生命体の情報処理と先端のエレクトロニクスとの融合を目指した研究の状況について述べる.生命体情報処理のアルゴリズムや構造を模擬したシリコン網膜や集積視覚システムが開発されている.実用的な生命体模倣システムを実現するために,無線インターコネクションを用いた三次元集積技術が提案されている.
筆者らは生命システムの理解のために,細胞内に蓄えられている後天的な情報を分析する手法の開発を進めている.細胞内で履歴をもって変化する複雑に絡み合った生化学反応の連鎖からなる細胞の後天的情報は,従来の遺伝子解析のみでは理解することが困難な順応の過程や集団効果などの仕組みを明らかにすることができると考えている.後天的情報を理解するための方法論として,二つの相補的な研究課題がある.世代をまたがった時系列の変化の追跡と,空間配置がもつ意味の理解である.この研究によって,われわれは細胞単位での計測による創薬分野での薬効検査,細胞を用いた構成的な臓器再構築など生命の後天的情報に関する知見を深めることができるであろう.
味覚と嗅覚は,化学物質を受容する感覚であることから,化学感覚といわれる.他方,視覚や聴覚は光や音を受容して生じる,いわゆる物理感覚である.物理量を受容するセンサーは,半導体素子などを利用して,古くから開発,実用化されていた.本稿では,これまで開発が遅れていた化学感覚を表現するセンサーの研究開発動向を紹介する.
生体分子や生物の機能を利用すれば,バイオセンサーやバイオチップなどだけでなく,新たなデバイス開発を可能とすると考えられる.ここでは,電気化学的なDNAセンサーや免疫センサー,局在プラズモンデバイスを用いた非標識たんぱくチップなどの開発例を紹介する.また,MEMS技術を用いたマイクロチャンバーアレイを用いて,1分子DNA測定や細胞チップによる薬剤スクリーニングを行った例なども示す.現場測定を可能にしたバイオセンサーは,医療健康診断,食の安全検査,環境計測などに利用できる.
イオン性の高い結合で構成される透明アモルファス酸化物半導体In-Ga-Zn-Oを能動層に用いた薄膜トランジスタを室温でPETフィルム上に成膜することで作製すると,約10cm2/Vsという電界効果移動度が得られる.本稿では,イオン性アモルファス酸化物半導体の他のアモルファス半導体にはみられないユニークな特徴とその物質設計を概説するとともに,それを用いたフレキシブルトランジスタの作製と特性について解説する.
非晶質シリカの構造について紹介する.まず,簡単に短距離構造秩序について紹介し,次に中距離構造秩序について説明する.石英を構成するSiO4四面体の六員環構造と異なり,非晶質シリカには,平面三員環や四員環のような小さなリング構造から九員環まで広く分布して存在しているのが特徴である.小さなリング構造は高温状態の凍結された状態と考えることができる.このような状態は,イオンビームなどの高エネルギービームによる熱スパイクモデルで説明できる.また,小さなリング構造は光学バンドギャップを低エネルギー側にシフトさせ,化学的にも活性である.フッ素の添加により,小さなリング構造を減少させることが可能である.
本研究では,植物の葉などに含まれる葉緑体中の光合成たんぱく質複合体(PSI)と電子デバイスとを組み合わせ,生体のもつ優れた光機能性を電子デバイスの性能に反映させることにより,「今までにない新機能・高感度光検出器」を開発することを目的としている.これまでに,直径10nmのPSIを生体から機能部品として単離し,人工合成した分子電線および金ナノ微粒子と接続して,電界効果トランジスタ(FET)のゲート上に結合した.そして,光照射によりPSIから発生した電子がゲート電圧を大きく変化させ,FETを制御できることを初めて実証した.また,作製した生体光検出器(バイオフォトセンサー)を用いて,60×80画素の画像入力を行い,撮像が可能であることを実証した.
DNAコンピューターやDNAナノテクノロジーを中心に,最近の分子コンピューティングの研究動向について概観する.分子コンピューティングの研究は「計算論的ナノテクノロジー」というべき方向へ展開している.「計算論的」という言葉には二つの意味がある.一つは,分子反応に対して「計算」という視点を与え,情報処理機能をもった分子システムを構築することである.もう一つは,分子システムの構築において,各種の情報処理技術を活用することである.特に,分子システムのシステマティックな設計論を,「分子プログラミング」と呼ぶ.
SiとGaAs試料表面からのフレネル反射を防止するために,バイオミメティック(生体模倣)な考察により,サブ波長格子を製作した.これにより,それぞれ光検出と光放出の効率を改善できる.また,導波モード共鳴格子効果を用いたサブ波長シリコン構造を構造色フィルターのために研究した.可変フィルターを目的として静電マイクロアクチュエーターを備えた周期可変導波モード共鳴格子を提案し,シリコン・マイクロマシニングにより試作した.
微細化の進む先端シリコンLSIの極薄ゲート絶縁膜には,従来のシリコン酸化膜に代わってシリコン酸窒化膜が用いられている.MOSFETの電気特性や信頼性はシリコン酸窒化膜の成膜プロセスや窒素濃度の膜中分布に影響されており,極薄シリコン酸窒化膜をいっそう高品質なものにするため,窒素が絶縁膜/Si界面と絶縁膜中の欠陥に与える微視的な影響の解明が必要である.本稿では,極薄シリコン酸窒化膜のもつ欠陥の構造を電子スピン共鳴法によって解析した結果を紹介する.
物質に静電場を印加すると,界面に電荷が出現する.これを利用して,元素置換を伴わないキャリアドーピングを行おうというのが,電界効果ドーピング(Electrostatic Carrier Doping:ESD)である.現在,ESDによって遷移金属酸化物単結晶のキャリア濃度を連続的・可逆的に制御しようという野心的試みが進行している.狙うは量子臨界点付近の物性探索である.
分子モーターは,ナノメートルサイズの分子機械である.ここでは簡単に分子モーターを概説し,その研究方法を紹介する.さらに,新しい研究の方向として,微細加工技術と分子モーターの融合領域の現状についても紹介する.
長距離光通信用半導体には,InP基板上で1300〜1610nmの波長帯が実現できるGaInAsP系やAlGaInAs系材料が,これまで用いられてきている.近年,都市内・企業内の中距離〜近距離のメトロ系ネットワークや,家庭を結ぶ短距離のアクセス系ネットワークにおいて,外部環境温度の変化に対して耐力のある温度特性に優れた素子の実現が期待されている.その要求に応えるべく,伝導帯のバンド不連続の大きなGaAs基板上のGaInNAs系材料が注目されており,レーザー素子で温度特性の改善が報告されている.これらの材料系の特性を紹介するとともに,レーザーの活性層に適用した場合の特徴を解説する.