資源環境問題は,近代の科学技術総体によって引き起こされたと考えるべきである.したがって,これを解決するためには個々の局面で適切な方法を開発するだけでなく,問題を総体的にとらえる必要がある.そのためにはエネルギー,エントロピーといった熱学的な概念が有用である.廃棄物が環境に与える負荷を,エクセルギーによって評価しようという試みがある.さらにさかのぼって,近代科学の根底である分析的方法では考慮から除かれる部分が必ずあることをいつも考えに入れ,でき上がった科学技術の体系からではなく,現実の問題から出発して柔軟に対応する必要がある.
昨今の環境保全とエネルギー資源の有効活用という視点から,移動体としての自動車は従来の内燃機関システムから,電気駆動とのハイブリッドシステムへ急速にシフトしつつある.さらに長期的には,燃料電池自動車の実用化も期待されており,二次電池や燃料電池の要素技術の開発がいっそう活発になってきた.これらのブレークスルーは,エネルギー素材技術の進化にかかっており,素材メーカーを巻き込んだ協業と競争が交錯している.モバイル用でも使用時間の拡大ニーズが大きく,燃料電池の実用化が見込まれているが,自動車用燃料電池に比べてコスト低減幅は現実性があり,2年以内での実用化が期待されている.
色素増感太陽電池の変換効率向上に向けた要素技術を紹介する.まず,色素増感太陽電池の等価回路モデルを考察し,太陽電池を構成する各種内部抵抗とセル特性との関係について論じる.次に,この等価回路モデルに基づいた,短絡電流,開放電圧,曲線因子を向上させる技術,および,高効率化のための正確な評価技術を紹介する.これらの取り組みにより,国際的な標準試験機関による評価で世界最高の変換効率(10.4%)を達成することができた.さらに,色素増感太陽電池に関する最近の研究動向を概観した後,今後の展望について述べる.
環境負荷の少ないエネルギー源として燃料電池に期待が集まっており,その期待はパーソナル用のモバイル燃料電池にも向けられている.本稿では,モバイル用途に最も有力視されている直接メタノール形燃料電池(DMFC)に焦点を当て,研究開発の現状と課題について筆者らの研究を交えながら解説する.DMFCは,水素燃料を使用するタイプと比較して小型軽量簡素化が図れるが,その反面,燃料の反応が複雑で反応速度や反応効率の低下をきたす.まずDMFCの構成と動作原理について概観し,次いで電極反応の効率の低さと新しい電極の開発,出力低下に直結するメタノールクロスオーバー現象とその対策について述べる.さらに,モバイル用途に特化したシステム化技術について紹介する.
電子ペーパーは,紙メディアの読みやすさと電子ディスプレイの情報書き換え機能を兼ね備えた人と環境に優しい情報表示媒体としての利用が期待されている.なかでも,電圧などの外部エネルギー印加により分子の配向や粒子の移動を制御することにより表示を行う電子ペーパー技術が精力的に研究開発されている.本報告では,カプセル型電気泳動方式や空気中粒子移動型トナー方式などの原理と特徴について説明する.電子ペーパーは薄膜軽量,フレキシブル,カラー,超低消費電力などの特徴をもち,電子書籍,電子ポスター,電子棚札などへの利用が進んでいる.
酸化チタン光触媒は,光照射下において有機物を分解し,表面を超親水化するなど優れた作用を発現する.これらの優れた光触媒作用は,環境浄化(大気,水質,土壌など)やセルフクリーニング効果を有する各種建材など,さまざまな用途で実用化されている.また,酸化チタン光触媒は,水を水素と酸素に分解するなど,光エネルギーを化学エネルギーに変換・貯蓄する人工光合成型の反応をも誘起する.本稿では,光触媒の作用機構の基礎原理,環境浄化とクリーンエネルギー創製への応用について解説するとともに,最近の可視光応答型酸化チタン光触媒の開発研究の動向について述べる.
現在,石油を原料として世界で年間約1億4千万トンものプラスチックが生産され,われわれの豊かで快適な生活を支えている.このプラスチックは,原料の石油が枯渇の心配される有限化石資源であること,廃棄物が環境破壊の原因となり,また大気中の二酸化炭素を増加させるなど多くの環境・エネルギー上の問題点を抱えている.本稿では,これらの問題を解決するプラスチックとして期待されている生分解性プラスチック,特に石油ではなくて再生可能資源から生産される生分解性プラスチックについて解説する.
現在,重金属や有機塩素化合物による土壌・地下水汚染が大きな問題となっている.浄化技術として物理化学的手法が用いられているが,よりコストの安価な生物を活用して浄化するバイオレメディエーション技術が注目されている.バイオレメディエーション技術の基礎と現状について解説する.