官民プロジェクト,(株)スーパーシリコン研究所は世界最初の直径400mm超大口径・半導体シリコンウェーハの製作に成功した.日本はシミュレーションソフトと計測技術分野で欧米に遅れていることを自覚しつつ,世界に向けて先端技術を発信する主導的役割を果たしていかねばならない.あわせて,独自の考え方を示すことができる能力の育成や“真”の産官学の共同開発が求められる.
細い線状の窓を用いて,基板のもつ結晶情報は受け継ぐが,欠陥情報は排除する選択エピタキシャル成長をマイクロチャネルエピタキシー(Microchannel Epitaxy : MCE)と呼ぶ.これを実現するため,基板上にたい積したアモルファス膜に開けた細い線状の窓から横方向または縦方向にエピタキシャル成長を行う.特に格子定数差の大きなヘテロエピタキシーに応用することにより,従来技術では困難であった無転位結晶の成長が可能となった.この技術は結晶成長機構の理解を進める過程で生まれたが,この技術が誕生するまでのいきさつを説明するとともに,Si基板上への無転位GaAs層の成長と成長層の評価につき解説した.
レーザー分子線エピタキシー法を用いて,二酸化チタン薄膜の原子レベル成長技術を確立した.この薄膜成長技術をもとに,コンビナトリアル薄膜合成装置の開発,およびそれに関連した要素技術を紹介し,その結果,見いだされた室温透明磁性を示すCo:TiO2について,その発見の経緯とまだ決着を見ない強磁性の起源に関する最近の研究成果について紹介する.
電子一個一個を操作する単電子デバイス,ナノスケールで光場を制御するフォトニック結晶や単一光子光源,半導体人工格子によるスピン制御など,ナノ構造の自在な制御が可能になると,まったく新しい研究分野が開けてくる.ここでは,有機金属気相成長法を用いたナノ構造の作製と,化合物半導体の単電子トランジスタおよびその集積回路への応用,さらに,ナノワイヤ,フォトニック結晶,二次元人工格子に関して紹介する.
内殻光電子角度分布の円二色性という現象を利用して,原子配列の立体写真を直接撮影できる.X線によってある原子の内殻準位を励起すると,周囲の原子の方向に光電子前方散乱ピークが現れる.円偏光を用いた場合,原子間隔に反比例する形で位置がずれる.そのずれがちょうど視差角に対応するため,左右の円偏光で励起した光電子放出角度分布を並べることで原子配列を立体視することが可能になる.実際の測定例を紹介する.
近年の酸化物薄膜技術の進歩は,原子層スケールの精度で酸化物へテロ構造の設計・構築を可能にしている.本稿では,半導体変調ドーピングの概念をペロブスカイト型酸化物へテロ構造で実現することに注力して,筆者らが進めてきたSrTiO3ヘテロ構造の原子層制御と高移動度電子輸送の実践について,二つの例を紹介する.第一に,表面のバンド曲がりが誘起する内部電界を利用した電荷変調構造,次にヘテロ界面の極性不連続を用いた電荷変調について述べる.第二の試みにおいて,低温におけるホール移動度が10,000cm2/Vsに及ぶ試料が得られ,顕著な振動磁気抵抗効果が観測された.
有機トランジスタは大面積の集積回路が低コストで作製できるため,大面積エレクトロニクスにおいてその持ち味が発揮されると考えられる.最近,有機トランジスタを利用することによって,くにゃくにゃと曲げることのできる大面積圧力センサーが実現された.本稿では,このロボット用の電子人工皮膚の話題を中心に,有機トランジスタの最近の研究状況を報告する.
基板上に垂直に配向したブラシ状カーボンナノチューブ(CNT)の高速成長プロセスについて紹介する.Fe薄膜触媒を用いた大気圧下の化学気相成長(CVD)において,その成長初期にキャリアガスに対する原料ガスの濃度変化を急しゅんにすることで,1秒間のC2H2ガス供給により平均高さが64μmの高速成長を実現した.成長した多層CNTの平均直径は15nm程度で,結晶性は高い.薄膜触媒は成長温度では微粒子になりCNT成長にかかわるが,その触媒が初期に多量の炭素源にさらされて,CNTキャップが効率よく形成されることが,高速成長の要因であろう.
高輝度放射光を利用した斜入射X線回折法によって,気相中の結晶表面構造を明らかにできることを述べる.さらに,この方法で気相成長中InP表面の構造を実時間で観測した結果を示す.P過剰InP(001)再配列表面は(2×1)再配列構造であり,Pの二量体によって構成されている.また,成長中においても(2×1)構造をとり,原料ガス供給流量や原料ガスの供給開始/停止(気相成長の開始/停止に対応)に対する応答特性を明らかにしている.
発光波長が青色〜近紫外線にあたる六方晶ウルツ鉱型構造の酸化亜鉛(ZnO)半導体の励起子遷移が支配的な反射・発光スペクトルを,窒化ガリウム(GaN)との類似点・相違点に着目しながら紹介する.ZnOの励起子束縛エネルギーはGaNのそれの2倍以上大きく,励起子と電磁波(光子)の連成波である励起子ポラリトンが比較的安定に存在できる.この励起子ポラリトンを共振器モードと結合させた場合,励起子と光の結合力(ラビ分裂量:ΩRabi)は,半導体微小共振器としては最大の191meVに上る.近年の進展著しいエピタキシャル成長技術を用いることにより,ポラリトンのボーズ凝縮に基づくコヒーレント光源(ポラリトンレーザー)の室温動作を実現できる可能性がある.
電子が半導体pn接合を透過するとき,接合部の内部ポテンシャル差によって透過電子の位相には差が生じる.電子線ホログラフィーを用いると,この位相差を検出し,電位分布を二次元のマップとして観察することができる.われわれは,1015 cm-3程度のきわめて低い濃度のボロンを含むシリコンウエハーに作製した電界効果トランジスタ(MOSFET)断面の電位分布を可視化することに成功した.この電位分布は不純物の分布によって形成されるものであるので,この電位分布像は不純物分布像と考えることができる.本稿では,電子線ホログラフィーでこのような解析を行う原理と手法について概説し,半導体デバイスの開発や品質管理に役立つ可能性について論じる.
クラッド中に多数の空孔を設けた光ファイバーをフォトニック結晶ファイバーと呼ぶ.フォトニック結晶ファイバーでは,波長と同程度の大きさの空孔により,光をコア中に閉じ込めている.このように,従来の光ファイバーと異なった導波構造のため,広波長域での単一モード動作,分散の広波長域での制御性,モードフィールド径の制御性,低い曲げ損失など,従来の光ファイバーでは実現できない特性を実現できる.本稿では,これらの特徴を解説し,応用などについても紹介する.
ペロブスカイト型遷移金属酸化物をはじめ遷移金属酸化物は,電子間のクーロン相互作用をあらわに考慮する必要があることから強相関電子系物質と呼ばれ,磁性(スピン),電気伝導性(電荷),および結晶格子(電子軌道),の三者が密接に関係した物性を示す.ここでは,超巨大磁気抵抗効果(Colossal Magnetoresistance : CMR)を示すペロブスカイト型マンガン酸化物に注目し,強磁性金属相と電荷・軌道整列(絶縁)相の競合に由来する磁場誘起相転移や相制御について簡単に解説したい.