シリコン(Si)基板上へのGaAs系およびGaN系半導体のヘテロエピタキシーに関するこれまでの研究成果を総合的にまとめた.InPなど類似の結晶の研究についても簡単に紹介し,発光ダイオード,レーザー,太陽電池,電界効果トランジスタなどのデバイス応用,実用化にあたっての課題について論じた.
今後の高機能Si LSIを実現するうえで引き続き重要であり続けているMOSFETの性能向上は,これまで素子寸法の比例縮小(スケーリング)により達成されてきた.しかしながら,微細化に伴う種々の物理限界要因により,スケーリングのみでの性能向上は困難になってきている.この問題を克服するため,最近,MOSFETのチャネルとして,Si/SiGe系材料とへテロ接合を用いることによる高移動度化が有効な手段と考えられるようになってきている.今後のMOSデバイス技術をけん引していく可能性のある,このSi/SiGe系MOSFETのコンセプト,デバイス構造,作製方法,電気特性などについて,デバイス実現のカギとなる基板作製技術とともに紹介する.
(411)Aや(775)B面といった高指数面で切り出された基板結晶上にIII-V化合物半導体へテロ構造を分子線エピタキシャル(MBE)成長すると,(411)A超平たんへテロ界面(基板サイズで実効的に原子平たんなヘテロ界面)や,ナノスケールの規則的な波板状の凹凸(コラゲーション)がある界面が形成される.これらは,通常の(100)面上のMBE成長では得られないまったく新しいヘテロ界面であり,真に原子平たんな界面をもつ量子カスケードレーザーや,高品質の量子細線レーザーなどの実現に重要な役割を果たすものと期待される.
パターンド磁気記録媒体は,記録層である磁性膜を,記録パターンに従って分離加工したものである.トラック間を分離加工することにより,今後の記録密度の向上で問題となる,記録ヘッドのフリンジ磁界による記録にじみを改善することができる.さらにビット間を分離加工し,記録単位を一つの単磁区粒子とすることにより,数十個の結晶粒に1bitを記録する現行の記録方式に比べ,磁化の熱安定性を飛躍的に高めることが可能となる.本稿では,Co系合金磁性薄膜を数十nmの寸法に分離加工するプロセスと,作製された試料の磁気的特性について解説する.
表面ゾルゲル法は,金属アルコキシドの溶液からの化学吸着と加水分解を繰り返し,分子厚みの酸化物ナノ薄膜を作製する手法である.得られる低密度,かつアモルファスの薄膜は,有機分子との化学的親和性に優れており,配位結合や水素結合,あるいは静電的相互作用を介して,多様なヘテロ接合を可能にする.表面ゾルゲル法で作製した有機/無機ナノ複合薄膜から,酸素プラズマにより有機成分を取り除くと,多孔性の酸化物ナノ薄膜が得られる.また,親水性高分子で被覆した酸化物ナノ薄膜は,たんぱく質の優れた支持体となる.本稿では,酸化物ナノ薄膜を用いた高分子,生体分子の組織化について解説し,その化学や工学的な応用について展望する.
固体状態では分子が周りの環境の影響を強く受けるために,溶液中とは異なったユニークな化学が存在する.固体状態に特有なキラル構造,反応を研究するには,固体状態のCDスペクトルを測定しなくてはならないが,固体特有の巨視的異方性と非理想的偏光変調分光装置とのカップリングのために,偽のスペクトルを与えることが多い.巨視的異方性は,求めたいCDの10〜1000倍も大きいことがある.われわれは,固体状態の観測も可能な新しい分光装置UCS(Universal Chiroptical Spectrometer)を開発したので,その原理,特徴,測定法を応用例とともに解説する.
六方晶ZrB2はきわめて大きな電気伝導率,良好な熱伝導率をもち,その α軸格子定数は0.3169nmとGaN(0.3189nm)とほぼ格子整合しており,GaN用基板として有望である.本稿では,分子線エピタキシーによるZrB2 (0001)基板上へのGaNのヘテロエピタキシャル成長について述べる.エピタキシャル関係や,低温成長緩衝層の効果,GaN成長層の極性などについて報告する.
欠陥の少ない高品質有機単結晶薄膜は,電流注入型有機半導体レーザーや高移動度有機電界効果トランジスタの実現に必須である.これらの高機能有機素子を通常の無機半導体基板上に構築できれば,新奇な機能をもつ有機/無機ハイブリッド素子の開発が期待できる.われわれは,表面を不活性化したシリコン基板を用い,有機単結晶薄膜成長時に「異方的成長条件」を導入することによって,広範囲にわたって連続した結晶性ドメインの形成をめざしている.本稿では,微傾斜シリコン表面をbilayer -GaSeで不活性化した基板上にC60 薄膜をエピタキシャル成長する際に,表面不活性化と異方的成長条件がどのような効果をもたらすかについて紹介する.
無機化合物と界面活性剤の協奏的相互作用によって形成される無機/有機メソ構造体および,これから界面活性剤を除去して得られるメソポーラス固体に関して,その形成機構,メソ構造,および応用の可能性を紹介する.メソポーラス固体は,触媒,触媒担体,吸着剤などとして従来の材料とは異なる特性を示すことが期待され,その合成,評価に関する活発な研究が行われ,細孔構造の詳細な設計が可能となった.最近ではその構造とホスト−ゲスト化学を駆使して,センサーや発光などの光学素子への展開も期待されている.
LSI配線を伝搬する信号のシミュレーション技術について概説する.まず,LSI配線で用いられる解析モデルについて説明する.次に,表皮効果や近接効果,基板効果などの高周波効果を,実際のシミュレーション例を用いて紹介する.
超伝導機器の冷却方法として,今後の実用化を考えると液体窒素などの寒剤ではなく,小型冷凍機による冷却が必須である.極低温領域の代表的な冷凍機は蓄冷型冷凍機である.その冷却メカニズムは,作動流体が蓄冷器内を圧力変動を受けながら往復動し,適当なタイミングで蓄冷材との間で吸放熱することにより,熱が蓄冷材を介してバケツリレーされ,くみ上げられることである.代表的な蓄冷型冷凍機はスターリング冷凍機,GM冷凍機,パルス管冷凍機であり,それらの構造および特徴を紹介する.特にパルス管冷凍機については,最近までの発展について分類と構造的特徴を概説する.パルス管冷凍機は低振動性と保守性から今後の広範囲の応用が期待されており,その特徴を生かした応用例についても簡単に言及する.