薄型テレビや白色発光ダイオードの急速な進展に伴い,蛍光体の研究が活発である.蛍光体には複雑な組成のものが多いが,原型となる単純な物質と比較して,多元系化合物であることのメリットとデメリットを説明する.まず,プラズマテレビ用蛍光体の真空紫外光による励起機構について議論する.次いで,白色発光ダイオード用希土類添加蛍光体,特にケイ窒化物,ケイ酸窒化物新材料の結晶構造と発光色や効率の温度特性の関連について,最近の情報をもとに解説する.
無機EL研究において,長年の懸案であった高輝度青色発光は,BaAl2S4:Eu蛍光体薄膜の開発により達成され,その後も関連する希土類添加多元系化合物材料が系統的に開発されている.これらの材料における発光波長に,最近接イオンの電子軌道状態に加え,第二近接イオンの影響が重要であることを紹介し,発光波長の制御に蛍光体の多元化が有効であることを示す.
Novel rare-earth doped ternary and multinary nitride-based phosphors are described from the aspects of the classification of nitride compounds, unconventional properties of rare-earth ions in the local nitride surroundings and the practical applications for white-light LEDs. According to the types of the host lattices, the luminescence properties are given in details from pure nitride, oxynitride and carbonitride phosphors with a focus on the relationship between the crystal structure/composition and luminescence of Eu2+- and Ce3+-activated silicon nitride based materials.
シリサイド半導体の研究は,鉄シリサイド(β-FeSi2)を中心に行われており,最近では強磁性体Fe3Si と組み合わせるなど新しい展開を見せている.一方,アルカリ土類金属とSiの化合物であるシリサイド半導体にはMg2Si,BaSi2などがあるが,一般にはなじみがない.Mg2Siは,SiサイトをGe,Sn,Pbと置換することで,禁制帯幅を0.7eVからゼロギャップまで制御できる特長がある.一方,BaSi2はカルコパイライト並みの非常に大きな光吸収係数をもち,BaサイトをSrで置換して禁制帯幅を1.3eVから拡大できるなど,従来のSi系半導体にはない特長をもつ.本稿ではBaSi2を中心に,作製方法,電気特性,光学特性,バンド計算の現状を紹介し,応用を含めて将来展望を述べる.
「電子が空間的にどう流れるか? 時間的にどう揺らいでいるか?」という問題は,デバイス研究における古くて新しいテーマである.本稿では,この問題に対して画像観察による直接的な探求を可能にする走査型エレクトロメーターについて概観し,最近,筆者らが独自に開発した,量子ホール効果を利用したエレクトロメーターを解説する.このエレクトロメーターでは,大きなシュブニコフ・ドハース振動を用いて,高感度・高速な電圧検出が可能である.この技術を量子ホール伝導体に適用することで,ホール電圧分布と雑音電圧分布の画像観測に成功した.本研究から,電圧の時空間特性の微視的な観測が,電荷ダイナミクスを探求する強力なツールとなることを紹介したい.
FD-SOI CMOSは,その急峻なオフ特性から超低消費電力LSIのキーデバイスとして期待されている.また,MOSFET微細化の究極解としても精力的に研究が進められている.ただ,IBMの実用化発表以来,プロセッサーへの応用を中心に実用化が進展しているPD -SOIに比べて,FD-SOIの実用化の事例は少ない.ここでは,実際に製品に適用されている技術を例に,FD-SOIデバイス技術の現状を述べる.また,製品応用の中でFD-SOIの特徴がどう使われたかを概観する.さらに,今後応用を拡大するための回路技術への期待,FD-SOIの特徴である低リーク電流を維持する実用的なデバイス技術,FD-SOIデバイスの将来展望を述べる.
新しい環境調和型発電システムの一つとして,高温物体からの熱放射を光電変換(PV)セルにより起電力に変える熱光起電力(Thermophotovoltaic : TPV)発電システムが注目を集めている.本システムは太陽光の集光熱,工場の廃熱や燃焼熱などの放射熱を利用でき,可動部がないため騒音が少なく,半導体をベースにした低公害設計が可能である.本稿では,TPV発電システムの現状と,要素技術の一つである選択放射型エミッターとして有望な選択放射特性を有する,希土類元素を添加したMGC材料の基本特性について紹介する.
本稿では,酸化亜鉛(ZnO)結晶成長機構の理解とその応用に向けて,密度汎関数法に基づく第一原理計算を用いて,ZnO(0001)表面上Zn,O吸着原子の動的過程を検討した.第一原理計算の結果から,Zn極性面である(0001)面に対して,Zn過剰の成長条件がウルツ鉱型構造を形成し,結晶成長を促進することを示した.しかし,同時にO(酸素)吸着原子は表面拡散能力が低いことも判明しており,ZnO結晶の高品質化には,高温成長条件など「吸着原子の表面拡散を促す諸工夫」が重要となる.ZnO成長の表面原子構造に着目した第一原理計算によって得られた知見が,実験で観測されるZnO(0001)系全体の諸現象を予見しうることが,本研究の動的モンテカルロ・シミュレーションにより示された.
超高速全光スイッチとして,量子井戸のサブバンド間遷移を用いたスイッチの研究開発を進めている.通信の波長帯である1.55μm帯でのサブバンド間遷移スイッチを実現するには,深い量子井戸でかつ数nmの超薄膜量子井戸を用いる必要がある.ここでは,筆者らが開発を進めている,III-V族のInGaAs/AlAs/AlAsSb,II-VI族のCdS/ZnSe/BeTeの材料系の量子井戸を用いたサブバンド間遷移スイッチについて,開発の現状と課題について報告する.
古典的分子動力学法シミュレーションの,現時点における役割と応用を,実験結果の解析,分子シミュレーションでなければ見ることができないもの,およびナノとマクロの橋渡しという観点から例をあげて概観し,今後を展望する.また,有効な分子シミュレーションを行うために不可欠な原子・分子間相互作用モデルの現状と可能性について述べる.