筆者の研究室で開発した積層マイクロリング共振器型Add/Dropフィルターは,超高屈折率差(Δ=34%)光導波路を用いた超小型波長フィルターである.バスライン導波路がクロスグリッド構造をもち,また基本要素が数十 μm角と微小であるために高密度集積化が可能である.さらには,複数のマイクロリング共振器を組み合わせるとフィルター特性の合成も可能になるなど,次世代フォトニックネットワーク用の合分波器として多くの特長をもっている.本稿では,この積層マイクロリング共振器フィルターの基本動作と特長を述べ,筆者の研究室での最近の研究成果と,これを用いた集積化フィルター回路に関する今後の展望を紹介する.
半導体光増幅器を用いた超高速波長変換に関して解説を行う.さまざまな非線形効果を用いた半導体波長変換デバイスについて概観し,この中で最も超高速の動作が可能な四光波混合を用いた波長変換について原理と特徴を説明する.超高速の波長変換の実験例や,変換光波長の切り替え実験例,位相共役を用いた分散補償などの応用例を紹介する.さらに,帯域の拡大のための量子ドットの導入について解説を加える.
強誘電体結晶(LiNbO3)光導波路と分極反転構造を用いた擬似位相整合非線形光学デバイスは,光通信や光信号処理の分野で多くの応用がある.この分野における最近の研究開発の現状を概観する.波長多重光ネットワークシステムへの応用を目指して活発に研究されている差周波発生型波長変換デバイスに関して,その特長や基礎特性を解説し,種々の変形による性能・機能の拡張・改善や応用研究を概観する.また,光サンプリングデバイスや光ゲートスイッチなどの超高速光信号処理デバイスについて述べる.さらに,将来の量子情報処理への応用を目指したスクイズド光発生や相関光子対発生などの量子光学機能実現についても述べる.
従来からのポイント・ポイント間波長多重光伝送の容量増大を目指した開発に加え,リング,クロスコネクト,ルーティングなどのより高度な光ネットワーク機能を実現するための検討も進展している.本稿では,これらのシステム実現への寄与を目指して筆者らが取り組んでいる石英系平面光波回路技術を用いた光機能デバイスの最近の展開について解説する.大容量光伝送用の波長分散,偏波モード分散,利得不均一補償ダイナミックデバイス,光ネットワークへの適用を目指した光ラベル処理デバイス,光符号多元接続用デバイスについて詳説する.
100Gbit/sを超える超高速光通信の実現を目指して,光信号を直接光で制御する全光型信号処理が注目されている.面発光半導体レーザー(VCSEL)において発振偏光の双安定性が出現する原理を解説する.また,光双安定性のメモリー機能とANDゲート機能を用いて実現される3R中継など,種々の全光型信号処理について述べる.さらに,VCSELの二次元アレイを用いて,各レーザーに1bitずつ信号を記録する光バッファの可能性についても触れる.
近年,都市域ネットワークの大容量化と柔軟な運用を可能とする技術として,光スイッチを用いた光ルーターの研究が盛んである.光スイッチとしてはSiの微細加工技術を利用したマイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)スイッチが先行しているが,さらに低コスト化を目指してポリマー光導波路の接続部を,外部応力変化によって結合・分離の制御を行う光スイッチ技術と光ルーターへの応用を紹介する.ポリマー導波路フィルムの柔軟性を使った機械式駆動というスイッチング方式は,制御の容易な2値制御でありながら高速切り替え,低損失などの特長をもつ.
リソグラフィー技術の進歩により10〜100nmレベルの人工ナノ構造物を自由に形成可能になった.このサイズは最先端トランジスタのゲート長と同程度であるとともに,DNAやたんぱく質などの生体分子サイズにも匹敵する.これまで生体分子分離には,ランダム構造からなる分離材が用いられてきたが,標的分子サイズに最適化された人工構造を用いることで効率的な分離が可能となり,チップによる微量・高速分析が実現される.
1999年,TAMA300レーザー干渉計重力波検出器は,世界に先駆けて本格的な重力波観測を開始した.残念ながら,いまだ重力波は検出されていないが,TAMA300はわれわれの銀河内で起きる重力波イベントを検出できるだけの感度をもっている.2002年には米国のLIGO検出器も稼働を始め,数年遅れの欧州の2台の検出器も含めて世界的な重力波観測ネットワークが構築されつつある.さらには,次世代の高感度レーザー干渉計を目指した技術開発も活発になってきた.
半漏れ型光アイソレーターは,導波TEモードと放射TMモード間のモード変換を利用して動作するアイソレーターであり,磁気光学効果による非相反なモード変換とLiNbO3 による相反モード変換を組み合わせて,逆方向伝搬波に対してのみモード変換を発生させることで実現される.このアイソレーターは,構造が単純でデバイスの許容製作誤差が大きく,特性の波長依存性が小さいという特徴がある.製作するために,磁気光学結晶上に異種結晶であるLiNbO3を十分な光学コンタクトを保って,装荷することが重要である.これを実現するために,ダイレクトボンディングによって,希土類鉄ガーネットCe : YIGとLiNbO3 の接合を実現し,半漏れ型光アイソレーターを試作した.
われわれは光誘起相転移の効率を高めるためのモデルを理論的に提案し,計算機シミュレーションによってその実効性を確認した.提案したのは,2種類の構成単位からなるナノ構造材料を使う方法である.具体的には異なる二つの安定状態をもちうる構成単位(分子など)を2種類用意する.その2種類の構成単位からなる超格子構造では,1種類の構成単位のみからなるものに比べて,より弱い光強度下でも,高速に相変化が起こることがわかった.この結果は,単独では相転移を起こしにくい物質でも,うまく二つの物質を組み合わせることで,効率よく相転移する材料を作り出すことができることを示している.
実験データと色覚系の階層性に基づく色のカテゴリカル認識モデルを紹介する.本モデルは視細胞レベル,反対色レベル,カテゴリーレベルの三つのステージで構成される.比較的シンプルな積算回路と最大検出器を有するネットワークモデルは,光源色モードや物体色モードなどの見えのモードの違いにかかわらず,基本色名の応答を反対色応答から統一的に精度よく予測できる.本モデルを色順応モデルと統合させることで,色名を認識するコンピュータービジョンや色管理システムに応用できる.また,色認識の加齢変化についても言及する.
アナログ入力信号を超高速サンプリングすることで高ダイナミックレンジを実現する超伝導Σ-Δ型アナログ−デジタル(A/D)変換器について解説する.このA/D変換器は単一磁束量子回路に基づいて実現可能であり,単一磁束量子回路の特長である高速性が生かされる方式である.特に,磁束の量子化による巧妙なフィードバック機能を有する1次のΣ-Δ型変調器を例にして,その動作原理を説明する.さらに,半導体回路との組み合わせによる回路の全体構成と特徴についても紹介する.
通信の大容量化を支える波長分割多重通信システムにおいて必須とされる波長可変光源について解説するとともに,光半導体集積技術を用いた波長選択光源,広帯域波長可変光源,およびモードホップフリー光源を紹介する.