微細化に伴う種々の物理限界要因により,従来のスケーリングのみでは難しくなっているSi MOSFETの性能向上を実現する技術として,近年注目が集まっている,高移動度・高速度チャネルを用いたCMOSデバイス技術について紹介する.微細チャネル下での駆動力向上手法について,反転層中の電子状態,特にサブバンド構造の最適設計の観点から,その物性的背景を総括するとともに,ひずみSi,Ge,超薄膜チャネルなどに関する最近の実験結果を述べることにより,今後のMOSデバイス技術を牽引していくと考えられる,高移動度チャネルMOSトランジスタ技術を展望する.
長らく情報技術(IT)の驚異的な発展をハードウエア面で支えてきた,シリコン集積回路(Si VLSI)を構成するバルクシリコンMOSFETの微細化の限界が危惧され始めてきた中で,これを打破するデバイス構造として,ダブルゲートMOSFETが世界的に注目されている.ところが,このデバイス構造は20年以上前に提案されたものであった.本稿では,ポストバルクMOSFETと期待されるダブルゲートMOSFETの開発の歴史と,現状の新しいダブルゲートデバイス技術について概説するとともに,ダブルゲートMOSFETの新しい技術展開についても述べてみたい.
ULSIの消費電力削減には多層配線の寄生容量を低減することが必要で,ULSIデバイスの微細化に対応し,配線層間絶縁膜を低誘電率化していかなければならない.90nm世代ULSIでは,140nm間隔銅配線の絶縁分離に,シリカ層間絶縁膜の組成を制御して,低電子分極率化した有機シリカ膜(比誘電率k=3)が導入された.65nm世代以降では,低分極率化に加え,膜中にサブナノ空孔を分散させるポーラス化によりさらに比誘電率を下げていく必要がある.本稿では,層間絶縁膜のポーラス化に対応したULSIプロセスインテグレーション(統合化)技術と,プラズマ重合反応を利用した分子レベルの空孔構造制御技術について紹介する.
LSIの電源電圧の低下に伴い,ゲート絶縁膜厚が約1nm程度に近づいている.シリサイド/多結晶Si積層ゲート電極では,微細化に伴う熱予算の削減によってゲート電極側にSiO2換算膜厚で0.2〜0.5nmの空乏化層が形成される.この現象によりゲート絶縁膜が実効的に厚膜化する.メタルゲートはゲート空乏化層を形成しないため,実効的なゲート絶縁膜厚を薄膜化することが可能である.本稿では,ゲート電極開発の歴史と,最近のメタルゲート技術に関する筆者らの研究開発活動を中心に現状と課題をまとめた.
193nm光と純水を組み合わせた液浸リソグラフィーは,2002年に開発が開始されて以来,順調に発展し,実用化時期が近づいてきている.物理的な課題は流体および熱シミュレーションによって評価されて解決可能なことが判明し,水保持方法としてローカルフィル法が実験的に検証された.現在,NA=0.85の露光装置が稼動しており,結像性能は予期したレベルのものが得られている.最近は,パターン欠陥を減少させるためのプロセス最適化が主な課題となっている.近い将来,純水を用いたNA=1.30の液浸技術によってハーフピッチ45nmの結像が可能になると考えられている.
有機電界効果トランジスタ(有機FET)の研究は1980年代より始まるが,1996年以降,デバイス構造,作製方法,材料設計のあらゆる側面から急速な展開を遂げてきた.本稿では,有機FETに用いられる有機半導体を正孔輸送,電子輸送材料に分類し,それらの典型的な材料を紹介するとともに,最新の研究動向と課題について解説する.さらに,今後の有機FET研究展開の一つのカギともいえる「ambipolar」材料に関して,筆者らの研究成果を中心に紹介する.
第3世代放射光施設の登場により,物質の構造研究は,先端材料の構造と物性のかかわり(構造物性)を解明するのに,なくてはならない存在になりつつある.特に粉末回折は,放射光施設によって生み出される高輝度・高エネルギーX線によるデータ精度の向上と,リートベルト解析やマキシマムエントロピー法などの解析法の発達により,原子分子の構造研究にとどまらず,電子密度のレベルまで明らかにできるようになり,精密構造物性の研究手法として先端材料創生に大きく貢献してきている.物質中の水素の直接観察,EDO-TTF分子の金属-絶縁体転移における電荷整列の直接観察などの研究成果を例に,SPring-8における放射光粉末回折による精密構造物性研究の可能性と将来展望について述べる.
