導電性高分子の発見と開発について,以前に行われた研究を前置きとして,筆者が主として行ったポリアセチレンに関する研究を軸に,導電性高分子に必須である長い鎖状共役ポリエンとドーピングについて,ポリアセチレン薄膜の合成とドーピングの発見までの経緯を回想するとともに,導電性高分子の応用について述べた.
2003年に終了したヒューマンゲノムプロジェクトの後に,新たに全遺伝子の機能解明を中心とした分子ライブラリーと分子イメージングのプロジェクトが開始された.この分子イメージングの中で,光を中心とした新たしい診断法,“光診断”が注目を集めている.ここでは,顕微鏡に代表される1分子計測を生きた丸ごとの生体へ,そして人の臨床診断への試みをいくつか紹介し,光と医療の道を探る.
非線形ラマン分光法は,光と物質との高次の相互作用を利用することで,微弱なラマン散乱光を選択的に増強したり,ラマン不活性な振動モードを観測したりすることができる,非常にユニークかつ画期的な手法である.特に近年,顕微鏡と組み合わせた非線形ラマン顕微分光法が数多く開発されており,次世代のラマン顕微分光法としてますます注目を集めている.本稿では,われわれが開発した二つの非線形ラマン顕微分光法,マルチプレックスCoherent Anti -Stokes Raman Scattering(CARS)顕微分光法とハイパーラマン顕微分光法を中心に,非線形振動分光イメージングの最近の研究結果を紹介する.
ポストゲノム時代における生物学研究の大きな目標として,生体内に機能している分子の役割を機能しているその場で明らかにすることがあげられる.光情報を用いて生体内に機能する分子を可視化することができれば,細胞をすりつぶした状態では得ることができない生きた状態における分子動態を明らかにできる.このため,化学情報を読み取り可能な光情報へと変換できるセンサー分子をデザイン・合成し生物応用に成功した.具体的には,蛍光発光原理の一つである蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を変化させるために,距離変化型と重なり積分変化型の二つのセンサー分子をデザインし,チロシンフォスファターゼの可視化に成功した.
ナノサイエンスの分野では近年,ナノ材料,マイクロマシン,ナノバイオロジーなどの研究が盛んとなっている.最近ではさらに,これらの重要な応用分野として医学との融合を目指したナノメディシンの研究が世界各地で産声を上げている.ここでは,たんぱく質1分子の運動や機能をナノ粒子や量子ドットを用いたナノイメージングを紹介する.細胞内の分子観察にナノイメージングを応用することによって,細胞内の分子機能が1分子レベルから理解することが可能となった.さらに,マウス内1粒子のイメージングも可能となった.これらの研究は将来臨床医学の基礎となると期待される.
レーザースペックル現象を利用した血流分布画像化システム(レーザースペックルフローグラフィー)は,新しい画像診断装置として,眼科を中心に過去十数年にわたってさまざまな装置が開発されてきた.この装置は生体表面の血流変動を実時間で動画として観察でき,特定部位の血流が処置前後でどの程度変化しているかを定量的に読み取ることができる.眼科用の装置は開発当初,測定面積が眼底上で1mm2 にも達していなかったので,主に動物実験に利用されていたが,近年測定面積が飛躍的に広がり,臨床に利用できる性能に到達しつつある.従来までは,眼底血流の診断は造影剤を静注する方法しかなかったが,簡便に繰り返し測定できる本装置のメリットを生かした臨床研究が,すでに始まっている.
過去30年間にわたりその測定が試みられながら,これまで測定されたことがなかった半導体超格子中をブロッホ振動する電子の利得スペクトルを,超高速のサンプリングオシロスコープとも呼ぶべき時間分解テラヘルツ分光法により測定することに初めて成功した.この無反転分布下でのユニークな分散的ブロッホ利得は,半導体超格子中でブロッホ振動する電子の振動の位相が,古典的な調和振動子のそれに比べて90°シフトした特異な振動であることを反映したものである.これにより,ブロッホ発振器/増幅器の実現に向けたブロッホ利得の物理的な基礎を与えることができた.
本稿ではFourier-domain光コヒーレンストモグラフィー(FD-OCT)の概論から始まり,Time-domain OCT (TD-OCT),FD-OCTの比較,OCTのプローブ波長の比較を行う.その後,実例をあげつつ830nm帯域のスペクトルドメインOCT (SD-OCT),1.3μm帯域のSwept-source OCT (SS-OCT)に関して解説を行う.また,TD-OCTとFD-OCTの感度特性の比較,SD-OCTとSS-OCTの比較を行い,最後に,OCTの新しい波長帯域である1.04μm帯域の可能性を紹介する.
スピン秩序と双極子秩序が同一結晶内で共存する相共存状態を得るための物質設計について概説し,強磁性強誘電性状態を得ることが非常に困難であるということを述べる.しかしながら,応用上興味のある「磁性と誘電性という多自由度の交差相関」に関しては,最近大きな進展がみられている.本稿では,多自由度の交差相関を示す例をあげるとともに,反強磁性強誘電体YMnO3において観察された「磁気整列による強誘電性分極反転の抑制」と「誘電率の磁場制御」に関する研究結果を紹介する.
原子や分子レベルの現象をコンピューター上で再現する分子動力学シミュレーションが,近年,物理,化学のみならず,さまざまな分野で盛んに行われるようになっている.ここでは,古典系の分子動力学シミュレーションについて,系の構成から実際の計算の流れまで,例をあげながら解説を行う.あわせてMD計算の手法として,運動方程式の数値解法を紹介する.