超伝導フィーバーをもたらした高温超伝導材料も,発見されてから20年以上の年月がたちました.その間に,酸化物系超伝導材料として,液体窒素温度を超える超伝導材料が続々と発見されました.さらに7年ほど前には,非酸化物系超伝導材料として最も高い臨界温度を有するMgB2も日本で発見されました.
このように華やかなスタートで多くの研究グループの興味を引いた高温超伝導材料ではありますが,これまでの金属系材料ではなくセラミックス材料であるため,技術的応用に関してはセラミックスの脆さなどの課題が予想されていました.しかし,超伝導研究開発に携わる研究者の20年間における技術蓄積に伴い,高温超伝導材料製造技術が飛躍的に向上し,実用化に向けて進展しています.例えば,超伝導線材の分野では,1.6 km 以上の高性能Bi系高温超伝導線材の作製技術が構築され,磁場中応用が期待されるY 系テープ状線材においても500 m 長の高特性が得られるようになり,さらなる技術革新が行われています.これらの技術の進歩により,高性能超伝導線材を大量に用いた超伝導パワー応用や磁場応用の分野への道が急速に拓けています.
そこで,材料,線材,デバイスの各面から,「実用化に向けた高温超伝導材料技術の構築」というテーマで小特集を組むことにいたしました.また,実用化に大きな貢献を与えている産官学の連携についても紹介します.
高温超伝導材料が実用化されれば,エネルギー輸送や情報通信などの分野で省エネや高速化といったインパクトが期待され,グローバルネットワークが可能となります.会員の皆様には,「高温超伝導材料の実用化への道」における材料科学研究のだいご味とその背後にある物理の世界を味わっていただくとともに,応用面での重要性あるいは将来性に関する理解を深めていただけたら幸いです.
磁気記録はこれまで,磁気テープやディスクを平面(水平)方向に磁化する記録方式をとってきた.これに対し,本稿では,磁性面を垂直に磁化する垂直磁気記録方式について,その発明,開発,実用化に至る経過について述べる.高密度の記録性能が優れているために水平方式から垂直方式への転換が急速に行われており,ハードディスク装置(HDD)の本年出荷量の75%が垂直型になり,2008年にはすべてが垂直型(世界で5億台以上)に変わる予定である.
高温超伝導の発見後20年が経過し,現在,高温超伝導体を用いた実用線材が製造され,電力応用や産業応用に向けた実証試験が次々と行われるようになってきた.高温超伝導体が長い研究開発の時を経て,夢の材料として再び表舞台に姿を現してきたといえる.そこで重要となるのが,量子化磁束のピン止めだ.超伝導体の臨界電流密度Jc は,ピン止めの強さによって支配される.現在,ナノテクを使って,高温超伝導体に人工的なピン止め点を導入し,高温超伝導が有する高いJcを引き出す新しい技術が生み出されつつあり,注目されている.
MgB2 は,その超伝導の発見からすでに6年以上が経過し,材料科学的研究に基づいて,臨界電流をはじめとする諸特性は向上しつつある.1kmを超える長尺線材や種々の応用システム試作も進められ,MgB2 線材マグネットを使用した冷凍機冷却型のMRI試作機で頭部断層写真が撮像されるまでになっている.本稿では,応用超伝導機器への適用を念頭に置きつつ,材料科学面の研究成果や線材開発の最近の動向を交えながら,MgB2 超伝導材料開発に関して俯瞰的に報告する.
酸化物高温超伝導ジョセフソン接合を用いて単一磁束量子回路を構成すると,テラヘルツ領域でも動作する超高速低消費電力デジタル集積回路の実現が期待できる.従来は構造の単純さから,高温超伝導薄膜をエッチングした薄膜側壁にジョセフソン接合のトンネル障壁層を形成するランプエッジ構造が主流であったが,最近では,より集積化に適した積層構造のジョセフソン接合も高い性能を発揮できるようになってきた.本稿では,高温超伝導ジョセフソン接合の最近の動向に関して,筆者らのグループの研究を中心に紹介する.
銀河宇宙線中に含まれる多様な超重核同位体成分の高精度観測は,まだ解き明かされていない宇宙線の起源や加速機構,銀河空間内の宇宙線伝播の様子を詳しく調べることを可能とするだけでなく,銀河物質の歴史や星内元素合成過程に関するさまざまな情報を提供する.これら超重核成分(Z≧30) の宇宙線強度はきわめて小さいので,大面積に展開することのできる放射線検出器が必要であると同時に,優れた質量分解能が検出器に要求される.本稿では,この両点について固体飛跡検出器が優れた特性を有することを示し,高い質量分解能を有する高性能CR-39固体飛跡検出器の開発研究について紹介する.
たった1個のキャリアがMOSFETのゲート絶縁膜中のトラップに捕獲され,あるいはトラップから放出されることによって,しきい値電圧(Vth)が揺らぐランダム・テレグラフ・ノイズ(RTN)は,従来はアナログデバイスで問題とされてきたが,微細化が進むデジタルデバイスでも無視できなくなってきた.本稿では,90nm世代の浮遊ゲート型フラッシュメモリーを用い,RTNによるVth 変動の微細MOSFETへの影響を先行評価した結果を報告する.その評価の結果,RTNが複合化することでVth 変動が重畳し,Vth の大変動が起きることを見いだした.
エネルギー,環境問題は日々深刻になり,生活スタイルの改善と新技術開発の必要性が叫ばれている.この問題を解決する切り札の一つとして,廃熱から発電できる熱電変換に注目が集まっている.酸化物系熱電材料はそのほとんどが日本で開発され,世界中で盛んに研究が進んでいる.耐熱性,安全性,経済性に優れた酸化物材料を用いた発電器(モジュール)製造の開発も進み,実用化に近づきつつある.ここでは,酸化物熱電モジュールの作製技術や発電特性など最近の開発状況について紹介する.
非線形光学材料CsLiB6O10 (CLBO) の発見から産学連携による実用化,そして,その過程で研究開発した高品質結晶育成技術の,異分野連携による新しいたんぱく質結晶育成技術への展開について述べる.また,これらの技術をもとに,たんぱく質結晶化受託ベンチャー企業「(株)創晶」を設立した経緯について紹介する.
基板表面における光電子機能に優れた有機分子の凝集機構を,分子形状の観点から整理する.また,真空蒸着法による配列・配向制御された薄膜の作製法としてのエピタキシャル成長を紹介するとともに,高結晶性の薄膜を作製する最近の研究を紹介する.