集束イオンビーム励起表面反応を用いた立体ナノ構造形成技術は,①集束イオンビームのビーム径が5nmまで収束可能であるので,三次元CADデータを用いて,数十nmレベルの立体ナノ構造形成が可能である.②ソースガスを変えることにより,金属,半導体,絶縁体など多種の材料で三次元ナノ構造形成が可能である.集束イオンビームを用いた三次元ナノテクノロジーは,エレクトロニクス,メカニクス,オプテイクスからバイオテクノロジーまで広範囲にわたるナノテクノロジーの中核技術として期待されている.これらの特徴を有する立体ナノ構造造形技術を利用することにより,これまで実現できなかった空中配線技術,静電ナノアクチュエーター,バイオインジェクターおよび静電ナノマニピュレーターなどの立体ナノツールを非常に簡便なプロセスで作製することに成功した.
本稿では,LSI製造およびナノ加工への応用のためのX線リソグラフィー(PXL)とりわけシンクロトロン放射光を利用したSRリソグラフィーと極短紫外線リソグラフィー(EUVL)の現状と将来展望について概説する.SRリソグラフィーでは幅広い要素技術が開発されサブ100nm LSIの試作を通して技術実証がなされたものの,工業化への道は遠のいてしまっている.しかしながら,X線リソグラフィー技術はその特長を生かすことにより,近い将来のナノテクノロジーの分野で有効に活用できるものとして期待される.一方,極短紫外線リソグラフィーはLSI製造用の次世代リソグラフィーとして期待されており,日米欧でコンソーシアムが中心となって要素技術の開発を精力的に進めている.この技術がメジャーになるためには,量産技術の開発時期と性能が世の中の要求に見合うものであるかということと経済性の検証が重要となる.
CTは1973年に出現して以来,発展を続け,その究極の夢というべきダイナミックボリュームイメージングの実現が近づいている.これを実現するためには,コーンビームX線の連続回転を用いる四次元CT装置が必要であるが,現在のCT技術の延長上にこの装置の開発は可能である.この稿では,過去のCTの発展を手短にたどり,現在,著者たちが開発している四次元CT試験機について紹介する.
シンクロトロン放射X線リソグラフィーにより数百μmの厚さで高いアスペクト比のマイクロ・ナノ構造体の加工を行うことができる.さらに,高精度X線マスクを用いて200nm幅で15µm厚さのアスペクト比75の構造体や,レジスト内のX線吸収エネルギー分布を変化させ,曲面を有する新規な三次元マイクロ・ナノ構造体を作ることが可能となった.これらの製法の概要と応用の展望を概説する.
従来の分折機器をマイクロサイズにしたµ-TAS (micro-Total Analytical System)技術の一つの出口として,使い捨て型医療用バイオチップの開発が展開されている.プラズマプロセス,特にエッチング技術は血液,たんぱく質,DNAなどの分析用流路・構造や部品の形成に活躍している.本稿は,石英板微細加工によるヘルスケアチップ,電気浸透流ポンプ,セルソーターチップ,ナノピラーを用いたDNA高速電気泳動分離チップ,パーマロイ加工による流路と磁気ビーズを用いたアフィニティアッセイチップなどのわれわれの最近の技術を紹介し,最後に今後の展開を述べる.
親指サイズの超小型電子顕微鏡を開発している.その第一のコア技術であるセラミックス一体型コラムを試作した.セラミックス一体型コラムは導電性セラミックスの円筒内面に,すべての電子光学エレメントを一体で形成する技術である.安定した高抵抗導電性を示すアルミナベースの導電性セラミックス材料を開発し,かつ,高精度研磨加工により各レンズ電極をセラミックス円筒内に集積して形成することができた.
二次電子画像観察を通してコンセプトを検証することができ,このセラミックス一体型コラムをベースにしてポータブルSEMの試作機を製作した.
荷電ビーム照射により原子レベルの欠陥が結晶表面に誘起できると報告されている.これとは逆に,荷電ビーム照射が欠陥を消失して表面結晶性を回復する現象を発見した.この現象は低エネルギー電子線(<70eV)照射により起き,非熱的過程である.実験手法は,マクロの表面応力測定と,ミクロの走査トンネル顕微鏡による表面構造観察の複合である.照射試料はシリコン表面欠陥層で,実験は室温で行った.将来的には,熱に弱い固体部位を室温でアニール修復する新プロセス技術へと発展できる.ビーム径をナノメートルに絞る技術が出現すればナノ加工にも応用できる.
半導体表面に溶融しきい値より十分小さい強度のパルスレーザー光を照射すると,表面原子結合が電子的に切断され,表面原子の脱離や空格子点の生成・成長が誘起される.この電子的結合切断の効率は,励起強度に対して非線形であるとともに,励起光の波長に強く依存する.本稿では,Si(001)-(2×1)表面における実験結果に基づき,半導体表面での電子的結合切断現象の特徴を明らかにするとともに,その電子的機構を議論する.
走査型プローブ顕微鏡はナノメートルでの表面観察のみでなく,微細加工やマニピュレーションなどナノエンジニアリングツールとして進化をつづけている.本稿では,プローブ先端で生じるさまざまな相互作用を利用した微細加工ツールとしてのプローブ技術について述べる.機械的作用を用いたナノスケール超音波振動切削法,ピペットプローブを用いた化学的加工法,近接場光を用いた光学的加工法,そして電気化学的作用によるナノスケール着消色加工法など最近のわれわれの取り組みを紹介する.
陽電子をナノプローブとして用いると,高分子構造間にある空げきの大きさや量を定量的に求めることが可能である.また,陽電子は測定中に高分子に照射効果を与え,極低温で高分子鎖の運動の停止した高分子にみられる捕そく電子を介して,高分子の緩和現象を研究するプローブともなる.消滅する相手の電子の運動量はドップラー広がりに反映し,広がりのすそ野から内殻電子の高エネルギー電子運動量成分を分離でき,高分子中に含まれる微量元素の検出にも応用できる.低エネルギーの陽電子は,厚さ数百nmほどの薄膜中に存在するナノサイズ空げきを定量的に測定することを可能にし,半導体素子表面の高分子絶縁膜などの非破壊による特性解析に重要な役割を果たす.
相変化光ディスクは650MBのCD-RWから4.7GBの記録型DVD,23GBのBlu-rayと記録容量が増してきており,主な用途が文書データや音楽の記録からDVDレコーダーなどによる動画の記録に広がり,長年動画記録の主流であったテープ媒体を置き換えるようになってきている.ここでは,このように発展している相変化光ディスクの記録媒体と光ヘッドを中心に,技術の現状と将来技術について解説する.
半導体スピンエレクトロニクスとは,電子の電荷を主に用いていた半導体エレクトロニクスの世界に,従来かかわってこなかった“スピン”という物理量を積極的に利用して,新しいデバイス体系を構築しようとする研究分野である.スピンや磁性の性質が顕著に現れる半導体をベースとした材料の開発と,その物性を制御しデバイスに応用しようとする最近の研究の進展を中心に,現状を解説し将来の課題と展望を述べる.