CD-Rは日本発の開発商品である.今日までに音楽CD,CD-ROM,DVDなど世界に普及したさまざまな情報家電機器に影響を与え,大きなイノベーションの一つとなった.CD-R,またその後継商品であるDVD-Rの開発と発展の歴史を振り返ると同時に,そこから導き出されるイノベーションの変化を検証する.
メタルゲート技術,高誘電率ゲート絶縁膜技術は,CMOS LSIの微細化,高性能化を今後とも継続して進めていくための重要な技術である.Hf系高誘電率ゲート絶縁膜は,その形成プロセスを最適化することにより,酸化膜換算膜厚0.8nm程度までスケーリング可能であり,ハーフピッチ32nmの世代へも適用可能性があることを示す.メタルゲート技術は,インテグレーション方式や必要とするデバイス特性を考慮して,ゲート電極材料やゲートスタックの構造を選択する必要があることを指摘する.また,今後の課題と展望についても述べる.
微細化によらない性能改善する手段として昨今注目を浴びているのが,トランジスタのチャネルに応力を印加し,ひずみを発生させることで移動度を向上させる「ひずみ技術」である.特にnMOSFETとpMOSFETそれぞれ個別最適化したひずみを与える「局所(ローカル)ひずみ印加技術」に,その微細トランジスタでの印加効率の高さゆえ注目が集まり,実用化へ向けての開発が加速し,一部実用化された.本稿では,提唱されている各種ローカルひずみ印加技術とその課題を概観した後,次の世代の新材料を視野に入れたひずみ技術とひずみ技術の信頼性について述べる.
持続可能な社会を構成する素材技術として,エコマテリアルの基本的な考え方とその進化,および現段階でのエコマテリアルのアプローチを紹介する.エコマテリアルのアプローチには,低環境負荷の資源で作られた材料,低環境負荷のプロセスで製造やリサイクルできる材料,使用時の生産性を上げて製品の環境効率(性能/環境負荷)を高める材料,周囲の環境を改善しながら使うことのできる材料,環境に影響のありそうな物質を使わない,もしくは回収できるようにした材料,リサイクル性の高い材料がある.さらに,第二世代のエコマテリアルとして,資源負荷を抑えながら高機能を引き出す資源生産性向上の必要性を述べ,そのための「代替」「減量」「循環」「規制」の戦略的アプローチを強調する.
半導体は,これまで微細化で大成功してきた平面型の構造から,立体型の構造に脱却しようとしている.このことにより,本来人間が欲していた性能の電子機器が実現する可能性が高まる.本稿では,この立体化する半導体素子を実現するための不純物ドーピング技術として,プラズマドーピングに関して,筆者のグループの開発を中心にご説明する.
大気圧プラズマを利用した薄膜形成は,低温での高速成長や,真空装置の簡素化が可能であることから,一般に,低コスト成膜法として注目されている.最近この方法により,表面へのイオン損傷のない非常に高品質な膜形成が可能であることが明らかになってきた.ここでは,筆者らが独自に開発した多孔質カーボン電極を用いた大気圧プラズマCVD法を,Siエピタキシャル成長に応用した結果を紹介する.4インチ(001)CZ-Siを基板とし,520〜570°Cにおいて0.22〜0.35μm/minで高速成長したエピタキシャルSiが,用いた基板Si結晶より優れた品質を有していることを示す.
ダイナミックRAM(DRAM)において重要な問題となっているデータ保持時間の変動現象,VRT(Variable Retention Time)について,筆者らの最近の結果をもとに紹介する.この現象は,データ保持時間が2値化され,その間の遷移が繰り返される双安定性現象であり,DRAMのメモリーセルのトランジスタに含まれるたった1個の双安定結晶欠陥がその原因と考えられる.筆者らはトランジスタ内部の結晶欠陥の観察結果から,その微視的起源をシリコン空孔-酸素複合欠陥(V2Ox 欠陥)と考えた.本稿では,この欠陥とデータ保持時間の2値化がどのように結びつくのかを説明したい.
透過電子顕微鏡による三次元観察手法は,生物系試料を用いて一定の成果を収めてきた.近年,この技術を材料系試料にも応用した観察例の報告が相次いでいる.観察対象は,有機・無機・金属材料から電子デバイスまで幅広い.その背景には,三次元観察に適した電子顕微鏡や画像処理手法,試料作製技術の進展がある.本稿では,半導体デバイス中の配線やトランジスタを三次元的に観察した結果を紹介し,三次元計測や不良解析技術への応用と可能性について議論する.
第三世代放射光源で初めて可能となった高エネルギーX線領域での全反射ミラーの開発を行った.ベント研磨による非球面ミラーを作製し評価したところ,90keV程度までの領域で1μm以下という集光サイズが得られた.このマイクロビームをX線顕微鏡のプローブとして応用し,Cd高蓄積性植物の組織中における元素分布を明らかにした.また,Asを集積する堆積岩についても分析を行い,特徴的なAsの集積形状を見いだした.さらに,マイクロ-XAFS測定により,Asの化学形を決定することができた.
有機分子材料を念頭に,電子状態理論の基礎について,今回と次回の2回にわたり解説する.電子状態計算は材料の物性を理解し,分子設計や新規機能の開拓を行ううえで有用な手段の一つである.今回は,電子状態計算の基礎となるハートリー・フォック近似と密度汎関数法を概説した後,構造緩和,イオン化ポテンシャルと電子親和力,有機固体の電子状態について議論する.