近年の光・ナノ技術の進歩により,テラヘルツ分野における技術革新が進んでいる.テラヘルツ時間領域分光法,テラヘルツ量子カスケードレーザー,サブテラヘルツ無線通信,サブテラヘルツ電気信号処理技術およびテラヘルツデバイスなどさまざまなテラヘルツ関連研究成果が広がっており,新しい科学技術分野として,また,新規産業の開拓を担うものとして,大いに期待されている.そのような中,具体的な将来展望を明らかにするため,テラヘルツ技術に関する動向調査が実施された.本稿では,同動向調査の結果を踏まえて,テラヘルツ波技術の現状と展望について解説し,次世代キーテクノロジー創製を目指した,テラヘルツ電磁波・テラヘルツフォトニクス・テラヘルツエレクトロニクス三研究分野の総合的推進を提案する.
半導体二次元電子系の量子ホール効果,半導体量子ドット,量子井戸などを用いたテラヘルツ帯の超高感度検出器について紹介する.波長が約100μmより長い領域では単一光子検出によるフォトンカウンティング測定が可能になっているが,その動作原理と検出器特性を解説する.また,中赤外域に波長範囲を拡大する試みについても触れる.さらに,走査型顕微鏡に組み込んで量子ホール電子系からの極微弱なサイクロトロン発光のイメージングを得る応用研究の例を紹介する.
フェムト秒レーザーを用いたテラヘルツ電磁波の発生,検出技術を紹介し,時間領域分光法の基礎的な概念を強誘電体材料を例に詳述する.次に,特に粉体や水溶液の測定に有効な全反射分光技術に焦点を絞り,その手法について述べる.この全反射分光法を含めた反射配置における測定感度に関して,スミス図表により議論する.後半部では,半導体,生体関連材料におけるわれわれのグループで行った最新の実験結果を紹介する.
従来,サブミリ波あるいは遠赤外線と呼ばれた帯域にまたがるテラヘルツ波は,これまで発生・検出が困難であったため,その産業や科学研究分野への応用に関する研究は進んでいなかった.しかし,近年のレーザー技術の進展などによって発生法や分光法の開発・研究が進み,テラヘルツ波が新たなセンシングツールとして脚光を浴びてきている.本稿では,本グループがこれまで行ってきたテラヘルツ波に関する技術開発および応用研究について紹介する.
環境汚染,エネルギーの大量消費などが人類にとって早急に解決すべき課題となっている今,地球環境への負荷が少ない「バイオミメティックス」を用いた材料プロセッシングが注目されている.本稿では,「生物の形に学ぶ」,「生物のプロセスに学ぶ」,「生物の機能に学ぶ」という三つのアプローチから,われわれが行っている「バイオミメティックス」を用いた材料プロセッシングの試みについて紹介する.アプローチ「生物の形に学ぶ」では透明超はっ水薄膜について,アプローチ「生物のプロセスに学ぶ」では自己組織化単分子膜を用いた各種マイクロパターンの作製について,アプローチ「生物の機能に学ぶ」では微細構造化したInNのエレクトロクロミック特性について述べる.
現在実用化され,利用されているテラヘルツ波発生方法はいくつかあるが,超短パルスレーザーを用いて高出力のテラヘルツ波を発生させる方法としては,半導体基板表面から発生させる方法と,光伝導スイッチから発生させる方法がよく知られている.本稿では,これらのテラヘルツ波発生方法について概説し,最後に最近われわれが開発している,テラヘルツ波を効率よく利用するための集積光学系について紹介する.
バンド構造エンジニアリングと分子線エピタキシーにより実現された量子カスケードレーザーは,欧米を中心に研究が進められ,めざましい発展を遂げてきた.近年,中赤外領域における室温連続レーザー発振,および波長100μmを超えるテラヘルツ領域においてレーザー発振が実現されたことで大きな注目を集めている.本稿では,発光層のデザインを中心に量子カスケードレーザーの原理,性能について紹介した後,これらの二つのブレークスルーについて解説する.
近年,産業,経済活動が国境,文化圏を越えてグローバル化する一方,地球環境負荷の低減ならびに持続可能な社会の実現に向け,多くの課題が指摘されている碼毘.本稿では,水素利用技術を使った地域産業活性化の事例を紹介し,従来の科学・技術パラダイムの限界,および科学・技術パラダイムシフトの必要性について触れる.新たな科学・技術パラダイムでは,持続的発展の実現にとって人間環境を意識したエコテクノロジーという新たな発想が不可欠であり,水素利用技術はエコテクノロジーの一例であることについて述べる.
ジョセフソントンネル接合を用いたSISミキサーと極薄超伝導薄膜を用いた超伝導ホットエレクトロンボロメーター(HEB)ミキサーは超伝導現象における巨視的量子効果がもたらした強い非線形性をもつため,従来の電磁波検出器で実現できない究極な低雑音性を実現している.本文では,テラヘルツ(THz)周波数領域での高感度検出器として期待されている窒化ニオブ(NbN)を用いたSISミキサーとHEBミキサーの開発現状と研究結果について紹介する.
高速性と高出力特性を併せもつ「単一走行キャリア・フォトダイオード(UTC-PD)」を用いたミリ波・サブミリ波・テラヘルツ波の発生は,簡易な構成で高周波の電磁波を,周波数純度の高い連続波として広帯域に発生させることができるという特徴がある.本稿では,UTC -PDの動作,基本特性,UTC-PDを用いたミリ波・サブミリ波・テラヘルツ波の発生,およびその応用として,光無線伝送,ミリ波イメージング,電波天文観測用基準信号発生などについて紹介する.
アモルファス希土類遷移金属合金垂直磁化膜は,次世代の超高密度記録媒体として有望な材料である.効率的に媒体開発を行うためには,その材料の基礎的な磁性を理解することが重要である.軟X線磁気円二色性は,元素ごとおよび軌道ごとに,フェルミ準位近傍の非占有準位の電子状態・スピン状態を調べるのに有力なプローブである.この系に特徴的なスペリ磁性が,そのスペクトルに与える影響を紹介する.