高温超伝導体を中心とする強相関電子系では,複数の秩序が競合したり,互いを抑制し合ったりする.その結果,熱力学的な相転移を経由せずに,複数の相秩序が同時に成長して,空間的に不均一に混じり合うことが起こる.この不均一状態はこれまでその価値が見過ごされてきたが,外場に対する巨大な応答を示す新しい機能性材料の基盤として注目を集めている.
有機物質で初めて超伝導が見いだされてから25年,この間に数多くの超伝導体が合成され,有機超伝導体はもはや珍しい物質ではなくなった.有機物質は,その作り方から構造まで,無機物質とは大きく異なる.それゆえ,そこに発現する超伝導は一風変わった何かを期待させ,それが有機超伝導体探索を後押ししている.本稿では,物理屋の目から見た有機超伝導体の物質開発と超伝導研究の前線に光を当ててみた.
量子計算機における情報の基本単位である量子ビットを,微小ジョセフソン接合を用いた固体素子で作製しようとする研究が盛んである.最近,多くのグループが1ビットの量子状態操作に成功している.次の目標は,量子ビットを二つ結合し,2ビットゲートを実現することである.本稿では,最近われわれが行った結合超伝導電荷量子ビットにおける制御否定ゲートの実験を紹介する.
水和コバルト酸化物超伝導体,NaxCoO2⋅yH2O(x≒0.35,y≒1.3)の化学と物理について解説する.この物質はソフト化学と呼ばれる手法を用いて合成でき,化学の観点から強い注目を集めている.一方,超伝導状態に関して,極端な第二種かつ異方的(非s波)超伝導という見方が有力で,物性研究の面からも非常に高い関心が寄せられている.
高圧合成は物質探索の有力な手段で,たくさんの高温超伝導体や低次元磁性体がこの方法で見つかっている.また,放射光X線回折を応用することで,これまでは難しかった複合酸化物の単結晶育成への道が開けた.ここでは劈開性の高いオキシクロライド超伝導体Ca2-xNaxCuO2Cl2の単結晶育成,ならびに物質探索の実例として,陽イオン欠損オキシクロライド超伝導体Ca2-xNaxCuO2Cl2と,強誘電ペロブスカイトPbVO3の研究を紹介する.
無冷媒型超伝導マグネットの発展で,10Tを超える高磁場の利用が容易になった.その応用として,Bi系超伝導材料の結晶配向制御を検討した.常磁性体では,帯磁率の大きい方向が磁場付加方向にそろうことを利用して,Bi系超伝導体の結晶配向化を試みた.その結果,液相から成長するBi-2212相やBi-2201相では磁場によるc軸配向は起こるが,液相がほとんど関与しないBi-2223相の生成ではc軸配向はほとんど起こらない.磁場中の半溶融処理で配向生成したBi-2212相はその後の熱処理(約840°C)で,c軸配向を維持したままBi-2223相に転換した.さらに,種々の温度および温度勾配下での熱処理についても検討した.
オゾンの性質や取り扱い上の注意点,歴史的な応用例について概説し,高濃度オゾンガスの金属,酸化物セラミックス,半導体などへの最近の応用例について述べた.オゾンの熱力学データからオゾンのもつ酸素換算のきわめて高い酸化力を定量化し,高温でのオゾン分解速度と材料内部での酸素拡散速度の兼ね合いによって材料表面に過酸化物を形成する可能性があることを示した.例えば,純酸素中では生じることのないAgOがオゾンガスによって形成可能であるが,Ag2O3は生成しない.誘電体酸化タンタル被膜形成や過酸化クロムによる酸化防止被膜生成,薄膜の酸化処理例としてシリコンや超伝導酸化物などの機能性酸化物膜の生成,などの応用を例示した.
DNAを扱う場合は,プラスチック器具と十分に精製された試薬溶液を用い,実験に使うDNAはフェノール抽出とエタノール沈殿で調製する.DNAには260nmの紫外線を吸収する性質があるので,分光光度計を用いて濃度を求めることができる.DNAの塩基配列は,組み換えDNA技術やDNA合成酵素反応に,ゲル電気泳動を組み合わせた方法で解析することができるが,DNA鎖の大まかな構造は,ハイブリダイゼーションや制限酵素の切断パターンから知ることができる.組み換えDNA操作を使うと,人工的に作った組み換えDNA分子を細胞で増やすことができ,またポリメラーゼ連鎖反応を用いると,DNAを試験管内反応だけで増やすことができる.遺伝子工学実験には,このほかにもゲノムレベルで遺伝子構造や遺伝子発現を調べるさまざまな方法がある.
シリコンを半導体材料として適用するパワーデバイスが発展してきた歴史の中から,代表的なデバイスであるIGBTおよびGTOについて述べる.パワーエレクトロニクス応用において,最も重要な電力損失の低減に有効な,オン電圧特性の改善や,メガパワー応用装置用に要求されてきたデバイスの高耐圧化について,素子モデルや原理などを簡単に記述する.