾患の無い高齢男性が3週間持続する頑固な頭痛および耳痛を訴え,受診した.当初中耳炎として保存的加療を行ったが,改善はみられず.発症から約2カ月経過し,原因精査のMRIで脳膿瘍が発見され,頭蓋底骨髄炎からの脳膿瘍と診断できた.複数回の耳漏細菌検査を行ったが,当初起炎菌は不明であった.抗菌薬による保存的加療を行ったが,改善はみられず,後にアスペルギルス感染であることが判明した.脳膿瘍が治療抵抗性であったため,脳神経外科とともに開頭膿瘍摘出術および鼓室内ドレナージ手術を行った.24週間抗真菌薬投与を行い,アスペルギルスによる頭蓋底骨髄炎および脳膿瘍を治癒せしめることが出来た.

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