有機薄膜太陽電地,あるいは,バルクヘテロジャンクション太陽電池の一つと見なしうる色素増感酸化チタン(TiO2)太陽電池(DSC)の特徴と最近の研究を論じた.DSCの多孔質TiO2電極において,拡散係数と電子寿命測定で求められる電子の拡散長が数μmと大きく,その結果,電極厚さが数μmの多孔質電極の使用によって高い変換効率を与える.ルテニウム金属を有しない有機色素の研究と,DSCに用いられてきたルテニウム増感色素の光・熱安定性を紹介した.イオン性液体を電解質とするDSCの長期光・熱安定性についても言及し,今後のDSC研究を展望した.
安価で高性能な次世代型太陽電池の候補として注目されている色素増感太陽電池の高性能化について,その要素技術の観点から紹介し,将来の課題について述べた.まず,太陽電池の性能を支配する,短絡電流,開放電圧,フィルファクターの向上のためのアプローチの方法を紹介した.次に具体的例としてチタニア光電極の最適化として,チタニアナノ粒子と光散乱大粒子を組み合わせた層で構成される光電極で光吸収効率を上げる試み,いわゆる光閉じ込め効果について紹介した,この方法により,色素増感太陽電池の変換効率10〜11%を達成することができた.次に,新しい色素の設計指針を紹介し,変換効率8%以上の高性能なRu色素や有機色素の開発例について述べた.
素材経費と製造プロセス経費を含めたトータルで大幅なコストダウンの可能性を秘めた太陽電池の候補として,有機半導体を用いて作製される薄膜太陽電池がある.有機薄膜太陽電池に関する研究には長い歴史があり,第1次ブーム後しばらくの停滞期間を経て,今世紀に入り再び研究開発が活発化している.最近では,高効率化に向けて,有機材料の特徴を積極的に活用した素子構造が提案されるようになった.ここでは,有機薄膜太陽電池の最近の研究動向とその動作原理,今後の展望について紹介する.
有機EL素子と同様,太陽電池も平面デバイスとして曲面設置やモバイル用途をねらって軽量フレキシブルフィルム化をする研究が活発化している.色素増感太陽電池はアモルファスシリコンと競う高い変換効率,カラフルなボディーという特徴に加えて,電極をフィルム化することで大幅なコストダウンを実現できるメリットをもつ.このフィルム化に必要な半導体多孔膜の低温成膜工程と高効率化の技術を解説し,モジュールセルの試作例を示しながら,技術が向かう産業分野を展望する.
われわれは数台の原子時計を情報通信研究機構小金井本部から標高が700〜800m高くに位置する長波標準電波送信所へ運搬した.その際に日本標準時の発生計測システムを用いて高度の変化に伴う重力赤方偏移の検出を試み,10-14レベルの計測によって一般相対論からの予測とほぼ一致する周波数変化を観測した.観測された値は,理論値+7.8x10−14 のおおたかどや山局において+7.6x10−14,理論値+9.0x10−14 のはがね山局において+12.1x10−14 である.
色素増感太陽電池の動作機構とレドックス電解質溶液の固体化について,筆者らの研究を中心に紹介した.色素増感太陽電池の特徴をまずまとめ,電荷伝播を含む動作機構を解説した.液体を多量に含みながら硬い固体を形成できる多糖類(アガロースやカラゲニン)を用い,ヨウ素系のレドックス電解質溶液を固体化した.固体化電池の光電変換特性は通常の液体系電池と同等であった.交流インピーダンス法により,各電荷伝播過程は固体系,液体系で同等な特性をもつことを明らかにした.
色素増感太陽電池の実用化をにらんで固体化する研究が盛んである.本論文では電解質をゲル化することにより擬固体化した太陽電池を紹介する.電解質を固体化した後,太陽電池性能を低下させないために以下の点に着目した.
1)擬固体電解質と対極やナノポーラスチタニアとの界面制御
2)擬固体電解質中でのイオン拡散の低下防止
3)ポーラスチタニア中での電子拡散の向上
4)大面積化を目指した潜在性化学ゲル化剤
色素を添加した亜鉛塩水溶液からのカソード電析により,透明導電性ガラスやプラスチック基板上に酸化亜鉛/色素ハイブリッド薄膜を作製できる.色素にエオシンYを用いると,数μmサイズの発達した結晶粒中に無数のナノポアが三次元的に形成されることで,高結晶性と高比表面積を両立する特異な酸化亜鉛結晶薄膜を与える.この薄膜に色素を吸着させることで,さまざまな色調をもった酸化亜鉛/色素薄膜を形成し,それを光電極とするフィルム型カラフル太陽電池の試作に成功した.
イオン・スパッタリングを用いることによりナノ・サイズのパターンを金属表面上に形成することができる.パターンは自己組織化的に形成される.室温,大気中でパターンを安定化させるためには金属原子の表面拡散を抑制しなければならないが,それには表面への酸素吸着が有効であることがわかった.またイオン・スパッタリングにより磁性金属薄膜上にパターンを形成し,薄膜の磁化異方性を制御することに成功した.
フラストレーションをもつソフトマテリアルは,独特の構造様式をもつ点において興味深いが,その構造は微妙なバランスで成り立っていることが多く,安定性の面で実用材料への応用は困難視されていた.筆者らは,三次元らせんナノ周期構造を有するブルー相液晶のフラストレーションを解消し,温度変化や電場印加などによってバランスを崩すことなく安定にブルー相の特異な構造を保持させることに成功した.ここでは特に,ブルー相の電気光学材料としての大きなポテンシャルを紹介したい.
パワーエレクトロニクスおよびパワーデバイスの現状と将来を展望し,今後の技術課題と研究の方向性を述べた.将来を展望する指標として電力変換装置の出力パワー密度に着目した.高出力パワー密度化にはパワーデバイスの高速・低損失化が不可欠であり,この視点からパワーデバイスの進展を考察した.既存のパワーデバイスは性能限界が顕在化しつつあり,限界突破技術としてワイドバンドギャップ半導体の可能性を述べる.