周波数シフト帰還型レーザーは超高速で理想的に線形な周波数チャープ光源である.このレーザーを周波数領域リフレクトメトリー法に適用すると,共振器縦モード間隔内に複数のビート周波数を得ることができ,近距離より100km超の超長距離まで100μm程度の高精度光計測が実現される.本文では,周波数シフト帰還型レーザーによる光距離計測と光三次元形状計測研究の現状を紹介する.
本稿では,東京工業大学発ベンチャー企業としてわれわれが研究開発してきたパッシブ型光コム発生器に関して,原理,装置の紹介と,現在行われている小型で信頼性の高いモジュール開発について解説する.またパッシブ型光コム発生器を用いたシステム開発の一例として,われわれが開発を行っている光周波数カウンターを提案する.
テラヘルツ(THz)波とは0.1〜10THz程度の周波数の電磁波を指すが,従来の未開拓電磁波という位置づけを脱却して,最も将来性のある応用技術の一つとしてその発展が期待されている.特に,レーザーを非線形光学結晶,半導体表面あるいは光伝導スイッチに照射してテラヘルツ波を発生する手法は近年格段の進歩を遂げ,分光やイメージングに広く応用されつつある.本解説では,フェムト秒パルスレーザー励起テラヘルツ波による分光を中心にテラヘルツ波の新しい応用技術について紹介する.
地球の寸法や原器を安定,普遍なものとして基準に選び出発した人類共通の知的基盤である物理量の単位と標準は,現代科学を支えるうえでより安定な基準を求めて今なお模索途上にある.先端科学技術の発展は,不可能と思われていた技術を可能にし,10-18の不確かさをもつ標準の実現も夢ではなくなった.一方,基礎物理定数の測定精度の向上は,原器や物質の定義に代わり,普遍の物理法則,基礎物理定数に基づく単位体系をまさに構築しようとしている.
光周波数のコヒーレント計測技術の進歩により,15けた超の光周波数計測が可能になった.この精度はセシウム時計によるSI秒の実現で制限されており,これに代わる,より高精度な“秒”の実現が可能な,新しい定義が模索されている.われわれは,原子に印加する摂動を巧妙に“エンジニアリング”することで,18けたもの高精度な光周波数計測を実現可能な“光格子時計”の手法を提案した.この研究の背景と実験の現状,および展望について述べる.
フェムト秒レーザーが身近なものになり,その超短パルス特性を利用した新しい計測法が容易に実現できるようになった.本稿では,初めにコラーゲンの分子配向を近赤外フェムト秒レーザーで誘起された生体第2高調波発生光(生体SHG光)から同定する手法について解説する.ここでは,共焦点反射顕微光学系を構成することでコラーゲン情報に関する断層分布画像が得られるようになった.次に,テラヘルツ電磁波パルス(THzパルス)の生体計測応用について解説する.そこでは,THzパルスエコーの時間と強度の変化から皮膚水分と皮膚構造の情報を同時に得ている.
Einsteinが予言した重力波の検出を目指して世界の大型レーザー干渉計が動き出した.それらの中で最初に稼動を開始したTAMA300は,感度と安定度の向上を図りながら,重力波観測装置として成熟を続けている.TAMAプロジェクトの開始から10年が経過しようとする機会に,稼動開始後の進展を中心にTAMA300の足跡を概観する.重力波検出が成功した後に重力波観測で得られるであろう新しい宇宙の姿についても簡単に解説する.
近年,光周波数基準や光コム技術を駆使した高精度光周波数計測が高分解能分光や高密度波長多重光通信などの分野において重要になっている.本報告では,フェムト秒モードロックレーザーにより発生した光コムとルビジウム飽和吸収線に安定化したDFBレーザーを用いたヘテロダイン光周波数計測システムを提案し,従来の干渉法を用いた波長計に対して1000倍程度の正確性を有することを実証した結果について紹介する.
超半球形状のガラスは,その光学幾何学的な特徴から超解像光学レンズへの利用が考えられてきた.データストレージ分野や液体を利用できない環境下での固浸レンズがその代表であるが,厳しい形状制御パラメーターのために作製がきわめて難しい.われわれは数十〜100μm程度の大きさのガラス微粉を表面制御したガラス質カーボン基板の上で溶融し,ガラス液滴の表面張力と基板とのぬれ性をパラメーターとして,所望の形状の超半球状ガラスを一括して多量に作製できる方法を開発した.得られた超半球ガラス素子には,固浸レンズとして必要な形状と超解像光学レンズの機能を付与することができる.また,滑らかな光学界面をもつことを利用した超半球型微小光共振器とし機能させることもできる.本稿では,これら超半球型微小ガラスの光学素子の作製法とその応用について報告する.
次世代パワーデバイス用材料として注目されているシリコンカーバイドの高品位なヘテロエピタキシャル成長の実現を目指して,安全性が高く低温成長に有利と考えられるモノメチルシランやジメチルシランという有機ケイ素化合物を原料にさまざまなCVD法に取り組んだ.また,結晶性やモフォロジーを大きく左右すると考えられるSi基板上での成長初期過程をRHEED,STMなどを用いて詳細に解析し,Si 2×1清浄表面から核発生,連続膜形成までの過程の反応プロセスを解明した.また,モノメチルシランを用いて,高融点金属表面の触媒分解効果を利用したCat-CVD法により,750°Cの低温でのSi上ヘテロエピタキシャルやSi熱酸化膜上への(100)配向結晶膜の成長に成功した.
国や機関や国民を支えるのは人材であり,科学・技術力で国民の生活を支えようとしているわが国にとって,物づくりのための人材育成は特に重要である.しかし,最近では近隣諸国の科学・技術力の急速な進展,日本経済の低迷や国際競争力の低下,学校教育の困難要因の増加,改善されない青少年の「理科離れ,物理嫌いの増加」「科学知識の低下」など,人材育成に対して,ますます危機感が強まっている.応用物理学会ではこの問題を以前から検討してきた.そして,応用物理学会主催で平成7年から「科学と生活のフェスティバル」が,平成9年から「リフレッシュ理科教室」を開催してきた.約10年を経過した今,一度これらを総括して,応用物理学会が今後のわが国の発展のために学会として科学啓発活動をいかに担うべきか考える一助にしたい.
ポストゲノムの時流の中で,より生命の本質にせまるべくプロテオームと総括される網羅的たんぱく質解析が,方法論の検討段階から結実期を迎えつつある.RNA発現プロファイルとたんぱく質発現プロファイルの相関が低いといわれているように,遺伝情報のみから生命の実体であるたんぱく質の構造と機能を解明することは難しい.また,たんぱく質を調べることは,新規診断や創薬につながる可能性を秘めており,プロテオームはゲノム同様に大いに期待されている.プロテオミクスの進展には,いくつかのブレークスルーが必要であったが,その一つが質量分析技術の発達である.
光半導体を用いた半導体レーザー・受光素子などの光素子は,光通信や光ストレージなどの情報分野を中心としてさまざまな分野で使われている.本基礎講座は,新しく発受光素子の研究に携わる研究者を対象として,光半導体技術の基礎について,その物理から成長技術,デバイス応用における技術的ポイントへの理解を深めることを目的とする.第1回は,光半導体として波長400nm以下の紫外域から1600nmを超える赤外域までをカバーする各種のⅢ-Ⅴ族化合物半導体について,各半導体材料の選択と波長制御について概説する.