フェムト秒高強度レーザーを希ガスなどに集光して得られる高次高調波は,XUV領域において非線形現象を発現できるほど強力な光源であるばかりでなく,現状ではフェムト秒からアト秒に至る極超短パルスを発生できる唯一の光源である.高次高調波が初めて観測された当時は,このような進展は望むべくもなかったが,励起光源であるフェムト秒チタンサファイアレーザー技術の成熟にも支えられて,今や,XUV領域の新しい超高速光科学を開拓する重要なツールとなりつつある.本報告では,最近の高次高調波の高出力化と応用技術の開発動向を中心に,アト秒パルスの発生および計測を含めて高次高調波を用いた新しいXUV領域の超高速光科学について紹介する.
フェムト秒レーザーの特長は,超高速性と超高電界である.超高速・超高電界を利用した学問的分野や超高速・非線形性を利用した産業分野での研究が活発化している.フェムト秒レーザーの特長を生かした応用は,高エネルギー物理や核物理といった分野で新しい領域を切り開くだけではなく,これまでにないプロセスツール・計測ツールとして情報通信,ナノテクノロジー,医療,環境などの分野で新技術の展開を促すものと期待されている.極短時間の物質と光の相互作用による非熱的プロセスを用いた半導体結晶制御,金属や透明物質の微細加工,細胞加工などの研究が進んでいる.
30兆分の1秒(33フェムト秒)の間に,百万kWの発電設備85万基分の,850兆W(0.85ペタワット)の光を放つテーブルトップレーザーが完成した.このようなレーザーは,瞬間的にエネルギーを微小領域に集中することができるため,超高強度,超高圧,超高密度などの極限状態の下で初めて発現する現象の研究が飛躍的に進展し,荷電粒子の加速からガン治療まで幅広い応用が期待される.本稿では,最近開発に成功したペタワットチタンサファイアレーザー装置を中心に,これらのレーザー開発において最も重要となる極短パルスレーザー光の発生とその増幅過程におけるレーザー制御技術,およびこれらのレーザーを用いた応用研究の現状について紹介したい.
レーザー爆縮により核融合点火に必要な超高温度と超高密度が個別に達成され,レーザー核融合の研究は燃料の点火・燃焼と高い核融合利得の可能性を実証することが目標となっている.近年,高速点火という先進的な点火法が提案された.この方法では爆縮における球対称性に対する要求が緩和され,また,小型のレーザーで高い核融合利得が期待される.コーン付ターゲットを用いて高速点火の有効性が実証され,核融合研究に新しい展開が開かれようとしている.
リソグラフィー技術は半導体ロードマップのけん引車として幾多の壁を乗り越えてきたが,さらなる微細化に向けて精力的に開発がなされている.リソグラフィーの主役はKrF(248nm),ArF(193nm)エキシマレーザーを光源とした光リソグラフィーが今なお主役であり,マスクやレジスト技術の革新により65nmノードの量産が視野に入ってきた段階である.しかし,一方で早期実現が期待された次世代リソグラフィーの登場は遅れているのが現状で45nmノード以細の主役は確定できていない.登場が遅れている次世代リソグラフィー技術であるが,その候補は年々増えてきており百花りょう乱の状況にある.そのトレンドは,F2レーザー(157nm)からEUV(13.5nm)への,いわゆる光の短波長化路線と,一方で電子線を活用した電子ビームリソグラフィーに大別される.特に最近,ここにきて液浸リソグラフィー技術が大きな話題となり,ArFやF2リソグラフィー技術を延長する開発が活発化されてきている.さらに,インプリントリソグラフィーも当初ナノテクノロジー分野での応用が主たるものであったが,最近半導体活用へ話題となってきている.本報では,光リソグラフィー技術の現状と次世代リソグラフィー技術の動向を世界の状況を加味しながら解説し,今後の半導体の微細化方向について言及した.
半導体量子井戸中のサブバンド間遷移の応用は,これまで主として,中赤外線域にとどまっていた.しかし近年,結晶成長技術の進歩にも支えられて,種々の材料系においてサブバンド間遷移光波長が光情報通信波長帯にまで短波長化されている.これにより応用範囲が格段に広がることが期待される.本稿では,サブバンド間遷移光短波長化の現状を材料ごとに概観した後,窒化物半導体量子井戸中の短波長サブバンド間遷移について,筆者らのグループの研究成果の一部を紹介する.さらに,超高速全光スイッチング素子などの応用について展望する.
1995年にGaN系材料を用いた波長405nmの紫色半導体レーザーが発表されて,約8年が経過した.現在では,紫色半導体レーザーを用いた次世代大容量光ディスクの実用化をはじめ,バイオ,医療,印刷,露光用光源など新たな分野への応用がすでに始まっている.最近,発振波長域は紫外域から青緑色域へと拡大して,さらなる新しい応用の可能性が期待されている.ここでは,紫外域から青色域のGaN系半導体レーザーの現状について報告し,今後の課題について述べる.
高強度フェムト秒レーザーを分子に照射すると,非共鳴多光子吸収により親イオンを生成できる場合がある.ブタジエンなどの炭化水素では,そのイオンと励起レーザー波長が非共鳴であれば,親イオンを生成できる.ペンタクロロフェノールなどの塩素化合物にも適用できた.環境汚染分子の微量分析への応用が期待される.
パルスレーザーのもつ高いパワーと時間的・空間的な高いコヒーレンスとを組み合わせて,ほかの手法では得られない独特のプラズマ計測法が発展させられてきた.本稿では,その最も代表的な手法であるレーザートムソン散乱法とレーザー蛍光法について,最近の動きを中心に報告する.
希土類イオンにおける4f殻内電子遷移はスクリーニング効果により母体の種類に大きく左右されず,各元素に特有の波長で,鋭くかつ温度依存性がきわめて小さい発光スペクトルを示す.このような希土類元素特有の発光特性を半導体を母体として電流注入により実現することはきわめて魅力的である.Er発光中心の単一化が達成されているEr,O共添加GaAsを発光層とする発光ダイオードを有機金属気相エピタキシャル法により作製し,室温において1.54μm領域にEr発光を観測することに成功している.また,発光特性の注入電流密度依存性より従来の報告を大きくしのぐEr励起断面積が得られることを明らかにしている.
インターネットの爆発的な普及に対処するため,波長多重(WDM)システムをベースとする光ネットワークが急速に進展している.WDMシステムの構築には,従来の光部品以外に,高精度な合分波用波長フィルターが必要不可欠である.また,光信号を電気信号に変換せずにルーティングなどを行うためには光スイッチが重要となる.この目的に合わせて,バルク型,光ファイバー型,平面導波路型,MEMS型などの各種光デバイスが精力的に開発されている.ここでは,このようなWDMシステムに適用が開始された光部品の最近の研究開発動向について概説する.
IT時代のストレージデバイスの中核的存在である磁気記録を応用したハードディスクドライブの現状と,今後の高密度化を支える代表的な技術(垂直記録,トンネル磁気抵抗型ヘッド,パターン型媒体,プローブストレージなど)について紹介する.さらにその中で活用されている,スピンエレクトロニクスの基礎研究の成果について解説する.