ガラスは望遠鏡から天文学を,顕微鏡から生物学を興し,人類の発展に貢献してきた.一方,現在の先端技術を駆使する「ナノガラスプロジェクト」は,ナノレベルからガラスの無秩序性や微細構造を自由に制御することにより,従来のガラスの枠を超えた全く新しい機能を引き出すことを狙っている.つまり,透明で熱・化学的安定性に優れ,しかも傷がつきにくいという他の材料にはないガラスの特徴を,さらに飛躍的に生かせることとなる.この成果を応用して,わが国のガラス産業が,光情報通信,エネルギー,環境の未来の分野で世界をリードする新製品を創出して国際競争力を高めるとともに,新たな市場の開拓を通じて社会貢献を果たすことを目指す.
非晶質(アモルファス)セレンの電子写真感光体ドラムへの応用に始まるアモルファス半導体材料の研究は,水素化アモルファスシリコンの出現によって大きく展開され,その基礎が築かれてきた.アモルファス有機半導体においても同様である.アモルファス半導体材料の理解と応用展開が進むにつれ,アモルファス半導体が抱える問題点も明らかにされ,その限界を超える新しい材料開発の取り組みも行われ始めた.本稿では,大面積電子デバイス用半導体材料の開発という観点から筆者らが取り組んだアモルファス半導体材料の研究を基盤とする二つの新しい材料開発の取り組み,すなわち,低温CVD多結晶シリコンと液晶性有機半導体を例に,非晶質半導体材料の研究から非「非晶質」半導体材料への取り組みを紹介する.
薄膜シリコン太陽電池モジュールのさらなる効率向上を目指して,新規開発透明中間層を用いた新しい光閉じ込め型2層積層薄膜シリコンモジュールを開発した.本新規開発透明中間層は,屈折率を1.7(600nm)まで小さくすることが可能で,最適な内部反射構造を得るための膜厚を薄くでき,ボトム電流ロスを抑えることができる特徴がある.特にモジュールを形成する際の横方向の漏れ電流をも抑えることが可能となり,基板サイズ910mm×455mmの大面積シリコンハイブリッド太陽電池モジュールで初期変換効率13.4%を達成した(産業技術総合研究所で本モジュール特性は確認).また,本新規開発透明中間層を3層積層薄膜シリコン系タンデム型セルに適用することで,セル面積1cm2 にて初期変換効率15%を達成した.
2nsから160sにわたる超広帯域直交周波数分解寿命分布測定法(QFRS)によって,水素化アモルファスSiのフォトルミネッセンス(PL)寿命分布は,よく知られているダブルピークではなく,〜μs,〜ms,〜sにピークをもつトリプルピークであることを見いだした.また,PL減衰の時間分解測定を加えて,未解決であった光誘起電子スピン共鳴(LESR)とPLの結果との不一致を解決した.さらに,トリプルピーク寿命分布は,カルコゲンを含む非晶質半導体に普遍的に存在することを確かめた.温度,励起強度や励起光エネルギー,磁場依存性などから,非晶質半導体のPLは,一重項,三重項励起子とdistant pair (DP)再結合の三つに起因することを明らかにした.
1980年代末に非晶質Si膜を用いて実用化された薄膜トランジスタ(TFT)は,エキシマレーザー溶融・再結晶化(ELA)法を活用した多結晶Si TFTへと発展した.このTFTは,チャネルに比べて細長い結晶粒のアレイを用いることにより,移動度の向上と特性揺らぎの改善を同時に達成する第二世代へ,そしてさらには,位置制御した大結晶粒の中に複数の微細TFTを配置して,シリコン・オン・絶縁体(SOI)に匹敵する高性能回路をガラス上に実現する第三世代(いわゆるシステム・オン・グラス技術)へ発展するであろう.本稿では,エキシマレーザー光を位相変調して所望の光強度分布を作り,Si大結晶粒アレイを形成する最新技術について紹介する.
CuInSe2 (CIS)系薄膜太陽電池は,光吸収係数が半導体の中で最大のCIS系カルコパイライト薄膜をp型光吸収層とし,n型透明導電膜とpnヘテロ接合を形成したデバイス構造である.CIS系薄膜太陽電池は現在,ラボベースの研究開発成果(すなわち,大面積・集積型デバイスの製造要素技術)をパイロット製造で検証する段階に来ている.本稿では,CIS系薄膜太陽電池の技術開発をリードし,2007年から年産20MWと15MW規模での製造に移行する2社(それぞれ昭和シェル石油とWurth Solar社)の製造技術を中心に,CIS系薄膜太陽電池の現状と課題を報告する.
分子の配向制御は,高機能有機デバイスの実現において不可欠である.これまでさまざまな配向技術が研究されているが,ここでは,固体基板に高分子ブロックをこすりつけることにより,基板表面に高分子の一軸配向薄膜を付与する摩擦転写法について紹介する.また,この方法によって作製した共役系高分子配向薄膜を利用した有機デバイスとして,偏光発光素子,偏光光電変換素子への応用についても言及する.
次世代大面積エレクトロニクスを支えるプロセス技術として,従来にない新しい短時間熱処理技術が強く求められている.本稿では,大気圧下で発生した熱プラズマジェット照射によるミリ秒超急速熱処理技術について紹介する.レーザー光を用いたミリ秒時間分解能非接触温度測定技術,非晶質シリコン膜のミリ秒時間における相変化過程について述べ,結晶化したシリコン膜を用いた薄膜トランジスタ(TFT)の性能について紹介する.
ゾルゲル法により合成したSmイオン添加アルミノシリケートガラスにX線を照射すると,Smイオンは通常安定な3価から2価状態へ容易に還元されることを見いだした.このSm2+イオンは室温で永続的な光ホールバーニングを示し,その形成速度は1秒以下と速いものであった.本稿では,X線照射により生成したSm2+イオンの蛍光特性とPSHB特性について,最近の結果とともに紹介する.
低誘電率薄膜が旧来の非晶質(アモルファス)から機能基を含有した膜へと変貌しており,SiOC系で盛んに取り入れられている.低誘電率ではあるがプロセス整合性に欠けるフッ化炭素膜についても,そのような機能基の含有が可能であり,従来のフッ素化アモルファスカーボンをしのぐ機能性をもたせることができる.その最初の例として,ベンゼン環構造の含有による低誘電率と高耐熱性の両立,ならびにその場赤外吸収分光法による反応メカニズムについて述べる.
ゲートラインエッジラフネス(LER)がゲート長50nm以下の微細n-MOSFETにおける二次元キャリア分布へ及ぼす影響を直接評価した結果を紹介する.ゲートLERにより誘起されたエクステンション分布の揺らぎが注入条件に強く依存することを,走査型トンネル顕微鏡を用いて観察した.窒素注入により不純物拡散を抑制すると,エクステンション分布の揺らぎが大きくなった.キャリア分布の揺らぎから予想したとおり,不純物拡散を抑制すると,デバイス特性のばらつきが大きくなることを確認した.
原子・分子の運動をより正確に再現し,有益な知見を得るために,さまざまな分子動力学的計算の方法が開発されてきた.その中でも実用上特に重要な,系の温度や圧力を制御する方法,分子間相互作用の取り扱い方,長距離まで及ぶ静電相互作用の計算法,剛体分子の運動の追跡方法,そして計算結果から物理量を求める方法について解説を行う.最後に,分子動力学法を用いた研究例を紹介する.