原子・分子レベルで物質の組織・構造の制御を行い,光や磁気を用いて電子状態と電子スピンの応答を利用する機能材料の制御的物質合成法は,きわめて重要な次世代技術である.気相生成させたナノクラスター,とりわけ,金属原子と有機分子とを複合化した有機金属ナノクラスターでは,多層一次元構造の機能性ナノクラスターが自在に創成できる.ソフトランディング法は,気相ナノクラスターをサイズ,組成選別して基板上に二次元物質を構築する手法であり,ボトムアップ材料創成の最前線である.気相反応場による物質生成の魅力を紹介しながら,気相ナノクラスターを単位とする新しい二次元機能材料化への取り組みを紹介する.
HfO2系材料は,次世代以降のLSIで必要となるhigh-kゲート絶縁膜の本命と考えられている.新材料を電界効果トランジスタの心臓部に導入するためには,その信頼性に関する十分な検討が不可欠である.ここでは,Si基板から注入される正孔とHfO2系材料中の酸素欠陥に注目し,それらがhigh-kゲート絶縁膜の信頼性劣化に及ぼす影響について,実験と理論の両面から検討を行った結果について紹介する.
Si LSI技術は,素子微細化により情報通信機器の高速・低消費電力化の要求に応えてきたが,微細化だけではLSIの高性能化は限界に近づきつつあり,新たな指導原理が求められている.LSIの構成素子となるMOSFETのチャネル部にひずみを加えて,Siのバンド構造を変調し,キャリアの走行速度を向上させる「ひずみSi技術」がLSIの高機能化に有効との認識が高まりつつある.筆者らは,結晶性に優れた200mm径のひずみSiウエハーの製造技術を確立した.本稿では,その形成手法,ひずみSiウエハーの電気的評価および回路試作結果について紹介する.さらに,ひずみSiのSOI化として注目されているSiGe/SOIの酸化濃縮法を高度化し,SiGe層が薄い場合でも高いひずみ緩和率を得るための手法についても紹介する.
陽電子消滅を用いて,固体表面近傍の空孔型欠陥を非破壊で感度よく検出することができる.試料の導電性や温度などの制約が少ないため,半導体,金属,金属酸化物,高分子などの材料に幅広く適用できる.この手法を用いて,各種のシリコン半導体デバイス材料の評価を行った結果,材料開発の現場へ有効な情報を提供できることがわかってきた.本稿では,めっきCu配線,ひずみSi,高誘電率絶縁膜(high-k)材料について得た結果について紹介する.
シリコンと同じIV族の単元素からなるダイヤモンドは,半導体材料として優れた特性をもっている.従来,ダイヤモンドは難合成物質とみられてきたが,シリコン並みの高品質なダイヤモンド単結晶薄膜の合成が化学気相成長法によりできるようになった.これをきっかけに,pn制御や良好な接合特性が得られるようになっており,他の半導体と同じように電子デバイスへの応用が考えられるようになってきた.ここでは,電子デバイス化を目指したダイヤモンド半導体の現在の研究状況を紹介する.
近年,分子生物学における目覚ましい進歩により,生体由来の新規薬物が数多く登場した.それに伴い,その新規薬物の治療効果をより高めようとする薬物投与形態の最適化,すなわちドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究も活性化している.最新のDDS技術では,物理化学的な手法,化学的手法,生物学的手法の融合により,周囲の環境に応答する超機能化デバイスの構築が行われている.ここでは,すでに製品化されている高分子化医薬から最先端の研究に至るまでを解説する.
格子不整合を積極的に利用したひずみ量子井戸レーザーの出現は,それまでのデバイス設計の常識を覆す衝撃的な事件であった.この技術により,1990年代に半導体レーザーの特性は飛躍的に改善され,現在では,ほぼすべての半導体レーザーでひずみ量子井戸が発光層として用いられるようになった.ひずみ量子井戸の特徴を,デバイス特性改善のメカニズムを中心に解説する.