フォトン・エコーのくわしい取り扱いについては文献3),8)や,解説1), 6), 7), 9)や単行本10), 11)を参照していただくことにして,ここではエコー生成の原理について簡単に触れる.
フォトン・エコーの形成については, 2準位系原子の状態を幾何学的ベクトル
12)で表わし,スピン・エコーと同様のベクトル模型で, 90°~180°パルスによる励起を考えるのがもっとも理解しやすい.平衡状態で-z方向を向いていた擬双極子は,回転系でy方向に加えられた90°パルスによってx軸方向に励起されて巨視的分極をつくり, superradiant状態となる.この巨視的分極は不均一な緩和時間
T2∗のうちに, x-y平面内に拡がってしまい,ベクトルの平均としては0となる(この際,放出される光が自由誘導減衰であるが,励起光が矩形波でないと区別はむずかしい).第1パルスの後τ
sの時間に180°パルスをかけて,個々の分極を時間反転させると,さらにτ
s経過後にふたたび個々の分極の位相が揃って巨視的分極を形成し, superradiant状態を再現して光を放出する.これがフォトン・エコーである.ベクトル模型でなく,波動関数を用いても容易に説明できる
11).一般的には密度行列を用いて取扱われる.
フォトン・エコーを観測するには,均一な緩和時間
T1(縦緩和),
T2'(横緩和)と不均一な横緩和時間
T2∗およびパルス幅τ
pの間に,
T2∗, τ
p〓
T1,
T2'の関係があることが必要である.通常は,
T1,
T2'を無視して, τ
p〓
T2∗(パルス幅がδ-関数的)の場合が,解が解析的に求められるので取り扱われる
3). κ方向のエコー強度は,
Iisin;(κ)=(
N2/4)
I0(κ)(λ
2/∈
A)sin
2θ
1sin
4(θ
2/2)
で与えられる.
I0(κ)はκ方向へ放出される自然放出の強度, λは波長,
Aは照射面積, ∈は試料の誘電率である.パルス面積θ
i(
i=1,2)は遷移の双極子モーメントをμとするとき, (1/_??_)∫μ
Eidtで与えられる.エコーの強度はθ
1=π/2, θ
2=πのとき,最大となることがわかる.
T2∗<τ
pのときは解析解は得られず,また同じパルス面積θ
iに対しても
Eiとτ
piの選び方によってエコーの結果は異なり,エコーの形,エコーの幅(~τ
pi)ピーク位置,強度などが変わってくる
13).しかし,τ
p_??_
T2∗いずれの場合でも,また励起光が単一波長でなくても, cross relaxationが存在しないときには,エコー強度は,パルス間隔τ
sとともに指数関数的にexp(-4τ
s/
T2')で減少する.したがって, τ
sをかえてエコー強度を測定すると,励起条件とは無関係に,その強度の減少の割合から均一な横緩和時間
T2'が求まる.
フォトン・エコーの偏光方向は縮退のない2準位間では,第2パルスの偏光方向を第1パルスの偏光方向を基準にして測ってφとするとき, 2φで与えられる
3).いっぽう,気体試料のように準位に縮退があるときには,もはやベクトル模型は使えず,密度行列による取り扱いを忠実に行なって,偏光の方向が求められる
8).ルビーの遷移では,
m=±1/2_??_
m'_??_1/2なので, 2つの独立な組み合わせとして,縮退のない場合と等しくなる. Herrらは縮退のある場合について直線偏光以外の入射励起光によるエコーの偏光を計算した
14).
フォトン・エコーの伝播方向κは準位の縮退に関係なく, 2κ
2-κ
1で与えられる.したがってκ
1≠κ
2のときにはκ(=2κ
2-κ
1)だけを通す絞りを検出器の前において透過励起光を減少させることができる
3).
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