最近,従来とは異なる光の形態が注目されている.本稿では,以下の三つの話題を取り上げて紹介したい.(1)光速を越える群速度,(2)電磁誘導透過(EIT)による低群速度と光パルスの静止,(3)メタ物質における負屈折率.いずれも従来の光に対する常識を覆す現象であり,その物理的な仕組みや意味に興味がもたれている.一方,量子制御などの新しいタイプの光技術への応用の可能性についても,さまざまな試みがなされている.
生物の中には光のOn/Offによって細胞機能を制御するシステム,いわゆる「生体光スイッチ」が存在する.一方,多彩な発光色をもつ生物発光システムが単離され,本システムを導入した発光細胞がセンサー化されつつある.われわれは究極の光⇔光制御システムの構築をめざし,生体光スイッチをコンポーネント化,光によって自由にかつやさしく細胞発光素子を操る技術の創製をめざしている.この研究過程において,発光性渦鞭毛藻という生物に着目している.これまでに発光性渦鞭毛藻は光の受容物質であるクロロフィルを代謝し発光基質を生合成,光On/Offに連動して発光基質をエネルギー源として発光を行うことが明らかになりつつある.この巧みな「光に連動したあるいは制御された発光するシステム」をコンポーネント化して,光制御可能な細胞発光素子を構築したいと考えている.
最近,基底状態とはまったく異なる構造や電子状態をもつ巨視的状態が光照射により生成されることがわかってきた.これらの現象は光照射強度や光照射時間に対して「閾値」や「孵化時間」など協力現象としての振る舞いを示すことから,光誘起相転移(PIPT)として注目されている.本解説では,この分野の研究の現状を概説した後,新しい秩序の創成のメカニズムに焦点を絞って,スピンクロスオーバー錯体と量子常誘電体における最新の結果を紹介する.
最近ZnOが注目を集めている.ZnOは古い材料であり,ヴァリスター,ガスセンサー,日焼け止めなどに利用されてきた.励起子レーザーの室温発振を契機として,光材料,電子材料として新しい局面が開かれつつある.デバイス化に向けては,高品質薄膜の成長,ヘテロ構造形成,混晶制御,伝導制御,デバイスプロセスなど解決すべき課題は多いが,着実な進展を見せ,ZnOの持ち味を生かしたデバイスが生まれつつある.本稿は主にZnOのエピタキシーに重点を置いて最近の進展を概観する.
機能的な細胞集団の空間的な配列や外界からの刺激によって引き起こされる神経活動の空間パターンから,脳機能を解明する研究が行われている.脳活動のイメージングはそのための有力な手段である.本稿では,1)その中でも代表的な内因性信号のイメージング法について解説し,2)視覚連合野における物体像の表現の問題を例に,その手法がどのようなインパクトを脳機能の理解に与えるかを紹介する.私たちは,二次元の機能イメージング技術であるその技術を,さらに発展させて三次元の機能イメージングに成功した.後半では,この三次元の機能イメージング技術である機能的OCT(fOCT)について詳しく解説する.
レーザーマニピュレーションは,光圧を用いてさまざまな微粒子を非接触的に捕捉・操作する方法論として発展し,生体分子などの1分子計測法にも応用されている.最近,筆者らは微粒子ではなく高分子材料中の分子鎖や,液晶分子に直接光圧を作用させ,その形態変化や回転制御を行うことに成功した.ここではそれらの現象について紹介する.
金属微小構造に特有の光応答能を利用して,局所的な電気化学的金属溶解・析出反応を誘起する手法について紹介する.この手法によって構造制御が可能となる金属のサイズ領域を議論するとともに,その応用の実例についても言及する.また,金属ナノ構造制御の手法がさらに発展することにより実現が期待される系について議論する.
光技術は,生命科学研究に不可欠な技術となっている.特に,最近の光学顕微鏡周辺技術の進歩には目を見張るものがある.近接場顕微鏡や光ピンセット,2光子励起顕微鏡などに代表される新しい顕微鏡装置と,新しい機能性蛍光試薬の開発や緑色蛍光たんぱく質,量子ドットなどに代表される蛍光標識技術の進歩が,顕微鏡技術に革新的な変化をもたらしている.ここでは,光を使った生体分子の1分子イメージング,操作技術とナノ計測技術を解説し,将来を展望する.
最近,光応答性磁性物質の開発が盛んに行われるようになってきている.こうした光磁性に関する研究は,基礎的な側面からだけでなく将来のフォトンモードによる光記録材料の開発という応用面からも重要である.本稿では光誘起スピン転移物質,光誘起原子価異性物質,光誘起磁石の開発を中心に最近のわれわれのグループの研究成果について紹介する.
STM(Scanning Tunneling Microscopy)を用いて,低温成長したGaAs結晶中に存在するAsアンチサイトと考えられる欠陥がEL2センターと同じ双安定挙動を示すことを明らかにした.実験結果に基づき,EL2センターの原子構造およびフォトクウェンチ効果のメカニズムを議論した.
高温超伝導体の溶融バルク材料は,強いピン止め効果により,テスラ級の磁場を捕捉できる.そのため,新しい磁場発生源としての応用が期待されている.これらの材料が磁場を捕捉する原理や,試料の育成方法,超伝導特性などについて概説する.さらに,応用上重要な技術である着磁方法についても述べ,パルス着磁においては粘性力を考慮することが重要であることを示す.