低温プラズマ化学の医薬学的応用研究の一環として,高分子のプラズマ反応特性を利用する薬物送達システム(DDS)を開発した.本方法では,薬物含有二重錠剤の外層に用いる高分子とプラズマ照射条件の選択により,錠剤からの薬物放出の速度やタイミングを自在にコントロールすることが可能である.現在,その特徴を利用しておのおのの患者に最適なDDSを提供するテーラーメイド型DDSの開発研究を展開している.
X線の位相シフトをコントラスト形成に利用することで,生体軟組織などの弱吸収物体の観察が可能となる.この10年の間に,いくつかの方法が提案され,その有効性が実証されている.医用画像工学分野において,その特徴はきわめて魅力的であり,その実用化が大いに期待される.ただし,シンクロトロン放射光の利用が多くの場合で前提になっており,それが実用化の障害になっている.ここで紹介するタルボ(・ロー)干渉計による方法は,コンパクトなX線源との組み合わせを可能とし,X線位相イメージング実用化に向けたブレークスルーとして期待されている.
光トポグラフィーは,人間の脳機能を無侵襲に動画像計測する分光計測技術である.この技術は,ほかの脳機能計測技術と比べて,被験者に対する安全性が高く,拘束性が低い特長を有する.そのため,従来は困難であった分野への脳科学応用を実現するツールとして期待されている.本稿では,光トポグラフィー技術の基礎を解説するとともに,主な応用研究を紹介する.また,現状の課題と今後の展望について述べる.
陽電子放射型断層画像診断(PET)装置は,がんや脳血管障害,認知症などの早期発見に大きく貢献している.従来技術では,陽電子が消滅する際に消滅放射線の検出感度と位置情報精度の両立に課題があり,PETの潜在能力を十分引き出すことができなかった.この課題を克服するために,高感度と高解像度を両立する三次元放射線位置検出器を新規に開発した.新規検出器は,検査対象に近接させても解像度が低下しないことが大きな特長である.これを実装した次世代の頭部用PET装置を試作し,従来の装置に比べて3倍の感度と1.5倍の解像度を達成することに成功した.
Blu-ray,HD-DVDに続く,第4世代の光メモリーとして最近にわかに注目度を高めているホログラフィックメモリーに関して,研究の歴史について簡単に振り返った後,現状の研究・開発の主流となっているポリトピックとコリニア(コアキシャル)の二つのシステムについて解説する.記録メディアとその性能指数のいくつかについても簡単に解説し,今後の課題と展望に関してもふれる.
陽子線治療の施設の概要と,それによるがん治療の現状を説明する.筑波大学の新施設は,いくつかの改造の後,十分な性能を達成し,治療運転の実績が得られている.本報告ではまた,実用的観点から陽子線治療の研究・開発の展望について述べる.
マイクロ・ナノ工学と宇宙工学は親和性のよい組み合わせである.最近,宇宙マイクロ・ナノ工学として,材料,デバイス,マイクロシステムに関する研究開発が世界中で展開され,電子的・機械的機能を基板上に集積化して構成する人工衛星,シリコンナノサテライトも提案されている.本稿では,次世代超小型衛星(<10kg)の姿勢・軌道制御に不可欠なマイクロスラスターについて,マイクロ電気推進技術の研究開発動向・課題とともに,〜mmサイズのマイクロプラズマスラスターの研究を紹介する.マイクロ波励起マイクロプラズマとマイクロノズル流れの特徴に注目し,数値解析と実験により,この構成が実用に必要な推進性能を与えることを示す.
まず,仕事関数の定義,電子的描像,最近の第一原理による仕事関数計算などについて述べ,仕事関数がバルクのみではなく表面の結晶配列や欠陥などに敏感な物性量であることを示した.次に,仕事関数の測定法についていくつか紹介するとともに,測定の注意点について触れた.さらに,仕事関数の異なる二つの表面の接触=界面へと仕事関数の電子的描像を拡張し,電極材料開発で問題となっている実効仕事関数制御へと関連づけした.
高エネルギーナノ秒パルスレーザー光を光吸収材(ターゲット)に照射することにより,立ち上がり速度が速く(>108 MPa⋅s-1),ピーク圧力の高い(数十MPa),圧縮性の応力波を発生させることができる.われわれは,このレーザー誘起応力波(LISW : laser-induced stress wave)を細胞ないし生体組織に作用させることにより,高効率な遺伝子導入が可能であることを実証した.遺伝子の発現はレーザー照射部に限局して観測され,高い空間選択性が得られることがわかった.本稿では,このLISWを用いた遺伝子導入に用いる実験装置とその特性,および各種培養細胞と動物の皮膚組織,脳組織への遺伝子導入の実例について紹介する.
多孔質結晶であるゼオライトのナノ空洞に金属原子を導入することにより,金属クラスターが周期配列した三次元金属超格子構造を作製できる.ゼオライト中の配列金属クラスターでは,クラスター間の相互作用により構成元素からはおよそ想像できない電子物性が発現することが報告されている.クラスター間相互作用の制御ができれば,多様な物性・機能が期待されるが,半導体超格子構造における量子井戸間の電子のトンネリング制御技術に類似した手法により,これを実現できることがわかってきた.金属クラスター集積体の三次元周期ポテンシャルの制御法について紹介する.