超音波技術とエレクトロニクスの融合技術である超音波エレクトロニクスは,さまざまな産業分に適用され,その分野の新たな展開・発展に貢献してきた.ここでは,近年の発展が著しい超音波エレクトロニクスの現状と,その基盤技術となる非線形音響技術について述べる.また,微小気泡利用技術や熱音響技術などいくつかの次世代技術についても,その概要を紹介する.
ナノオーダーの線幅の素子の普及に伴い,材料や素子のナノ領域の評価が重要になってきた.ここで表面下を見るには,力学特性計測が有利である.本稿では,この計測のために開発された音響力顕微鏡と総称される方法を紹介し,微小素子内部のき裂,剥離,および強誘電体材料の分域や分域境界の力学特性評価への応用を示す.
超音波の精密計測によって物質中の動的な物性を研究する手法が,超音波スペクトロスコピーである.特に分子の内部自由度などのミクロな運動が超音波伝搬に関与する高周波領域においては,熱揺らぎにより励起されたフォノンの光散乱分光がその主役となる.本稿では,最近のフォノン計測の発展について概観し,また光と超音波の相互作用を利用した新しい計測法を紹介する.
Si基板上に形成された微細構造コーナー部の丸めや側壁表面の平坦化に対して,水素雰囲気中での高温アニール処理が有効であることが明らかになってきた.トレンチ型絶縁ゲートトランジスタはパワーデバイスやパワーIC分野で大きな発展を遂げているが,本稿では当該デバイスのトレンチ構造コーナー部の丸めや側壁表面の平坦化がどのように進行するのかを解説した.断面SEMや表面AFMなどの微視解析手法で観測した実験結果とその理論的解析結果を紹介し,当該物理化学現象における微視的描像を示した.また,この一連の取り組みの中からトレンチコーナー丸めや側面の平坦化などのナノレベル制御に有用である具体的処理指針が得られたことにも言及した.
次世代の極端紫外線リソグラフィー(EUVL)技術においては,超均質なゼロ膨張ガラスの開発が要である.その評価・分析のために,直線集束ビーム超音波材料解析システムを用いた新しい超音波手法を提案している.本方法は,「試料表面」に励振・伝搬される弾性表面波モードを用いて,非破壊・非接触的に二次元的にきわめて高い精度で速度測定できるという特徴を有しており,EUVLグレードのガラスの研究開発,生産ロットの品質管理・選別における標準評価法として期待できる.本稿では,市販のTiO2-SiO2 超低膨張ガラスを取り上げ,その有用性と実用性を検証した結果をまとめている.
微小物体を非接触で操作するためには各種手法があるが,超音波の音響放射圧を用いることも可能である.本稿では,超音波マニピュレーションに関する研究のこれまでの動向について述べるとともに,筆者が取り組んできた研究の一例を示す.流体媒質中に生成した定在波音場中では,音圧の節に物体を捕捉することができ,音波の位相を制御することで,捕捉した微小物体を非接触で操作できることを示す.
シリカガラスは,電子材料としても光学材料としても重要な物質である.ガラスの性質は一般に,冷却速度によって変化する.組成が同じで構造および性質の異なるガラス試料を区別するため,融液がガラスに変化したと考えられる温度として,ガラスの仮想温度という概念が使われる.シリカガラスの仮想温度は赤外分光計を使って簡単に測定でき,その一定温度での経時変化からガラスの構造緩和速度を決めることができる.これらの測定から,シリカガラス表面層の構造緩和速度は,ガラス内部の構造緩和速度に比べて速いことがわかった.この現象のため,シリカガラスの表面や薄膜,ファイバーや微粒子などは,同じ熱処理後でもバルクのシリカガラスとは異なった性質をもつ場合がある.
アモルファスシリカは,シリコン酸化膜,光ファイバーなどさまざまな分野で基幹材料として用いられている.しかし,これまでその微粒子状態の構造や物性については,十分に研究されることがなかった.近年,筆者らは粒径が数〜数十nmのアモルファスシリカ微粒子が,バルクや薄膜状態とは異なる興味深い構造,物性を有することを報告した.本稿では,アモルファスシリカ微粒子特有の構造的特徴について述べるとともに,同微粒子およびその焼結体で観測される多彩な可視発光現象について紹介する.
金属,半導体,磁性体と多彩な性質を示す鉄シリコン化合物の中で,半導体鉄シリサイド(β-FeSi2)は,Si基板上へのエピタキシャル成長が可能なことから,Siベースのオプトエレクトロニクス材料として期待されている.しかし,高品質なバルク単結晶の成長が難しいため,その諸物性については十分な研究が行われていない.本稿では,溶液成長法による β-FeSi2 バルク単結晶の成長技術と,得られた単結晶の電気的特性,光学的特性,構造特性について紹介する.
有機分子材料の中でも,導電性高分子は最も盛んに研究されている材料の一つである.炭素原子間の一重結合と二重結合が交互に繰り返したπ共役系の分子骨格を有し,有機半導体としての優れた電子光機能性を示す.また,薄膜形成が容易であることから,低コストのエレクトロニクス材料として注目される.現在,高分子EL素子,電界効果トランジスタ,太陽電池などへの応用研究が盛んに行われている.ここでは,これらの素子へ用いられる代表的な高分子材料を中心として,その分子構造や,薄膜の構造と電気的,光学的特性について紹介する.また,デバイス中のキャリアのミクロ観測についても紹介する.