ネマチック液晶にキラル化合物を微量に添加することで調製した誘起キラルネマチック液晶を溶媒として,これを不斉液晶反応場としてアセチレン重合をすることにより合成したヘリカルポリアセチレンは,一次構造から高次構造に至るまで,らせん状超階層構造を有している.ねじれの度合いや向きは,ネマチック液晶にキラリティを誘起するキラルドーパントにより自在に制御できる.また,キラルネマチック液晶に外部磁場を印加することで配向した不斉液晶場が構築でき,このもとで巨視的に配向したヘリカルポリアセチレンを合成できることがわかった.
コレステリック液晶,カイラル・スメクチック液晶などのカイラル液晶は,スパイラル状の分子配列を形成する場合があり,その周期は分子設計により100nm程度から数百μm以上の広範囲に及ぶ.そこで,光の波長程度のらせん周期構造を形成するカイラル液晶を一次元フォトニックバンド材料ととらえた研究が進んでいる.本報告では,コレステリック液晶,強誘電性液晶(カイラル・スメクチック液晶),高分子コレステリック液晶における一次元フォトニックバンド特性を紹介し,それに基づくレーザー発振とその発振波長の電界などによる制御に関して紹介する.さらに,らせん周期構造に特徴的な欠陥構造の導入と光局在モードについても紹介する.
ポストSiデバイスの候補の一つとしてGeデバイスが注目されている.Geの移動度がSiよりも物性的に大きいという点はきわめて魅力的である.しかし,Geが使われる技術世代を考えるとゲート絶縁膜は高誘電率膜にならざるを得ない.一方,微細化素子におけるコンタクト抵抗の占める割合はますます高くなり,金属とGeのコンタクト特性制御はきわめて重要になっている.つまり,高誘電率絶縁膜/Ge,金属/Geの界面をいかに制御するかということが,Geデバイスの実現を考えるうえで最重要項目といえる.本稿では,この両界面に対してわれわれが最近行っている実験的検討結果を中心にして現状を議論する.
導電性高分子を使った高性能有機デバイスを実現するためのカギは高分子を一分子レベルで大面積に固体基板表面に組織化する技術の開発である.われわれは“電気化学エピタキシャル重合”という電気化学を用いる新しい分子組織化法を開発した.この方法はモノマー(原料)を含んだ電解質溶液中で,ヨウ素で表面被覆した金属電極に電圧パルスを印加することによる逐次的な表面電気化学重合反応の原理に基づいている.この方法を用いて一分子の導電性高分子細線列を電極表面上に密度,長さ,方向,形を制御しながら大面積形成させることに成功した.この手法は導電性高分子を用いる単一分子デバイスのプロセス技術への応用が期待される.
リン光発光を有する有機金属錯体を用いた有機発光ダイオード(OLED)は,〜100%に迫る究極の内部EL発光効率を実現した.本稿では,イリジウム系有機金属リン光材料の固体薄膜中および溶液中における光励起・失活過程,濃度消光過程について述べ,高効率・高性能なリン光ELデバイスを構築するための材料・素子設計指針について紹介する.
チオフェンやフェニレン環が数個連なった π共役オリゴマーは,その分子構造によって可視部にわたって高収率の蛍光を示す.これらのオリゴマーは分子鎖が一軸配向した結晶を自己組織化するが,その形態を低次元化して蛍光を結晶内に閉じ込めることにより,新規な発光現象が生じる.その一つは,低次元結晶を0-0共鳴吸収帯で光ポンピングしたときに現れる誘導共鳴ラマン散乱によるレーザー作用であり,他の一つは低温下で高密度励起したときに見られる遅延パルス発光である.どちらの現象も,一次元遷移双極子が秩序配列したオリゴマー低次元結晶がもたらす協同現象の可能性がある.
プラズモニック・メタマテリアルとは,マイクロ〜ナノサイズの三次元金属構造体における自由電子の共振を利用して,自然界に存在し得ない誘電率や透磁率をもつ物質を人工的に作り出す技術である.この技術を使えば,本来正の値のみに制限される物質の屈折率を負にすることすら可能となる.本稿では,このメタマテリアルについて,その原理と可能性を述べ,さらにメタマテリアルの一つの応用として,屈折率の異なる物質間の境界面を無反射で光を透過させるまったく新しい光学素子を紹介する.
半導体一次元Siナノ細線は,縦型立体構造を有する次世代半導体デバイスの構成要素として着目されている.その実現のためには,Siナノ細線の形成および配列を制御し,ナノサイズ特有の特性を理解する必要がある.本稿では,熱酸化による応力誘起とそれによる酸化の自己停止を利用したサイズ制御,および不純物ドーピングの可能性について調べた結果を紹介する.また,ナノ細線径の減少に伴うナノサイズ特有のフォノン閉じ込め効果についても紹介する.
半導体・絶縁体の薄膜成長や表面修飾に伴う表面の欠陥の発生のダイナミックなプロセスを観察するために,電子スピン共鳴法を用いたその場観察を開発した.半導体デバイス作製プロセス中には多くの欠陥が存在し,その制御が重要であることを,シリコン酸化,アモルファスシリコン薄膜製膜,SiO2 のエッチングを例に紹介する.
微視的世界における物質の基本法則(第一原理)である量子力学に基づいて,原子に働く力を計算し,表面・界面での触媒反応,有機分子と金属電極の界面,凝縮物質中の欠陥や不純物のナノダイナミクスを第一原理分子動力学法により予測する.触媒反応のデザインやシリコン中のCuのゲッタリングセンターのデザインを行う.また,電子励起によるグラファイトからダイヤモンドの創製法デザインと実証を取り上げ,第一原理計算法のパワフルな有効性と眠れる潜在力を明らかにする.