これから本格的に実用化の時期を迎える薄膜シリコン系太陽電池の現状を紹介するとともに,将来を展望した.アモルファスシリコン太陽電池に関しては,製品レベルの大面積モジュールの変換効率が8%まで向上し,その特徴を生かした分野から応用が始まった.しかし,研究開発の焦点は,アモルファスシリコンから微結晶シリコンへと移りつつある.微結晶シリコン系では,高効率化のほか,高速製膜が重要な開発要素となる.これまでにアモルファスシリコン/微結晶シリコンタンデム型太陽電池モジュールで13%を超す変換効率が報告されている.さらに,2010年以降の実用化を目指す新しい材料系として微結晶SiGeCを提案し,製膜に関する初期データを紹介した.
光機能性材料として期待されているナノ粒子の光物性研究の進展を紹介する.電子や励起子がナノ空間に閉じ込められたことによる量子効果と表面積が非常に大きいことによる表面効果により,ナノ粒子は不思議な発光特性を示す.特に,単一ナノ粒子からの発光,機能性元素をドープしたナノ粒子の発光,環境に優しい物質シリコンのナノ粒子可視発光に焦点を絞り,光物性の立場からナノ粒子の機能性について議論する.
低分子系,高分子系有機発光素子(OLED)に関する基礎・応用両面にわたる研究開発は,その初期の段階から日本の研究者による寄与の大きな分野である.OLEDに用いられる電荷輸送,発光材料の構造はアモルファスであり,OLEDはアモルファス半導体の新たな応用分野であると位置づけることもできる.しかし,OLEDのさらなる高効率化,長寿命化のためには,基礎的な光物性,電子物性を把握しておく必要がある.ここでは,代表的な有機高分子青色発光材料であるポリフルオレンの発光特性,光劣化,励起状態構造,増幅された自然放出光,電荷輸送などを解説する.
動画が静止画と同等の画質で撮影できる医療用の大面積X線検出器を開発した.二次元薄膜トランジスタアレイ上にX線変換膜を積層し,二次元像を取得する.アモルファスセレンをX線変換材料とし,X線を直接電荷に変換することで,X線画像診断で要求される高感度,高濃度分解能,高空間分解能を達成した.検出領域9インチ,画素ピッチ150μm,総画素数1536×1536,X線変換層厚1mmの検出器を循環器診断装置に搭載し,臨床上有益であるとの評価を得ている.
ディスプレイや太陽電池において多用されるプラズマ励起化学気相成長装置では,基板の大型化や生産コスト削減のために大面積対応が求められているが,装置大型化に伴うさまざまな課題が顕在化している.一方,触媒化学気相成長法(Cat-CVD法)は装置構造が比較的単純で高融点金属触媒線を大面積配置することで大面積対応が可能であり,ガス利用効率も高い成膜技術であることから生産装置への応用が期待されている.ここでは,大面積触媒(Cat)CVD装置開発において装置大型化に伴う技術課題について検討,また,試作した縦型両面成膜方式大面積Cat-CVD装置の成膜性能について述べる.
空飛ぶ宝石とも呼ばれるモルフォチョウ,その青い翅の内部には驚くほど緻密なナノ構造が隠されている.規則性と不規則性を併せ持つその構造は,一体どのようにして青い輝きを生み出すのだろうか.最近明らかになりつつある発色の機構について解説し,それに基づいて試作した再現発色基板について報告する.
新エネルギー源としてのメタンハイドレート(MH)は,低温高圧下の安定条件を満たす深海底に存在している.実験室でMHを生成し,その高圧物性を研究することは,応用上も有意義である.MHはH2Oで構成されるナノサイズのカゴ構造(ホスト)をもち,その中にゲスト分子メタン(CH4)が包接され,典型的なホスト・ゲストの関係を示す.ダイヤモンドアンビル高圧セル中に,MH単結晶を作製し,顕微鏡目視観察やラマン散乱測定により,高圧力下のCH4 ゲストのカゴ占有性や圧力誘起相転移,構造安定性を明らかにする.
架橋フォトクロミック液晶高分子膜に紫外光を照射すると,高分子膜が光の照射方向に90度以上屈曲し,可視光を照射すると,元の平らな状態に戻ることを見いだした.さらに,直線偏光を用いると,偏光方向に高分子膜が屈曲するので,任意の方向に曲げることができることを初めて示した.これらの現象はいずれも分子が光を吸収して変形し,協同現象により膜全体の変形を引き起こすと考えられ,電池・太陽電池などのエネルギー源やギア・ベルトなどの駆動部分を使わずに,光エネルギーを直接機械エネルギーに変換して屈曲運動を誘起した世界最初の例である.新しいエネルギー変換方法としても,注目されている.
光電変換素子や高温耐熱材料などの進歩により,近年,熱光起電力(Thermophotovoltaic:TPV)発電が注目を集めている.このシステムでは,熱放射スペクトルを人為的に制御した「選択放射材」を用いて,光電変換素子との波長整合性を向上させることにより,変換効率の向上が期待できる.本稿では,Yb,Er,Hoなどの希土類や表面回折格子を利用したTPVシステム固有のデバイスである波長選択性熱放射技術の研究成果について報告する.
非線形光学の基礎を定式化から始めて,2次非線形光学過程,非線形分極,非線形感受率,その周波数特性,位相整合条件について述べる,その後に,3次非線形光学過程のいくつかの典型的な例をあげて,わかりやすく説明する.その過程として,光パラメトリック三光波混合(2次),四光波混合,第三高調波発生,二光子吸収,吸収・利得飽和,位相共役光発生(以上3次),さらに,いくつかの非線形光学材料について簡単に記述する.
固体中における電子スピンの基本的性質,磁性の起源について概説し,スピンがエレクトロニクスの舞台で演じる仕掛けについて理論的立場から考察した.特に,磁性細線あるいは磁性多層膜を舞台とするスピンエレクトロニクスの諸現象が,スピン流という立場からどのように把握されるかを簡単な模型を用いて論じた.