高出力高周波デバイスは,情報化社会のネットワーク基盤であるワイヤレス通信システムを支えるキーデバイスである.GaNやSiCなどを用いたワイドギャップ半導体電子デバイスは,その材料特性から高出力高周波デバイスとして大きな期待があり,本稿ではこれらワイドギャップ半導体高周波デバイスの応用分野,現在の開発現状,および今後の課題について解説する.
AlGaN/GaNヘテロ接合の分極電荷と電子速度の電界依存性について概説するとともに,HEMTチャネル内の実効電子速度を遅延時間解析により求め,その温度依存性を明らかにした.また,高電界印加時に生ずる現象としてオフ耐圧・EL発光と電流コラプスについて詳細に検討し,そのメカニズムを明らかにした.
GaNあるいはAlGaN/GaNヘテロ構造を用いた電界効果トランジスタの研究開発は,最近,特に日本からの寄与によってその進展は著しい.しかし,電流コラプスやゲート漏れ電流など,表面に深く関連する不安定性の問題は未解決であり,その機構の解明と制御が求められている.ここでは,「表面の問題」として漠然と扱われてきたいくつかの現象を整理するとともに,欠陥制御の立場から,電子デバイスの表面不活性化について述べる.
水素終端されたダイヤモンドのp型表面伝導層をチャネルとした金属/絶縁体/半導体型電界効果トランジタで,相互コンダクタンス100mS/mm,遮断周波数20GHz以上が得られる.高周波特性から抽出された等価回路解析から,ソース抵抗,ゲート抵抗,基板容量の現実的な減少により,ゲート長0.2 Lmで,遮断周波数40GHz,最大発振周波数100GHzが期待できる.キャリア輸送特性を遮断周波数と印加電界あるいはゲート長との関係から包括的に評価し,チャネル移動度200cm2/Vs程度,キャリアの平均的な走行速度5h106cm/s(飽和速度の50%)を得た.表面の散乱中心をなくし,バルク並みの高移動度を得るダイヤモンド界面制御技術が望まれる.
窒化物半導体を用いた高周波電子デバイスの最近の研究動向を紹介する.まず,ギガヘルツ以上の高周波帯における高耐圧・高出力デバイスとして,窒化物半導体ヘテロ接合のもつ特長について論じる.次に,窒化物半導体へテロ接合FETのデバイス作製プロセスとデバイス設計の要点について述べる.実際に作製したヘテロ接合FETの直流特性と小信号特性を紹介した後,1チップで100W以上を出力できる高耐圧デバイスと,準ミリ波帯で数Wを出力できる高利得デバイスについて,それぞれの高出力特性を議論する.最後に,今後に残された課題と将来の応用に向けた展望について述べる.
SiCは高出力・高周波デバイスの半導体材料として有望であり,これを用いたMESFETやSITは,移動体通信の基地局用増幅器やレーダーなどへ応用が期待されている.われわれはSiC-MESFETを作製して,高周波デバイスとしての性能評価を行っている.ここでは,試作したMESFETの静特性や高周波特性を中心に,これまでにほかで報告されているSITやJFET,BJT,インパットダイオードなどのSiC高周波デバイスの開発状況を紹介する.
テレビやコンピューターの表示装置の大画面化,高解像度化の実現により,研究の次の目標として,より高い臨場感や立体感の表現に関心が高まり,立体表示の研究が活発化している.本稿では,立体表示の最近の研究からいくつかを紹介する.
GaN(窒化ガリウム)素材は広いバンドギャップ(3.4eV)に起因する高い破壊電圧と高い飽和電子速度という優れた物性定数をもち,さらに,AlGaN/GaNのヘテロ構造による高電子移動度の二次元電子が生成できるため,HEMTとして高出力高周波動作が期待されている.高性能AlGaN/GaN-HEMTを実現するにおいて,高電子濃度の二次元電子と,寄生抵抗が小さいことを両立させることが重要である.これを実現する技術としてリセスゲート構造を提案してきた.熱伝導のよいSiC基板上に,このリセスゲート構造をもったHEMTを試作し,高gm特性とともに,良好な高周波特性を得たことを述べる.
高品質ダイヤモンドホモエピタキシャル薄膜を用いて,ダイヤモンド短ゲートMESFETを作製した.ダイヤモンドでは最高の高周波特性(遷移周波数 fT=25GHz,最大有能電力利得(MAG),最大単方向電力利得(U)に対する最高発振周波数はおのおの fmax (MAG)=63GHz,fmax (U)=81GHz)を示し,初めてミリ波帯での増幅を実現した.1GHz,A級動作の電力測定では広い範囲で14dBの線形電力利得を示し,最大出力電力は0.35W/mmになった.高周波雑音特性を初めて測定し,最小雑音指数(Fmin)は3GHzで1dB程度となり,低雑音性を示すことがわかった.
化学的機械研磨(CMP)による平たん化は,ULSIの高集積化・微細化を支える,必要不可欠なプロセスである.優れた平たん化特性を実現するためには,CMPプロセスの本質を明らかにし,研磨に用いる研磨スラリーを最適化することが重要なポイントとなる.われわれは,スラリー設計への指針を示すことを目的とし,CMPの研磨メカニズムをミクロな観点から調べてきた.本稿では,絶縁膜用CMPで実用化されている2種類の研磨スラリーを対象に,原子間力顕微鏡により研磨スラリーが被研磨面に与える影響を評価した結果を紹介する.
二段階気相成長法は,窒化ガリウム(GaN)の蛍光体応用に向けて,筆者らのグループが考案したGaN粉体の新しい合成法である.この手法は,粒子の形成過程を種結晶粒子生成と粒子成長の2過程に分離して,それぞれの過程に適した二つの化学反応を気流中で連続して進行させることを特徴とする.これにより,収率の高い合成や,高度な特性制御などが期待される.
弥生時代が従来の学説よりも約500年早く始まっていたのではないかという国立歴史民俗博物館による研究は,微量の炭素試料の 14C濃度を精確に測定できる加速器質量分析法(AMS)の恩恵によるものであるが,その背景には,1990年代後半以降の,AMS装置の性能向上の寄与によるところが大きい.われわれの最近の研究を,AMSによる 14C測定の現状と,その考古学への応用という観点から紹介する.
光電子集積回路技術の現状と将来について,モノリシック集積を中心に概説する.モノリシック型光電子集積回路(OEIC)の技術的課題を,材料技術を軸として説明している.化合物半導体系,異種材料系,Si系OEICのそれぞれの現状を整理し,解決すべき技術的課題と実用化・商用化に向けた観点から目指すべきOEICについて述べている.
磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)は次世代の不揮発性メモリーとして期待されているが,市場になかなか出てこない.本稿では,MRAMの動作原理とその優位性を解説する.また,MRAM実現の課題「なぜすぐにできないのか」について述べる.さらに,超低消費電力で高速・ギガビットのMRAM開発に向けての取り組みと将来技術について言及する.